フリーランスは「生きる術(すべ)」!会社員ライター/編集者が考える働き方の選択肢

フリーランスは「生きる術(すべ)」!会社員ライター/編集者が考える働き方の選択肢
東京・五反田のコワーキングスペース『CONTENTZ』で5月17日、ライターや編集者を対象としたイベント『働き方の選択肢を増やそう サラリーマンライター/編集者』が開催された。会社に勤務しながら本業・副業としてライティングをする3名のディスカッションから、ライターという仕事の意外な魅力と、会社員の対義語として用いられることが多いフリーランスの利点が浮き彫りになった。
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進む「ライター」の多様化――今、会社員ライターは何を思うのか

ライター・編集者は、フリーランスとして活動、または出版社や編集プロダクションに所属するのが一般的だった。しかし近年では、出版社や編集プロダクション以外でも、ライター・編集者という肩書きでの求人が増えている。副業を許可する企業も出始め、会社に所属しながら「パラレルキャリア」の一環としてライター・編集者業を選択できるようになってきた。

このような選択肢がある今、ライター・編集者は会社というシステムに何を望むべきなのだろうか? 会社員ライター・編集者として活躍する3名に、お話を伺った。

【登壇者プロフィール】

こばやし ゆういち さん
株式会社トレタ マーケティンググループ勤務。1959年大阪生まれ。広告制作プロダクションでコピーライターとして勤務し、3年後フリーに。先輩ライターと共同で大阪市内に事務所を構え、フリーライターとして各種情報誌の特集記事・連載記事や全国紙の記事広告などを執筆。1998年ごろ東京に居を移した後、ライター稼業に見切りをつけてフリーターに。様々な職種を経験したのち某通販大手企業に入社し、物流センター管理やECサイト運営に従事。2013年9月にはトレタに入社。同社のウェブサイトやアプリ、プレスリリース文などの作成・編集に「ワンボイス」として関わっている。Twitter ID:@haguredori

甲斐 祐樹 さん
大手電機メーカーにてシステム営業に従事したのち、株式会社インプレスで、Webニュース記者としてブロードバンドやオンラインサービス、ソーシャルメディアを中心に取材する。2009年にアジャイルメディア・ネットワーク株式会社に転職し、ソーシャルメディアマーケティング関連業務を担当。2012年に同社を退職後はフリーランスとして活動したのち、ネット接続型家電の企画・開発を行う株式会社Cerevoに参画。広報・マーケティング、営業などを担当する。著書『freeeでラクラク確定申告』『スマホ&タブレット”二刀流”仕事術。』『Chromecastの使い方 何ができる?』『知らないと損する! Dropbox厳選テクニック27』(以上、インプレス)

飯島 真梨 さん
出版社の宣伝プロモーション部勤務。登壇時は株式会社ワニブックス 広報宣伝部に在職。情報誌での広告営業、検定本・資格対策本の編集を経て、ワニブックスでは主に、タレント本、美容実用本、レシピ本、健康本、自己啓発本、ビジネス本などのプロモーションを担当。登壇後にビジネス系の出版社に転職し、現在はビジネス本や自己啓発本、美容実用本などのプロモーションを担当。

宮脇 淳 さん
1973年、和歌山市出身。雑誌編集者を経て、25歳でフリーライター・編集者として独立。5年半の活動後、有限会社ノオトを設立した。現在は、「品川経済新聞」「和歌山経済新聞」編集長、東京・五反田のコワーキングスペース「CONTENTZ」管理人を務める。企業のオウンドメディアづくりを中心に、コンテンツメーカーの経営者・編集者として活動中。今年7月には会社12周年を記念し、コワーキングスナック「CONTENTZ分室」をオープンした。Twitter ID:@miyawaki

40代フリーターが、注目IT企業に就職……?

会社員ライター/編集者が考える働き方の選択肢のイベント風景

ステージ左から甲斐 祐樹さん、こばやし ゆういちさん、飯島 真梨さん、宮脇 淳さん

宮脇:今回は、「サラリーマンライター/編集者」ということで、現在会社に勤務をしながらライターや編集者として働く3名にお声がけしました。まずは自己紹介をしながら、今までのお仕事について伺いたいと思います。こばやしさんから、お願いします。

こばやし:こばやしゆういちです。今は、飲食店向けの予約/顧客台帳サービスを提供する、株式会社トレタに勤務しています。本当にいろいろな仕事をしてきたので、何からお話ししようか悩みますね……。

宮脇:ライター仲間の間では、「おいちゃん」のニックネームで呼ばれるほどのベテランですからね(笑)。では、一番初めにしていたお仕事から順番に、ということでどうでしょう?

こばやし:最初は、広告制作プロダクションでライターをしていました。若い方には馴染みがないと思いますが、当時はインターネットがなかったので、企業はホームページの代わりにPR誌というものを作っていたんですよ。そのPR誌の文章を書くことが仕事でしたね。そこで3年ほど勤務をした後、フリーライターになりました。

宮脇:フリーライター時代は、どんなお仕事をしていたんですか?

こばやし:大阪を拠点にして、地域の情報誌などの雑誌でライティングをしていましたね。20年ほどフリーライターをしていましたが、徐々にお仕事が減ってきてしまったので、最終的にはライター業に見切りをつけてフリーターになったんです。

宮脇:フリーライターからフリーターですか。かなり珍しいですね。失礼ですが、フリーターになった当時のご年齢は……?

こばやし:フリーターになった時は、40代半ばでしたね。

宮脇:ちなみに、どんなお仕事をされていたんですか?

こばやし:とにかく日銭を稼ぐ必要があったので、日雇いのアルバイトをしていました。引越しのアルバイトとかいろいろですね。で、ある通販会社の物流センターに入って、そこでしばらく働いているうちに、アルバイトの約300人をまとめる役職に抜擢されたんです。ついでに正社員登用をお願いしてみたら、すんなり採用してもらえて、通販会社で正社員になりました。

宮脇:そこから、今のトレタに?

こばやし:そうです。通販会社の正社員に登用されてから、自社のウェブサイトの運用を任されるようになって。しばらくやっていましたが、いろいろあって、今の会社に移りました。経歴は以上ですが、なかなか参考にならないでしょ(笑)。

会社員ライター/編集者が考える働き方の選択肢のイベント風景

宮脇:波乱万丈な経歴すぎます(笑)。では次に、甲斐さん。さまざまなことを手がけていらっしゃいますが、現在のご職業は何と表現したらいいんでしょうか?

甲斐:甲斐祐樹と申します。職業はとてもシンプルで、ベンチャー系家電メーカーの社員です。初めは大手電機メーカーで2年ほど営業をしていて、そこから編集や記者を経験して、現在に至ります。

宮脇:一度、フリーランスも経験されていましたよね? どのタイミングで、フリーになったんですか?

甲斐:大手電機メーカー退職後、インプレスという出版社で編集兼記者をしていました。インプレスの次に一度マーケティング系の企業に転職して、その後にフリーランスになった感じです。

宮脇:フリーからまた会社員になったのは、どのような経緯ですか?

甲斐:フリーランスになるタイミングで、現在勤務している会社のお手伝いを始めて。最初は週に数日、業務委託で働いていました。そこから徐々に勤務日数が増えていき、正式に社員になったんです。

このような経緯だったので、今も副業でライター業を続けています。本業に支障が出ない限り、これからも続けていく予定です。

宮脇:現在、フルタイムで働いているんですよね。副業をする時間は、どうやって確保しているんですか?

甲斐:「ライティングは考える時間と書く時間を別にできるんじゃないか」というのが持論なんです。仕事をしている日中の休憩時間やランチタイムに、「こんなことを書こう」と構想を練っておいて、自宅に帰ってからそれを1〜2時間で記事にしています。時間を上手く分ければ、平日の帰宅後と休日だけでも副業はできますよ。

宮脇:とても効率的な時間の使い方ですね。では最後に、飯島さんお願いします。

飯島:飯島真梨と申します。私はお二人と違ってフリーランス経験がなく、ずっと会社員として働いています。初めに、住宅情報誌の広告営業をやっていたのですが、すぐに辞めてしまって。検定用の書籍を発行する会社に転職して、4年半ほど編集者をしていました。そして現在は、ワニブックスという出版社で広報のお仕事をしています。また、実は今後、別の出版社への転職も決まっています。

宮脇:編集者の経験があるにもかかわらず、現在は広報のお仕事をしているんですね。何か理由があるんでしょうか?

飯島:編集者といっても検定用の書籍の編集だったので、かなりマニアックだったんです。前職では書籍編集のほかに、会社のウェブサイトの担当もしていたのですが、ワニブックス広報部の業務の中にウェブサイトの更新や管理というものもあったので、前職のスキルを活かして広報のお仕事を始めました。編集と広報のお仕事は共通点も多いと思います。

宮脇:なるほど、ありがとうございます。いくつか質問を用意してきたので、ここからはスクリーンのQに沿って進めていきます。よろしくお願いします。

求人媒体は使わない!? ライター・編集者の転職事情

会社員ライター/編集者が考える働き方の選択肢のイベント風景

宮脇:ではさっそく、質問に移ります。みなさん何度か就職・転職されていますが、そのきっかけは何だったんでしょうか。飯島さんは、いかがですか?

飯島:前職の検定用の書籍の会社は、出版社ではなく一般企業の出版部だったんです。「どうせなら出版部ではなく、出版社に勤務したいな」と思って、転職を決意しました。

宮脇:転職を決意されてから、何を使って転職先を見つけましたか?

飯島:インターネットですね。出版社名で検索をかけて、各社のホームページを片っ端からブックマークしていました(笑)。ワニブックスも、自社のホームページでひっそりと募集をしていたので、そこから応募しましたね。

宮脇:私がこの業界に入った20年前は、出版社の求人と言えば朝日新聞の日曜求人広告欄でした。この慣習は今も残っているんですかね?

飯島:朝日新聞も見ていましたよ。ただやっぱり、各出版社のホームページを見た方が、たくさん見つけられましたね。新聞やネットに求人広告を載せるのにも、お金がかかるじゃないですか。大規模な求人の場合は、お金を払って求人広告を載せても費用対効果が高いと思いますが、1〜2人の欠員募集の場合は、ひっそりと募集をしていることが多いのではないでしょうか。出版社に転職希望の方は、入りたい会社のホームページを頻繁に覗きにいくことをおすすめします。

宮脇:転職希望者には、かなり参考になる情報ですね。では次に、甲斐さん。電機メーカーから出版社に転職した理由って、何だったんですか?

甲斐:インプレスはテクノロジー系のニュースを扱う出版社だったので、最新のテクノロジーに触れたくて入りました。取材を通じて新しいものに触れて、実際に作った人たちにインタビューできる。素晴らしい環境です。「ライターや記者になりたかったから」という理由じゃなくてごめんなさい(笑)。

宮脇:それだけ恵まれた環境にもかかわらず、その次にマーケティング系の企業に転職されましたよね。なぜですか?

甲斐:当時から「出版不況」と言われていて、業界全体でリストラも始まっており、「ライターだけではやっていけないんじゃないか」と危機感を持ったことがまずあります。それに加え、新しいことに挑戦したくなったということもあって、別の業界に転職を決めました。

宮脇:なるほど。転職の際は、求人媒体から探したのですか?

甲斐:実は求人媒体ではなく、SNSを使って転職したんですよね。当時、mixiが流行っていて、転職した人たちがmixiに転職報告の記事を投稿していたんです。その記事のコメント欄に、「(転職することを)教えてくれていたら、自分の会社を紹介したのに!」というコメントがたくさんついていて。「転職したい旨をmixiに投稿すれば、周りの人から声がかかるんじゃないか?」と思い立って、試してみました。

宮脇:かなり勇気がいる決断ですよね?

甲斐:そうですね、「誰にも声を掛けられなければ、フリーランスになろう」と覚悟をして臨みました。不安もありましたが、記事を投稿してみたら実際に何人かに声をかけていただき、無事に転職できました。

宮脇:人とのつながりを実感しますね。

甲斐:もう、本当にありがたい限りです。僕の例はかなりトリッキーなのでおすすめはしませんが、ライターには人づての転職が向いていると思います。

宮脇:ん? それはなぜでしょう?

会社員ライター/編集者が考える働き方の選択肢のイベント風景

甲斐:ライターの場合、どんなにスキルがあっても、履歴書には「文章を書けます」としか載せられないんですよね。これだけの情報なら、転職サイトに登録してもあまり武器にならない気がしてしまって。普段の仕事ぶりや人柄を評価していただいた方が、いい転職につながるんじゃないでしょうか。

こばやし:僕も前職時代に、FacebookやTwitterに「転職したい!」と投稿していました。1年ぐらいかけて、いろいろな方の話を聞くなどしていましたね。業種にこだわりはなかったのですが、結局、僕の武器はライティングなんだと気づいて、再びライターの仕事に行き着いたんです。

宮脇:こばやしさんもですか。自分のことをよく知った人からの紹介であれば、安心して新しい環境に飛び込めそうですね。

先ほど、甲斐さんが「ライターや編集者はスキルを明確に示せない」とお話していました。みなさんは、転職の際に履歴書にどんなことを書いてアピールしていましたか?

甲斐:僕の場合、会社員をしながらブログも書いていたので、ブログもアピールポイントにしていました。その結果、ブログのマーケティングをする会社に入りました。フリーライターも同じで、ブログや執筆者が明記されてない記事でも、関わっていた仕事は全て履歴書に書いちゃえばいいと思います。

こばやし:同感です。あくまでライターや編集者としての技術が問われるので、会社員でもフリーランスでも、経験を存分にアピールすれば問題ないと思います。

宮脇:フリーライターだと職歴に「○○会社勤務」って書けないですよね。これって、不利じゃないんですか?

甲斐:会社に所属していないからといって、フリーランスを不利に思うことはないと思います。むしろ、数年間フリーランスとしてきっちり経験を積んでいる人は、それをアピールポイントにできるんじゃないでしょうか。自分で仕事を請けて、責任を持ってやり遂げて、きちんとした対価をもらって生活をする。フリーランスは、ひとりで全てをコントロールする能力があるわけですよね。それって、普通の会社員だとやらないし、経験できないことです。

宮脇:なるほど、「フリーランスをしていた」ということ自体をアピールするわけですね。このほかに、飯島さんがアピールしてきたことってありますか?

飯島:「私なら貴社の本のリリースをこうやって書きます」と、出版物のプレスリリースを書いて持っていったことがあります。どういう意図で書いたかとか、どういう経験から書いたのかを面接で話すと、かなり食いついてもらえました。

宮脇:経験や実績だけでなく、自分の今のスキルを相手の会社に合わせてアピールするということですね。これも、いろいろと応用が利きそうです。

会社員 or フリーランス比較! 気になる待遇の違い

会社員ライター/編集者が考える働き方の選択肢のイベント風景

宮脇:では次の質問です。フリーランス経験のあるこばやしさんと甲斐さんに伺います。フリーランスと会社員、それぞれのメリット・デメリットとは何だと思いますか?

甲斐:まず、会社員のメリットは「主体的にもの作りができる」という点です。これは、僕が今もメーカーで勤務している理由でもあります。何かというと、フリーランスって「誰かの仕事を手伝う」という立ち位置になることが多いんです。言葉は悪いですが、「下請け」の仕事が多いんですよね。一方で、会社員なら会社という規模で仕事ができるので、「こんな面白いものを世の中に提供したい」という願いが叶いやすいと思います。

宮脇:なるほど、仕事の規模という問題があるんですね。そうなると、お金の話も出てくると思いますが、待遇に大きな違いはありましたか?

甲斐:単純計算することもできないので、待遇の比較は難しいですね……。会社員だと毎月のお給料から税金を天引きしてくれますが、フリーランスだと年末にどかんと払わなければならなかったり、フリーランスは保険料が高かったり、というデメリットはもちろんあります。ただ、それを除けば、基本的に金額には大差ないと思います。

お金は結局、高い安いではなく、自分で管理できるか否かじゃないでしょうか。フリーだと、病気になって仕事ができなくなっても、その分の給料を保証してもらえないので。そういう面でも、会社員は「会社に守ってもらえる」という安心感がありますね。

宮脇:甲斐さんは、「会社員の方がいい」と考えているんですか?

甲斐:「会社員がいい」のではなく、自分の性格には会社員が向いている、という考えです。先ほど少し話しましたが、僕は文章を書きたくてライターになったわけではないので、ライターにこだわりはなくて(笑)。普段は会社員として働きながらも、引き続き副業のライティングで新しいテクノロジーに触れる。このバランスが、自分にはちょうどいいと思っています。書くことが好きで思う存分ライティングをしたい方は、フリーランスがいいと思います。

宮脇:少し話がずれてしまいますが、ライターさんの中で「ライターをしているけど、文章を書くことは好きじゃない」という人って、案外多いように感じたのですが。

甲斐:書くこと自体が好きな人もいれば、ひたすら業務として遂行するという人もいる、ということだと思います。僕の場合、記事を書かなくていいのなら、新商品に触れて「この新商品いいね!」ってコメントするだけで終わらせたいです(笑)。でも、そうもいかないので、頑張って書いていますね。

宮脇:甲斐さんが、ライティングを頑張れるのはなぜですか?

甲斐:やっぱり「自分で体験したことは、自分で書いて伝えないといけない」と思っているからです。新しい商品やテクノロジーに触れるって、日本中でも限られた人にだけ与えられている機会なんですよ。

この前、新しいスマホの体験会に参加したのですが、スマホファンならたまらない内容なわけです。でも、ファン全員が参加できるわけではない。貴重な体験をさせてもらった分、頑張って書かなければいけないな、と思って書いています。そしてどうせ書くのなら、「内容が間違っている」とか「内容が薄い」とか思われたくないので、一生懸命やります。

宮脇:甲斐さんにとってのライター業は、新しいものに触れられるという特権でもありながら、それを「責任持って伝えたい」という気持ちの表れだったんですね。

甲斐:そうかもしれません。

宮脇:こばやしさんはどうですか? フリーライターを20年もしていた方ってあまり聞いたことがないので、ぜひ詳しく伺いたいです。

会社員ライター/編集者が考える働き方の選択肢のイベント風景

こばやし:20年やっていた人は、僕も会ったことがないです。かといって僕がすごいわけではなく、普通の人です(笑)。ただどんなに優秀な人間でも、20年間も何にも縛られないでいると、だらけてしまうんじゃないかと思います。フリーのときは完全な夜型でしたが、今は一応、朝から会社に行っているので、「きちんと社会人として生活しているな」という実感が湧きますね。

宮脇:ほかに例えば、待遇で違いを感じたことはありますか?

こばやし:甲斐さんも言っていましたが、もらえるお金自体は大差ないと思います。ただ、有給がありがたいですね。この年になると急に体調が悪くなることがあるので、そんなときでもお給料をもらえるのは安心です。あとは、ボーナスがありがたい。前職に入社して、ボーナスを初めてもらったときは、本当に感動しました。

宮脇:私はフリーランスから自分で会社を立ち上げたので、一度もボーナスをもらったことがないんです。やっぱり、ボーナスってうれしいものですか?

飯島:そりゃうれしいですよ。ボーナスがあるから会社員を続けたいと思うくらい(笑)。

宮脇:そうなんですね……。ちなみに、こばやしさんは甲斐さんのように副業する気はないんですか?

こばやし:今は全くやっていないんですが、機会があればやりたいと思っています。

宮脇:(笑)。それはお金を稼ぎたいから、なんでしょうか?

こばやし:お金の面ももちろんありますが、「いろんな世界を覗ける」ということがモチベーションになっていますね。ライターは「取材をさせてください」と言えば、いろんな人に会うことができるんですよ。普通の人が突然「会って話を聞かせてください!」って言うと、「なんで?」ってなるけど、取材という名目があれば応えてもらいやすい。こんなことができる職業って、なかなかないと思います。甲斐さんも、先ほど同じようなことをお話されていましたが、どうでしょう。

甲斐:そうですね、同じようなモチベーションです。ライター業は「新しいものに触れたい」「新しいことを知りたい」という知識欲を満たせる仕事だと思います。

こばやし:僕も実は甲斐さんと同じで、文章を書くこと自体が好きなわけじゃないんです(笑)。昔、海外旅行情報誌の記事を書いていたとき、取材で旅行に行っていました。いいホテルに泊まって、おいしいご飯を食べて存分に楽しんで。帰ってきたら、納期という地獄が迫ってくる。でも、いろんな体験ができるから、辞められないんですよね。

宮脇:甲斐さんやこばやしさんのように、ライティング自体が好きというわけではない人は、会社員の方が向いているかもしれませんね。

こばやし:そうだと思います。制約がある中で働くほうが、気持ちも楽です。

宮脇:2人はこう言っていますが、飯島さんは「フリーになろうかな」と思ったことはありませんか?

飯島:それが、全くないんですよね。フリーでやっていける気がしないのと、年金や税金などの面倒なことを会社にやってもらった方が楽だと思ってしまって。今までに2回転職していますが、1日も間を空けていないんです。次に行く会社が決まってから前の会社を辞める、という繰り返しですね。

宮脇:それは、やはり生活の安定のためですか?

飯島:あてがない中で会社を辞めると、路頭に迷ってしまいそうで不安だからですね。収入は、そんなに気にしていません。やりたい仕事であれば、たとえ収入が半分になっても転職すると思います。

宮脇:なるほど。一方、甲斐さんは辞めると表明をしてから転職先を探していましたが、不安はなかったんですか?

甲斐:転職を考え始めたときは、飯島さんと同じように不安でしたよ。知り合いのフリーライターに相談していました。そうしたら、「フリーランスは楽しいし、好きな仕事をできているので、私は幸せ」って言われて。僕はずっと「フリーは不安だ」と決めつけていましたが、当人はフリーであることを純粋に楽しんでいたんです。

これを聞いて勇気が湧いたので、「転職できなくても、フリーになればいい」と覚悟をして、会社を辞めることができました。もしかしたら、みんなが考えているほど、フリーの方は不安を感じていないんじゃないかな、と思っています。

こばやし:僕の場合、漠然とした不安は常にありました。ただ、就職するという考えもなかったので、20年もフリーを続けていましたね。フリーを長く続けていると、「就職できないんじゃないか」と思うようになってしまいます。今、実際に会社で働けているので、そんなことは全然ないとわかったのですが。でも、ずっとフリーでやってくしかないと、どこか考えてしまうんですよね。

宮脇:甲斐さんのおっしゃる通り、フリーランスを楽しんでいる人もいれば、こばやしさんのように「フリーしかない」と覚悟を決めている人もいるんですね。フリーがいい、会社員がいい、というのは条件の比較だけでは結論が出せないものかもしれません。

実はかなり「潰しがきく」ライター・編集者業

会社員ライター/編集者が考える働き方の選択肢のイベント風景

宮脇:フリーライターやフリー編集者が就職するとき、ライター・編集者として働くとは限りませんよね。ライターとは全く別の仕事をする場合に、ライターや編集者のスキルはどのように活きると思いますか?

飯島:出版業界は全体的にライター・編集者と近しい仕事なので、かなりスムーズに転職できると思います。また広報のお仕事だと、プレスリリースを書くなどの場合には、それまでのスキルが直接生かせるのではないでしょうか。

宮脇:プレスリリースは、かなり分かりやすい例ですね。

飯島:あと、人脈という面でも活きると思います。ライターをしていると、マスコミやメディアの方と人脈が生まれますよね。普通に働いているとマスコミやメディアの方とつながる機会はないので、例えば「メディアに何か提案したい」など、いざという時に役に立つと思いますよ。

宮脇:人脈も武器になるわけですね。こばやしさんは、20年間のフリーランス経験が生きた場面はありましたか?

こばやし:「日本語で文章を書く」という作業自体が活きていますね。いま僕は、トレタで「ワンボイス」という役割を担っています。トレタから発信される文章表現を統一するために、社外に発信される文章を全てチェックしているんです。プレスリリースや広報媒体、メルマガの文面など、あらゆる文章が僕を通ってから社外に発信されています。この仕事を任せてもらえたのも、「この表現のほうが、伝わりやすいんじゃないかな?」と、考える力が染み付いていたおかげだと思っています。

宮脇:人に適切に伝える工夫は、プレゼンなどでも活きそうですね。

甲斐:ライターはもちろん「文章を書く人」という意味の言葉ですが、実は文章を書く以上に大事な技能があると思っています。それは、「文章を読み解く力」です。企業のプレスリリースや講演の内容を記事にする場合、話の流れを汲み取って、足りないところを補完して書いていきますよね。この、文章を読み取って適切に組み立てる構成力や調整力が、他の職業でも生きるんじゃないかなと思っています。

宮脇:たしかに。ライティングや編集って、ただ文章を書くだけではなく、全体のバランスを考える力も必要ですよね。構成力や調整力が具体的に活きたと感じたのはどんな場面でしたか?

甲斐:取引先から来たメールの内容をしっかりと理解して、適切な対応を取る。その上で、「この仕事はこの人に頼もう」など、調整を行なう。テキパキと人を仕切る能力は、どんな仕事にも役立つのではないでしょうか。

宮脇:構成力や調整力は、どの仕事にも共通しそうですね。

甲斐:ほかにも、取材の経験も生きましたね。忙しさのあまり、分からないことを分からないままにしておいて、大きなミスを生んでしまった経験というのは誰しもあるんじゃないでしょうか。でもライターの取材では、聞いた内容を自分なりに咀嚼してまとめる必要があるので、分からないことは分かるまで聞くクセがつきました。

あと、記者時代に経験した「追っかけ記事」も活きています。これは他メディアに載っていたニュースを自社のメディアにも掲載するために、情報の出所に辿りつくまで取材することです。どこに取材していいのかわからないようなニュースの連絡先を探し出し、たらい回しを受けながらも目的の相手にたどり着いて取材をした経験は、営業の仕事にも生きたと思います。

宮脇:追いかけて突き止めるのは、普通の業務ではなかなか経験できないことですね。「ライターは潰しがきかない」といわれがちですが、文章を書く技術以外にも活かせるポイントはたくさんありそうです。

フリーランスはあくまでも「生きるための技術」

会社員ライター/編集者が考える働き方の選択肢のイベント風景

宮脇:では、最後の質問です。みなさんはこれから、会社を辞めてフリーランスになりたいと思いますか? 飯島さんいかがでしょうか。

飯島:私は思わないですね。待遇もそうですが、私の場合は会社の名刺を使っていろいろな人に出会えることが素晴らしいと思っているので。普通なら会えない人に会えるこの環境に浸っていたいです(笑)。

宮脇:私はフリーライター時代、アポを取るのに苦戦した覚えがあります。フリーライターでもアポはとれますが、会社や編集部などのバックグラウンドがある方がスムーズに進む印象です。甲斐さんは、フリーに戻りたいですか?

甲斐:フリーでも生きていけることが分かったので、むしろどちらにもこだわりがなくなりました。もし仕事がなくなってしまっても、ライティングとアルバイトをすれば生きていけるんじゃないかなって楽観的に考えています。あとは、自分のやりたいことを貫くだけですね。フリーになった方がやりたいことができるなら、今からでもフリーになるかもしれません。

こばやし:僕もそうです。フリーライターになりたいか否かじゃなくて、明日から突然仕事がなくなったとしても生きていけるという変な自信があるだけです。年収が150万円になってしまっても、フリー時代の経験があるから怖くない。フリーランスは「生きる技術」のようなもんですよ。

宮脇:最後にすごい名言が飛び出しましたね。「フリーランスは生きる技術」ですか。

こばやし:そうです。何よりフリーランスは、自分で仕事を取ることから始めますからね。強くなります。スキルや経験を差し置いても、フリーランスで強くなった、ということはその後の人生でも生きると思います。

宮脇:とても重みのある言葉ですね。ありがとうございました。

会場からの質問コーナー

会社員ライター/編集者が考える働き方の選択肢のイベント風景

質問者A:私は大学卒業から、約3年間フリーで活動しています。今後とも書くことを仕事にしたい場合、一度はどこかに就職した方がいいと思いますか?

甲斐:どちらがいい、とは一概には言えませんが……。ライティングをやってく中で、誰かに添削をしてもらう機会は大事だと思います。雑誌などの紙媒体でライティングをしていると、編集者と直接やりとりする機会が多いので、編集者からたくさん学ぶことができる。

一方でウェブ系のライティングは、編集者と接触の機会が少ないんです。時間がない時など、ライターが納品した記事を編集者が校正した結果、どのように文章に手に入れたのかわからないままになってしまう、ということも少なくありません。きちんとフィードバックをもらえないと、ライターは自分のどこが悪かったのか学べず、成長につながりません。そういう意味で、会社に入って先輩の目で見てもらうのは大きな価値があると思います。

こばやし:とても共感します。僕は最初に入った広告制作プロダクションで、元新聞記者の先輩に細かくダメ出しをされながら鍛えられました。泣きながら原稿をやった経験もあります(笑)。先輩にしごかれた経験があるからこそ、今となっては間違いを指摘する側になっているんですよね。学びとれる存在がいるのといないのとでは、大きく違うと思いますよ。

質問者B:今回は、会社員ライターとフリーライターという対比が主でしたが、副業でライターをすることにはどのようなメリットがありますか?

甲斐:まずは純粋に、収入が増えるというメリットがありますね。加えて、会社では得られない知識が得られます。僕はライター業で最新のスマホやパソコンに触れる機会が多くあり、それを本業のメーカーの方でも活かすことができていますね。

宮脇:私もよく同じ相談をされるのですが、仕事を辞めずにライターに関わる仕事をした方がいい、という結論に至りました。ライターは基本的に、取材を通じて知ったことを記事にすると思います。

しかし、いくら丁寧に取材をしても、数時間取材した分の知識しかつかないんですよ。一方で、会社に勤める中で得る知識って、長い時間をかけてどんどん蓄積されていくんですよね。だから、本業で深まった知識をもとにライターをすると、かなり深い記事が書けるんじゃないでしょうか。

ライター交流会まとめ

ライター・編集者にとって、働き方の選択肢が増えたのは喜ばしいことだ。しかし、その分、各自が意識的にスキルを磨いておかなければ、業界内で生き残ることは難しくなっている。

独立なり、一般企業への就職なりをするにしろ、一度は先輩ライター・編集者のもとで鍛えてもらうというのが手堅い選択肢だろう。一方で、ライター・編集者という職業にこだわりすぎず“生きるために役に立つスキルの1つ”というスタンスでいることも、長くこの仕事を続けるために必要なことなのかもしれない。

(なかがみさえ+ノオト)

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