山梨・甲府にある女性や若者らしさを活かした働きを創りだす「場」 | aeru

山梨・甲府にある女性や若者らしさを活かした働きを創りだす「場」 | aeru
山梨県・甲府にあるフリーランスや起業家を支えるコワーキングスペース『aeru』。特に子育て中の女性や若者のための居場所作りに力を注いでいます。自由度を失わないために、あえて内装を作りこんでいない『aeru』。オーナーを務める芦沢 香さんに特徴や魅力についてお話を伺いました。
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起業・次世代へつなぐ街づくりをキーワードに「つながる」支援を行なう

甲府・中心街から車で10分ほど、2車線道路のアルプス通り沿いにあるコワーキングスペース『aeru』。すぐ近くに大きな書店やスーパーの立ち並ぶ商店街があり、2つの県立高校からも徒歩圏内。真っ白で小ぢんまりとした外観の建物の大きな窓から見える内部はギャラリーのようにオシャレな雰囲気です。

天井の高い室内は開放感があり、壁面も上手に活用していつも小さな展示イベントが行なわれているそうで、お邪魔した時は「写真展」の開催中でした。ハンドメイドならではの素朴な味わいと女性の感性が活かされた内装で、オシャレだけど落ち着いた空間に仕上がっています。

オーナーの芦沢 香さんは経理事務の専門家。女性・若者向け起業支援、働きながら学ぶ学生や子供たちのための居場所作りなど様々な機能を併せ持つ『aeru』。そんな『aeru』について芦沢さんにお話をお聞きしました。

aeru』ワークスペース情報
■ 場所:山梨県甲府市貢川本町7-24-101
■ 営業時間:平日の7~8割で不定期 / 基本的にAM.10:00~PM.10:00 OPEN
■ 料金:利用状況に応じて。
■ 電源 :◯■ WiFi:◯
■ 特徴:学生さんやママ向けにコワーキングスペースを解放している。比較的都市型コワーキングスペースに近いイメージ。壁面をギャラリー化して展示利用に提供しており、定期的に写真や絵画の無料展示利用が可能。月1回「Open talking bar」の他、会計相談、子どもの学習会、子ども向けの起業学習体験、ママの好きと得意と経験を活かした「ママまつり」などのイベント開催も行なっている。

女性・若者向け起業。継続支援と子ども支援。「無いなら作ればいい!」

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― コワーキングスペースを始めようと思われたきっかけについて教えてください。

オープンしたのは2013年7月で、丸2年になります。私は商工会の事務局で相談事業を長く担当していました。様々なセミナーや起業・経営相談などの事業を展開してきた中で、「潜在的な能力があるのに仕事に結びつかない女性や、若者のニーズが満たせていないこと」、「能力や意欲はあっても店舗家賃などの固定費を稼ぎ出すのはまだ厳しい、場所さえあれば起業しながら経営力を試してみたい人が大勢いること」に気づいたんです。それから「女性や若者が気軽に創業できる仕組みづくり」に取り組みたいと思ったのが設立のきっかけです。

自身が経理代行業を行なううち、コワーキングスペースの開設というアイディアにたどり着きました。具体的には「スペースは貸すから後は自分でやってみてごらん」という感じ。ドロップインだけでなく誰でも使える場所として、ワークショップやセミナーを利用できるようにしておけば、利用者にとって創業のきっかけになるだろうと。

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私は子どもの貧困対策活動にも長く関わっており、「こどもサポートやまなし」の活動として無料学習会を行なっています。そこでも「子どもたちが勉強を教え合うのに、無料で使える場所がない」という課題に気づきました。

女性が起業したい。そう思っても子育てと並行し、フルタイムで勤務可能な土壌が育っていません。この課題に対して、これまでの経験を活かし、小商いができる場所を提供すること。そして、子どもや若者が学校や家以外で安心して集まれる、学習場所として利用できるスペースを提供すること。2点を主軸として運営を行なっています。

自由度を失わないために「真っ白な場所」をキープすることが大切。

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― 女性や若者に特化したコワーキングスペースを実際に開設してみての感想や、開設していく上で苦労された点などはありますか?

「コワーキングスペース=ドロップイン」で仕事するというイメージが強いですが、実際に始めてみると”思わぬ効果”が色々…という感じですね。やりたかったことは「女性の新しい働き方のきっかけ作り」でしたが、まず自身の経理代行のお仕事が増えました。本業あってこそ運営が可能となるので、ありがたいことだとは思っていますが。

利用される方は、全体的に若い人がメイン。それも「正社員しながらフリーとして山梨と東京をまたにかけて活動中」という風に仕事を創りだしちゃう面白い人が多いですね。独身~子育て世代の若い女性たちからは、イベント利用やプチ展示会、打ち合わせ場所として。年に一度は「ママまつり」など大きなイベントも行われています。

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働きながら学ぶ学生の勉強場所や、年齢問わず異業種間交流の「語り場」として、「Open talking bar」の定期開催も行なっています。クライアントとの打ち合わせに「ファミレスではちょっと…」という時の商談利用や、請求書の作成方法を教わりに来る人もいます。この場で知り合った違うスキルを持つママ同士が協力して、企業との仕事を生み出したこともありました。

苦労というほどではないですが、運営側として女性が不安に思う「特定タイプや仕事を持っている人」だけが集まる場所になってしまわないように、という点は気を配っています。「場のカラー」ができてしまうと、結果的に誰がいてもいいという自由な空気感がなくなってしまうので。

起業支援で感じるのは、もっと「経営=儲けというお金の感覚を身につけて欲しい」ということです。公的主催の起業セミナーでは起業の心がけや、会計学習的な内容が大部分。もっとリアルなお金の動きの感覚、起業助成金において何が重要なのかなどの実務知識など、仕事や日常生活の中で当たり前に感じられるセンスを持つことが事業継続には大事だと思っています。

コワーキングで「新しい働き方」「起業・事業継続」の発信基地に。

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― 女性の働き方や子どもの活動を軸にした『aeru』、今後の『aeru』の在り方やオーナーとしての将来の夢について、ぜひお聞かせください。

経理事務代行をやっていると時間の拘束がないため、他の仕事でももっといろんな働き方ができるのではないかと思います。正社員という枠にとらわれなくても仕事はできる。進学を諦めている若者や引きこもりがちになっているママにも、あちこちに「はしご」をかけて「学びながらちょっとずつ働けるシステム」を広めていきたいです。

将来を担う子どもたちには、小さなころからビジネスや街づくりに関心を持って欲しいですね。郊外に大型店舗の進出が増え、なぜ昔ながらの商店街が減りドーナツ化現象が起きているのか? 耕作放棄地はなぜ増えているのか?子ども時代からそういう「なぜ?」を沢山考えてもらいたくて、大人向けビジネスモデルを子ども向けに置き換えたワークショップなども開催しています。

日本の学校におけるキャリア教育は、子どもから青年向けの「疑似起業経験」が手薄です。イベントでお店屋さんを活用し「働いて稼ぐ、使う、また稼ぐ」のお金の流れを体感すると、子どもたちは売り上げに応じて事業を拡張してみたり、売り上げは能力によってきちんと分配したりします。子どもを巻き込んで、もっと起業を経験する場を提供していきたいです。

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一方、利用者のママたちから「私、母親なのに働いていいのかな?」という意識も多く見られます。この時代、母親であれ独身であれ、女性であれ男性であれ、働き方はパートや正規雇用、派遣に限定されているわけではない。仕事ができるか、できないかではないでしょうか?

「効率よく仕事を沢山こなすよりも、与えられた仕事をダラダラと長時間働く方が賃金は高い」という時給制の問題点にも気づいてほしいです。フリーランスとして在宅で高単価の仕事を受けられる仕組みが今以上にあれば、例えば「在宅で能力を活かして時給3000円の仕事を1日2時間だけ」「平日は会社勤務+土日は自分の得意を活かした起業」で収入確保も可能だと思います。コワーキングを通して「働き続ける意識」も育ってくれたらうれしいですね。

起業を目指す女性には、その厳しさも意識して欲しい。ここ数年、女性の働きを応援する目的で起業支援(スタートアップ)をする公的な制度は増えたけれど、事業継続を支援する制度はあまりない。結果、女性は起業も多いが廃業も多くなっています。

「女性・若者の新しい働き方のきっかけ」「事業継続を支援する場所」としてもコワーキングに役割はあるのではないかと思います。

「山梨の田舎には2年前にはこんなコワーキングスペースはありませんでした。でも必要だと思い、なかったから作ったのですが、支援なんて不要になるほど女性や若者の起業が気軽にできる社会になればいつでもコワーキングを閉めて、また違うことに挑戦するかもしれません。

(おわり)

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