家賃は本当に不労所得?外資系企業技術者が専業大家に転身してみた

家賃は本当に不労所得?外資系企業技術者が専業大家に転身してみた
フリーランスが自分自身の得意とするテーマで記事を執筆。彼らの知識や知見から、”タメになる”、”学びになる”記事を皆さんにお届けします! 本日は以前、外資系企業に勤め、現在は不動産事業を行なう傍らフリーライターとして活動する内田 陽一さんに『専業大家』について解説してもらいました。【私の専門知識シリーズ】
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突然のメール

私は、欧州に本社を構える外資系通信機器メーカーの技術者でした。2014年秋のことです。17年間続いた私の会社員としてのキャリアに終止符が打たれようとは、その当時は全く考えていませんでした。

ある日突然、1通のメールが送られてきました。同僚2人とのミーティングを終えて居室に戻ってみると、異様なざわつきを伴った雰囲気にただならぬ違和感を覚えたことを、今でもハッキリと記憶しています。

席に着きメールを確認してみると、事業部ヘッドから1通のメールが届いていました。内容を確認すると”We will discontinue the business which we have worked on.”とのことでした。つまり事業撤退を意味する内容でした。

怒鳴る女性

数回の転職経験があった私にとって、幸か不幸かそのような経験は2度目のことでした。その点において、私は他の同僚よりも経験があり心の準備もできていましたので、不思議と将来への不安を感じることもありませんでした。

むしろ自分が取ることのできる選択肢が広がるのではといった、楽観的な考え方をしていました。そして、一般的に考えられるその後の選択としては、他の部署への異動か他社への転職ということになりますが、私の選択は第三の選択肢『独立』でした。

このような経緯で独立という道を選び、本職として不動産賃貸業を始めた私の体験談をもとに、不動産賃貸について説明いたします。

なぜ不動産賃貸!?

リビング

まず私が不動産賃貸を始めたきっかけをお話しましょう。先述の通り、私は2度にわたって会社都合による退職を経験しました。

「外資系の会社に勤めている限り、また同じ目に遭うだろう」。1度目の経験をして再度、外資系に勤め始めた時にそう考えました。

「来たるべき2度目の経験に備えて、自分は何をすべきだろうか?」と考えた時に、会社に頼らず自分でお金を生み出すシステムを構築することが必要だと考えたのです。それを実現する1つの手段が不動産賃貸だったということです。

私が不動産賃貸を選んだ理由としては、以下のようなものがあります。

・会社勤めをしながらでもできる
・融資を引くことによってレバレッジを効かせることができる
・致命的な失敗を負いにくい

一番大切なのは、会社勤めをしながら続けられることです。不動産賃貸においては、仕事の多くをアウトソーシングできます。

リフォームはリフォーム業者、入居付けは仲介業者、物件の管理や家賃収納は管理会社にそれぞれ任せることができるので、自分は経営者として外注先に適宜指示を出すのみということになります。

レバレッジとは小さな力で重いものを動かすことができる「テコ」のことです。つまり融資を受けることによって、少ない自己資金で大きな収益を受けることができるというわけです。

現金100万円を10%の利回りで運用すると1年で10万円の収入です。他方、100万円の自己資金と銀行から借り入れた900万円(金利2.2%・期間20年・元利均等)で1,000万円の不動産を購入・賃貸した場合を考えてみましょう。

10%の利回りが得られたとすると、年間100万円の収入を得られます。借入れの返済額は年間56万円ほどですので、同じ100万円を資本とした収益を大きく伸ばすことができるのが、融資を活用する大きな魅力です。

事業を始めるには失敗した場合のケーススタディも重要です。不動産賃貸を始めてみて、思ったように収益を上げられなくても、不動産を売却することで一定の現金を回収することが可能です。

「キャピタルゲイン」を狙ったという不動産投資法もあるくらいですので、場合によっては買った値段よりも高額で売却することも期待できます。不動産の価格が大きく変動することが考えづらい時代ですので、仮に失敗したとしても再チャレンジすることは十分可能だと考えられます。

家賃はホントに不労所得なのか……

お金

不動産賃貸における多くの仕事はアウトソーシングが可能とお話しましたが、経営者である自分は物件さえ購入すれば、あとは業者に丸投げで良いのでしょうか?

「不労所得」と羨まれることも多い家賃収入ですが、「業」として不動産賃貸からより多くの収益を得ることを目指すと、決して不労ではないというのが私の実感です。

物件を購入したら、賃貸に出せるように自分で隅から隅まで掃除を行ないますし、リフォームが必要であればリフォーム業者の選定も行ないます。

リフォーム内容の検討や現場での打合せも自分で行なう必要があり、遠方の現場には新幹線と在来線を乗り継いで行ったこともあります。

募集を始めるにあたり、家賃設定、敷金・礼金をいくらにするか、フリーレントをつけるか、広告料は何か月分支払うかなどの募集条件の検討、仲介・管理会社の選定など、特に賃貸経営を軌道に乗せるまでは多くのことを自分自身で行なう必要があります。

不動産賃貸業で成功するか否か、最も重要なポイントが物件も自分で探します。私は、不動産賃貸業の成否の8割は物件選びに掛かっていると思います。

なぜそれほど物件選びが重要かというと、物件を安く仕入れられれば安い家賃で賃貸しても利益を十分に上げることができます。競争力のある家賃設定が可能になりますので空室率も下がります。結果として安定した賃貸経営を行なうことができます。

安いだけでは良い物件ということはできません。私は土地の価値に注目して物件の良し悪しを判断しています。築年数が古くなるにつれて建物の価値は失われていきますが、土地の価値に古い・新しいは関係ありませんし、建物のように価値がゼロになることもあり得ません。

また価格の変動も緩やかですので、売却する際の価格も計算することができます。こうした特徴を持つ土地の価値が販売価格の7割以上を占めていれば、私はその物件を購入候補として検討するようにしています。何らかの理由で売却する際も、このような物件であれば損失を抑えることができるからです。

低額な家賃設定を実現できれば自ずと稼働率は上がり、利回りも上がるものです。空室が出た際には、自分で出来る範囲のリフォームはDIYを楽しむ感覚で行なえば、出費を伴わずに空室期間の短縮にもつながります。

退去の際のクリーニングも自分で行なうようにしています。利回りを上げるには出費を抑えることがいちばん。コストを掛けるなら費用対効果の高いものに掛けることが鉄則です。

2ハンドルからシングルレバー水栓への交換や、モニター付のタイプへのインターホンの交換はコストも低額で、内覧時にお客さんに良い印象を持ってもらえます。

ここまででお分かりいただけると思いますが、家賃収入を不労所得と思っている人が不動産賃貸を始める場合は、考え方を少し変える必要があるかもしれません。

会社勤めを辞めてみて

会社を辞めて独立したことが成功か失敗か、今の時点では判断が難しいところです。独立して生活の糧を得ていくことができるのか? これまでどおり金融機関から借入れをすることができるのか? 挙句の果てには路頭に迷うのではないか?

不安なこともたくさんありますが、時間に縛られず自分のペースで仕事をすることができるメリットも享受しています。

サラリーマンという立場を捨てることができる選択肢を準備することができたこと、その選択肢を選んで新しい一歩が踏み出せたという現実を考えると、自分が置かれている状況にとても満足しています。

ただ、そうした状況が続くとは限りません。サラリーマンの時と同様、これから経験するであろう困難に対する対策も考えなくてはならないと思っています。

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