誰もが「編集」する時代に、変化するライター・編集者の仕事とは

誰もが「編集」する時代に、変化するライター・編集者の仕事とは
東京・五反田のコワーキングスペースCONTENTZで6月24日、ライターや編集者の方を対象としたイベント『新しい仕事を作ろう! 変化し続けるライター、編集者の仕事』が開催された。ゲーム作家兼ライターの米光一成氏と編集プロダクション「ノオト」代表の宮脇淳氏が、これまでの足跡を振り返りつつ、ライター・編集者の未来図を描いたトークの一部始終を紹介する。
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ベテラン編集者が語る、コンテンツの未来

インターネットの登場・普及により、ライター・編集者の仕事は大きく変わった。新しいテクノロジーやそれによって変化する文化の影響で、今後も大きな変革期が訪れるだろう。次世代のライターを育成するベテランの両名は、コンテンツの未来をどのように考えているのだろうか。

【登壇者プロフィール】

米光 一成(よねみつ かずなり)さん
1964年、広島県生まれ。ゲーム作家。ライター。デジタルハリウッド大学客員教授。『ぷよぷよ』『トレジャーハンターG』『バロック』『想像と言葉』などゲーム監督・脚本・企画を数多く手がける。一方で、本やゲームのレビュー等でライターとしても活躍。宣伝会議「編集・ライター養成講座 上級コース」の専任講師、池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。編著に『男の鳥肌名言集』(角川書店)、著作『仕事を100倍楽しくするプロジェクト攻略本』(ベストセラーズ)、『自分だけにしか思いつかないアイデアを見つける方法―“企画の魔眼”を手に入れよう』(日本経済新聞出版社)、『思考ツールとしてのタロット』(電子書籍)等。ゲーム『想像と言葉』をNHKラジオやイベントなどで展開中。Twitter ID:@yonemitsu
宮脇 淳(みやわき あつし)さん
1973年、和歌山市出身。雑誌編集者を経て、25歳でフリーライター・編集者として独立。5年半の活動後、有限会社ノオトを設立した。現在は、「品川経済新聞」「和歌山経済新聞」編集長、東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」管理人を務める。企業のオウンドメディアづくりを中心に、コンテンツメーカーの経営者・編集者として活動中。今年7月には会社12周年を記念し、コワーキングスナック「CONTENTZ分室」をオープンした。Twitter ID:@miyawaki

ゲーム制作とウェブライティングの共通点

ライター交流会

宮脇:今回のゲストは米光さんです。以前からぜひ、この場にお呼びしたいと思っていました。私と米光さんは共に宣伝会議の「編集ライター養成講座」の講師を務めていて、ちょいちょい顔を合わせる間柄です。では米光さん、簡単に経歴をご紹介いただいてもよろしいですか。

米光:お呼びいただき、ありがとうございます。僕はもともと、ゲーム作家です。ゲーム会社に務めていたときに、代表作となる初代『ぷよぷよ』を作りました。そのあとに会社を辞めて、一度Tシャツ屋さんになったあと、フリーランスのゲーム作家兼ライターになって、今に至ります。

宮脇:Tシャツ屋さん、ですか……?

米光:そうなんですよ(笑)。1999年ごろにインターネットが普及し始めたのを見て「ネットでTシャツが売れるぞ!」と思ったんですね。密室の間取りを描いた「密室殺人Tシャツ」とか。

宮脇:「密室殺人Tシャツ」は聞いたことがあります。まさか、米光さんが作っていたとは。なぜ1年で辞めてしまったんですか?

米光:夏は「これはいける!」と思ったんだけど、夏が終わるとパタっと売れなくなって(笑)。Tシャツはやっぱり、夏のものですね。そんなこともあり、ゲーム制作とライターをもっとしっかりやっていこう、と。

宮脇:ということは、会社を辞めてからずっとフリーランスですか?

米光:そうです。大学で講義をすることもありますが、これもフリーランスとしてですね。

宮脇:今でもゲームを作っているそうですが、なぜ個人で活動しているのでしょうか。ゲーム会社の方が制作環境はいいのでは、と思ってしまいます。

米光:1990年あたりから、ゲーム制作のチームが大人数になっていったんですね。僕はメンバー全員の顔を把握できない環境でゲームを作るのがどうしても嫌で、辞めてしまいました。

宮脇:なるほど、そういうことだったんですね。米光さんはゲーム制作とライティング、どちらも注力されていますが、この2つはどのように取り組んでいますか? 二毛作的に時期を分けるとか?

米光:そうですね……。僕の中では、ゲーム制作もライティングも同じようなものなんですよね。

宮脇:その感覚は面白いですね。どのような点が?

米光:ゲームで、ボタンを押すとキャラクターが動く。こちら側から何かを発して、相手から何かが返ってくる。それに対してまたこちらが行動する。これを「インタラクション」と言います。これって、記事を書くのと似ているんです。記事を書いたら読者からリアクションがある、そのリアクションを受けてまた原稿を書く、というのに近い。

紙のライティングももちろん楽しいのですが、ウェブはリアクションがすぐに伝わってくるので、「インタラクション」をより体感できるようになりました。

宮脇:なるほど、少し腑に落ちました。では、ここから用意してきた質問にお答えいただきます。よろしくお願いします。

「ビッグバン」でライター・編集者は数百倍に……!?

ライター交流会

宮脇:先ほどもありましたが、紙とウェブのライティングの違いを、どのように考えていますか?

米光:出版は「装置産業」でしたよね?

宮脇:というと……?

米光:例えば水道会社だったら、水道管を引くのが大変なんです。そのあとは水を流して、集金する。出版社も同じで、流通させるための経路を確立させるのが一番大変だった。でも、いまはそこが大きく変わろうとしている。というのも、ウェブは、そこをすっとばしちゃったんですよ。個人でコンテンツを作って、それを世界に向けて公開することができる。これが大きな違いだと思います。

宮脇:たしかに。紙でやろうと思ったら大変なことも、ウェブで簡単にできてしまいますよね。

米光:ウェブだったら、今日打ち合わせをして明日記事にする、ということもできる。手軽になった分、コンテンツが溢れてしまって、ダメなものも出てきちゃうわけだけれど。でも、総合的には中身で競い合う面白い時代になったんだな、と肯定的に捉えています。

宮脇:米光さんは、編集仕事はされないんですか?

米光:実は昔、広義の意味での「編集者」という仕事に注目してもらいたくて、「新しい編集者」と名乗っていました。

宮脇:「新しい編集者」ですか。詳しく聞かせてください。

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米光:文字どおり「集めて、編む」仕事ができるようになったと思うんです。

例えば、イベントをやるために、どの人とどの人をブッキングしようと考えることも「編集」ですし、人を紹介することも「編集」です。「集めて、編む」ことが「編集」だと認識が変われば、今「編集者」と肩書きをつけてない人でも、編集者と呼べるわけです。

宮脇:実はそれ、私もよく話しています。どんな人でも「編集」をしているんですよね。身近な例だと、自分の部屋づくり。どこにどんな家具を置くか、ベッドの向きはどうするか、照明はどれにしようかということを、予算や空間という制限の中で考えている。これも広義の「編集」ですよね。

「編集」の考え方って、実は日常生活のあらゆる場面に潜り込んでいるんですよ。ただ、それをテキストという形でアウトプットしているのが、ライターや編集者というだけなんです。見方を変えれば、「編集」は誰でもできる。

米光:本当にそうなんですよね。僕は今のウェブ業界は、ゲーム業界でいう1983年だと思っていて。

宮脇:1983年って、何があった年ですか?

米光:ファミコンが生まれた年です。それまでは、ゲームクリエイターという職業の人はほとんどいませんでした。でも、1983年にファミコンができて、コンピューターゲームが普及していくことで、ものすごい勢いでゲームクリエイターが増えたんです。

今の時代、ウェブメディアの発達で、さらにライターと編集者の「ビッグバン」が起こるんじゃないかと思っています。

宮脇:なるほど。それだけライターや編集者が増えている中で、「編集・ライター養成講座 上級コース」で講師をされているわけですよね。受講生にはどのようなことを教えていらっしゃるんですか?

米光:教えるというよりも、チャンスが集まる場所を作っているんです。昔は、ライターと雑誌の編集部が集まっている場所があった。例えば昔のファッション誌では、裏原宿にいるおしゃれな若者を編集部に連れて来て、そこでファッションの情報を集めたり、その若者に原稿を書かせたり。若者も、「弁当をもらえるから」って遊びに来て、いつの間にかライターになることもよくあったんです。編集部に潜り込んでいるうちに、仕事が生まれることがたくさんありました。

でも今は、何でもインターネット上でやりとりできるので、ライターが編集部に行く機会すら少ない。だから、僕の講義には、プロのライターや編集者に遊びにきてもらっています。それが、受講生には原稿やアシスタントなどの仕事をもらう機会になっている。もちろん編集やライティングについても教えるのですが、それよりも実践する場を作っているイメージですね。

テクノロジーの影響を受ける? これからのライター・編集の仕事

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宮脇:先ほど、「ウェブ業界は1983年みたいなビッグバンが起こる」とおっしゃっていましたが、これからライターや編集者の仕事はどうなると考えていますか?

米光:ちなみに、宮脇さんはどうお考えですか?

宮脇:そうですね……。現状からお話しておくと、いまうちの会社の主な収入源はオウンドメディアです。企業の運営するオウンドメディアのコンテンツをまとめて受注して、まとまった量の記事をライターさんと書いていく。これはうちに限ったことではなく、業界全体の流れですね。

あまりにオウンドメディアが一気に増えたので、「バブル」だと言っている人もいますが、僕はまだまだオウンドメディアは進化していくんじゃないかな、と考えています。

米光:それは、各企業がまだまだオウンドメディアを作る、という意味ですか?

宮脇:そうですね。オウンドメディアはまだ増えると思います。あとは、外部の編集者・ライターとして関わるのではなく、企業の中に編集部をつくってメディア運営に携わる人も増えてくるんじゃないかな、と。

米光:それはなぜですか?

宮脇:オウンドメディアが注目を集めた原因は、自社の商品やサービスを生活者に伝える手段の変化だと思うんです。とくに、都市生活者にはテレビCMが刺さりにくくなり、スマホを主戦場にしたプロモーションが必要になった。ウェブ上に良質なコンテンツを作ることで、生活者との接触の機会を増やす、という考え方ですね。つまり、オウンドメディアが1つのプロモーション方法として定着しつつある、と。だから「バブル」ではなくて、これからも増え続けるんじゃないかと思います。

米光:なるほど。ノオトさんは、オウンドメディアで着実に稼いでいて、コワーキングスペースやスナックを作って……と、本当に戦略的ですよね。

宮脇:ありがとうございます(笑)。コワーキングスペースもコワーキングスナックも、コンテンツメーカーとしての先行投資だと思って取り組んでいます。実は社員から「うちの会社がやるべきことなのか」という声もあったのですが、私はとにかく失敗してもいいからどこよりも先にやっておく、チャレンジする姿勢を崩さないことが大事だと思っています。

米光:「今強くなる稽古と3年先に強くなるための稽古の両方をしなくちゃならない」と千代の富士が言っていました。ノオトさんの戦略がまさにこれだなと思います。今ガリガリ進めているのがオウンドメディアで、先行投資のために進めているのがコワーキングスペースやスナック。

宮脇:そんなたいそうなものではないです(笑)。米光さんはどうですか? これからのライターや編集者の仕事について。変革のキーワードは何だと思っていますか?

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米光:テクノロジーの影響を大きく受けるんじゃないでしょうか。例えば、音声入力が使えるようになったことも、そのひとつです。以前は、インタビューなどを録音して、それを聞きながらタイピングして、文字に起こしています。これは大変でした。でも、音声入力で文字起こしができるようになって、楽になってきた。

宮脇:私はまだ使ったことがないのですが、現段階でどれくらい正確に文字起こしができるのですか?

米光:録音したインタビュー音声をそのまま変換するのは、まだちょっとつらい。ですが、聞きながら、それを自分ではっきり喋り直してやれば、ばっちり音声入力できるんです。僕は今では、文字起こしをその方法でやっています。

宮脇:実用化されるのも、時間の問題かもしれませんね。

米光:原稿を書くのも、喋って音声入力する方法で、ときどきチャレンジしているんです。技術によって、文体とか文章全体のバランスも大きく変わるかもしれない。

宮脇:変化とは、どのような?

米光:例えば、手で入力するときは、丁寧に推敲しながら文章を書くので、文章の正確さを気にすると思います。でも、音声入力をすると、内容というより「どう伝わるか」にダイレクトに注意が向く。

書き上げるスタイルも変わるし、スピードも変わる。発表の仕方も変わってくるかもしれない。書いている途中から発表することだってできるかもしれないですよね?

宮脇:確かに、録音メディアがテープからMDになり、その後ICレコーダーに変わったことで利便性が大幅に向上し、仕事の能率もかなり上がりました。その次がこの音声入力の変化かもしれませんね。

米光:もしかしたら、今までパソコンを使えなかったおじいちゃんが、音声入力のおかげで、ライターデビューをするかもしれない。そう考えると、とてもわくわくしますね。

ウェブの特性は武器になる! ベテラン2人が考えるコンテンツの未来

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宮脇:音声入力の発達に先駆けて変化が起きているのが、動画かもしれないですね。最近だと、iPhoneのアプリだけで、記者会見やイベント会場から生中継ができるようになっているじゃないですか。いちいち大掛かりなロケハンも必要とせず、誰でも中継ができるようになっています。

米光:「ワンソースマルチユーズ」ですね。

宮脇:1つの情報を複数コンテンツにして提供する、ということですね。

米光:イベントだったら、イベントを開催したリアルの場が1つのコンテンツですし、これをまとめて記事化したら、もうひとつコンテンツができる。これを中継していれば、中継した動画もコンテンツになるわけですよね。1個のコンテンツをいろんな方法で広げていくのは、これからさらに注力されていくでしょう。

宮脇:これだけ、「ワンソースマルチユーズ」になると、小さなコンテンツが溢れてきますよね。昔だったら、全員が同じテレビ番組を見ていて、翌日の学校はその話題で持ちきりでした。でも今はそういうことが起こりづらい。これは善し悪しではなくて、小さなコンテンツ一つひとつが、それぞれの個性を発揮しなければならなくなってきたな、と思うんです。

米光:僕、一時期「タコツボ化バンザイ!」って言っていたんですよね。今まで、タコツボ化することは悪いことだと思われていました。しかし、ウェブで小さなコンテンツが溢れてきた今は、マニアックで狭い領域をコンテンツにしやすくなってるんじゃないかと思います。

私が今まで見たもので一番衝撃的だったのは、泥がついている女性の写真を集めたサイト。たまたま発見したのですが、ただ田舎の田んぼのおばあちゃんが泥にまみれている写真が上がっている。掲示板も併設されていて、そこに複数人が集まり、泥にまみれたおばあちゃんについて議論していました。

宮脇:すごいマニアックなサイトですね(笑)。

米光:本当ですよね。『月刊田んぼのおばあちゃん』が、ウェブなら可能になるわけです。この視点って、今からでももっと活用できるんじゃないでしょうか。イベントでも、マニアックなものを開催すれば「そんなものはもう二度と見られないだろうから、多少高くても行こう」という気持ちになります。

宮脇:この考え方は、あらゆる分野に応用できそうですね。

米光:とても大事な要素になると思いますよ。ライターの今後を考えるとき、いつも「食っていけるか」という部分ばかりフォーカスされてしまいます。本当なら、伝えたいことがあって、それをアウトプットして、その対価としてやっとお金をもらうはずなのに。昔なら雑誌に載せられなかったものも、今ならウェブに載せることができるわけですから、この「伝えたいこと」に重点を置いてみてもいい気がします。

宮脇:編集者やライターのお仕事をしている人って、お金じゃない部分で仕事のやりがいを感じている部分って少なからずありますよね。だからこそ、「伝えたいこと」に重点を置いて、あとからその成果としてお金がついてくるような仕事が成り立ってきたら、それはとても幸せなことなのかもしれませんね。

まとめ

「時代の潮流に乗れるか否か」――それが、ライターや編集者生命に関わるといっても過言ではない。しかし、ただ変化を追うだけでは、大勢の中で埋もれてしまう。いかに独自のメッセージを発し、差別化を図っていくかが、これからの時代を生き抜くカギになるだろう。ベテラン同士の対話から、そんなヒントが垣間見えた。

本来、新しい技術は仕事を効率化し、手間を省くものだ。しかし、私たちは、次々と生まれる新しい技術を追うことに必死になるあまり、技術を追うこと自体が目的になっている場合もある。効率化により生まれた余裕で、さらにコンテンツに磨きをかける。それが、これからのライター・編集者に求められていることかもしれない。

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