私のアイデア、特許になるの? そのヒントはGoogle自動車にあります。

私のアイデア、特許になるの? そのヒントはGoogle自動車にあります。
特許事務所の所長を務める弁理士さんに伺う、アイデアと特許の関係。クライアントのビジネス成功を願って仕事を提供するフリーランスが知っておきたい、特許の知識です。同業他社にまねされない、利益率の高いビジネスでは、特許やブランドなどの知的財産がうまく使われています。知財の役割を知り、喜ばれる提案をしましょう。
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1.特許権や商標権などの知的財産権の役割は、ビジネスの利益を守ること

百貨店やスーパーで買い物をするとき、「特許料」や「商標使用料」や「著作権料」などの知的財産権について、直接の支払いはしていません。商品全体の値段で支払います。

例えば、音楽やプログラムのCDを買うときには、数千円を支払います。しかし記録メディアとしてのCD自体の原価は、十円しません。その差額は、記録されている音楽やプログラムの価値です。この音楽やプログラムが生み出す価値=利益は、著作権で保護されています。

同じように、ブランド物のシャンプーの利益は商標権で、性能の良い家電製品の利益は特許権で守られています。私たちの世界では、製品やサービスの値段には、特許権などで守られている「知的財産」への対価が含まれています。

ランサーがこの知的財産権の仕組みを知ると、クライアントの状況をセンスよく理解できます。知財について少し知っておくだけで、クライアントに喜ばれる提案ができるのです。この記事はその入門編で、[1] 特許の事例と、[2] アイデアと特許の違いを紹介します。

2.Google、自律運転の自動車で、歩行者にメッセージを送る特許を取得

自動車産業は、歴史があり、就職も人気のため、優秀な技術者が揃っています。Googleは、この自動車業に参入し、自動車の自動運転に取り組んでいます。

実は、Googleは、既存の自動車業界が気づかないアイデアを生み出し、着々と特許を取得しています。2015年12月のニュースをみましょう。

佐藤信彦「Google、自動運転車の“意図”を歩行者に伝える技術–米国特許として登録」(CNET, 2015.12.2)

このアメリカ国特許の経過を調べてみると、元となる特許が2015年2月に成立していました。今回は、2月にアメリカで成立した発明(アメリカ特許第8,954,252号,特にFig. 6B [出典: アメリカ特許庁])の内容を簡単にご紹介します。

特許の図

この特許で保護される製品は、自動運転をする自動車です。そして、センサーで道路を含む外部環境のデータを集めて、分析します。道路に歩行者を見つけると、この自動車の車内にあるコンピュータは、歩行者の移動方向と速さを測定して、道路を横切ることになるか否かを自動判定します。車載のコンピュータは、先に横切ってもらうプランを選択した場合、「渡ってください(SAFE TO CROSS)」などと表示します。賢いですね。

この特許が成立したので、Google以外の自動車メーカーが、アメリカで自動運転を実現する際には、この特許の影響を受けない他の技術を開発するか、または、Googleに使用料を支払うなどして、この特許を使わせてもらわないといけません。

自動車の市場に新規参入したGoogleは、この特許を取得したことにより、既存の自動車会社に対して、また一つ、有利になりました。なお、この特許は、日本には出願されていませんので、日本国内では、他の企業もこの技術を使えます。特許は国ごとに成立するのです。

3.どうすれば良い発明をすることができるか

この発明でGoogleが素晴らしいところは、自動運転での歩行者とのコミュニケーションという新しい課題に、真っ先に取り組んだことです。

新しい課題に真っ先に挑戦する人や企業が、このGoogle特許のような、広くて有効な特許を取ります。新しい課題を見つけ出して、他の人々よりも先にその課題に挑戦することが、役立つ特許を得るコツなのです。

このやり方に、わたしたちランサーが良いアイデアを出していくヒントがあります。Googleから学びましょう。新しい課題に、挑戦するのです。

新しい課題への挑戦は、ランサーの仕事としても、困難が多く、負荷が高いです。新しい課題への挑戦は、不安も大きく、コストがかかります。しかし、そのクライアントの新しい挑戦を応援し、一緒になって試行錯誤していくことが、クライアントのビジネスの成功に直結します。クライアントやそのお客様に喜ばれる提案や仕事は、そのランサーの評価を高め、単価アップにもつながります。

4.特許法の目的と、特許法が保護するもの

特許の図

特許法は、産業の発達を目的として規定されました(特許法第1条)。ですので、産業が発達するような発明に特許を与え、産業の発達に役立たない段階のアイデアには特許を与えません(特許法第3条、第29条)。

産業が発達するのは、特許を受けた発明についての製品が、製造されたり、販売されたり、使用されたり、輸出されたりするときです。発明は、作ることができ、使うことができることが必要です。

それでは、Q&A形式で、アイデアが特許で保護されるか否か、整理します。

Q1 アイデアは特許権で保護されますか?

A1 保護されません。特許権で保護されるのは、課題を解決する手段です。作ることや、使うことができるものです。新しい製品をつくり出す技術が、特許権の対象です。

Q2 例えば、「自動運転する自動車は、交差点の自動運転が難しいので、なんとかして欲しい」という新しい課題の指示は、特許になりますか?

A2 新しい課題を指示したり、こうなって欲しいという願望を得た段階では、特許になりません。

Q3 では、「自動運転する自動車が、歩行者にメッセージを送る」という発想はどうですか?

A3 自動運転の自動車が、どんなとき、どういう自動判断で、メッセージを送るのか、書いていません。そして、このメッセージを送る自動車の作り方も分かりません。

この段階のアイデアでは、交差点でも自動運転したいという課題をまだ解決しておらず、新しい自動運転自動車を製造できないので、特許になりません。新しい製品をつくり出して、売上をもたらすことができる技術が、特許になります。

Q4 「センサーで外部環境を測定して、歩行者の次の行動をコンピュータで予測して、横切る予定の歩行者向けに、わたって下さいと伝達する」という仕組みはどうですか?

A4 交差点を横切ろうとする歩行者にメッセージを伝達できれば、交差点の自動運転を実現できます。また、センサーやコンピュータの使い方や、自動運転自動車の作り方を想像できます。この仕組みは、課題を解決でき、作り方や使い方が分かる技術なので、特許になります。

製品を作れる程度に、アイデアを、技術や仕組みに発展させた人が、発明者です。

このため、きっかけとなるアイデアを出した人や、課題を示した人ではなく、発想を具体化した人が、発明者です。その切り分けは非常に難しく、争いがあると最終的には裁判です。特許出願書類に発明者として名前が掲載されていない人が裁判で発明者と認定されたり、掲載されている人が発明者ではないと認定されたりすることもあります。

ランサーとして、特許に関してクライアントとのトラブルを防ぐには、自分で使う予定のとっておきの発想を、クライアントに簡単に伝えないことです。自分で先に特許出願しておくのが理想です。

Webサイトの構築・運用などで、まかせるから何とかして欲しい、という指示の場合、データの使い方やプログラムを工夫して、新しい仕組みをランサーが実現すると、そのランサーが発明者になります。Webサイトの構築・運用でも、表示の自動化や、特別な機能の実現や、読者へ関連する商品や記事をレコメンドするシステムなどは、特許になっています。

作業に着手する前に、「課題の解決策を私が考えるので、私が発明者になります。特許出願する際にはご相談ください。特許品の実施による利益や、ライセンス収入があった場合、私への報奨が別途必要になります」などの相談をしておくことも考えられます。

新しい課題に挑戦することは、良いアイデアを得る一つの方法です。ランサーとして、また個人事業主として、顧客の満足を高めるために必要であれば、新しい課題に取り組み、試行錯誤を楽しみましょう。

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