副業で人事顧問を実践する上場ベンチャーの人事責任者は、社外に価値の物差しを求め続ける

本業が多忙ながら、数社で人事顧問の副業
吉田翼さん(仮名:30代)が本業で勤めるのは、メディア事業を生業とする上場企業です。正社員として、人事部門の責任者という重責を担っています。
従業員数100名弱の会社ですが、業績は右肩上がり。『自社に合う人材は何人でも採用したい』フェーズの会社で、人事責任者として採用業務にも携わります。社員数が増えれば、評価制度や給与設計なども重要になるため、本業は極めて多忙。
それでも副業で、毎月数社と人事顧問の契約をで結んでいます。顧問報酬は月額数万円程度、月に数回のミーティング参加ですが、顧客の要望に応じて平日も休日も対応しているそう。
本業だけでも忙しい吉田さんは、いかにして他社の人事顧問を全うしているのでしょうか。また人事の仕事は、副業で従事するにはハードルが高そうに思われます。
いかにして人事業務で副業をしているのでしょうか。そこで得られる価値とは何があるのか、副業実践者に迫ります。
人事部長打診がきっかけで、副業顧問
ー本業について聞かせてください。事業内容や規模、吉田さんの仕事内容や業務量など。
人事の責任者という立場で、採用から給与や評価の制度設計に携わっています。各制度や施策は企画が大事なわけではなく、導入して、運用から定着までが重要です。つまり新しいことを始めたら、その分の仕事が増えていきます。
現在の会社規模は100名弱ですが、これから大きくなっていくフェーズです。自社にマッチする人材がいれば、一人でも多く採用したいと思っています。ですから業務量という観点でいうと、これからはもっと忙しくなるでしょうね。
ーご入社と副業を始めた時期はいつ頃でしょうか。
入社したのは2年前です。前職で経理から財務、法務、総務、人事とバックオフィス全般を経験して、次にどこでどんな挑戦をしようか考えていたタイミングで、現職の代表と話す機会があって。一緒にやろうと誘っていただいて、入社を決めました。
副業は入社から1年後、2017年が最初ですね。
ー副業のきっかけは?
ビジネスSNSのLinkedinに登録していて、そこで声をかけられました。人事部長で入社を打診されて、今の会社での仕事があったのでお断りしたところ、入社は無理でも手伝って欲しいと。人事業務の顧問的な立場で、月に数万円を固定でいただく契約です。
ー本業では副業を推奨しているのでしょうか。会議への参加となると平日の日中が中心になりそうです。
先方の都合に合わせてますので、平日の午前中というケースもあります。ただし本業の会社では、副業は推奨されていません。といっても人事制度をつくるのは私自身なので、推奨にしていない、というのが正しいですね。そのかわり禁止もしていません。
ー副業をしている社員は、他にもいらっしゃるのですか?
人事という立場なので相談されるのですが、何人かいて、断ったことはないです。禁止してないわけですから、本業に支障がない範囲でと伝えています。
人事だからこそ、副業で自分の価値を知っておくべき
ー副業では、具体的にどのような仕事をなさっているのでしょうか。
採用から制度設計、導入や定着まで、人事周りのあらゆることを相談いただきます。課題を洗い出したり、顧問先の企業にとって最適な制度を考えてアドバイスをしたり。
現状は3社の顧問をさせていただいてますが、業種やフェーズが違うので、会社ごとに具体的なアドバイスが変わっていくのが面白いです。人材と広告、そして小売の企業から依頼いただくので。
ー多忙な中でも時間をつくって副業をするメリットはどこにあるのでしょうか。
副業は自分の頭を整理する機会だと思ってます。報酬だけを考えたらやっていません。本業と近しい副業をするのは、完全に自分のためになるから。会社の仕事はインプットとアウトプットの繰り返しです。新しいことをやるから、情報や経験を貯めていかなくちゃいけない。
でもそれが絶対的に正しいかなんてわかりませんし、本業だけのアウトプットじゃもったいないと思っていて。これを他の会社や誰かに伝えることで、仮説の数と検証による精度が上がっていきます。そもそも自分の中で、どれがノウハウなのかって分かりにくいと思うんです。
他人に伝える行為と受け取ってもらうことで、初めてノウハウが体系化されていきます。本業が特別なのか、副業の会社に伝えることで汎用性があるかが見えるのが面白くって。また本業では社員がお客さんで、仲間であり身内なわけです。社員に喜ばれるのは嬉しいですが、見方を変えると狭いのかなと。
例えば料理が得意だとして、家族に振舞って美味しいと言われるのと、他人からお金をもらって振る舞うのは違うじゃないですか。自分の価値やスキルを確認することに繋がっていて、とても大きな経験になってるんです。
人事の仕事を副業にしている人は少ないですが、内向きの仕事だからこそ、給料に見合った価値があるのかを、自分で確かめにいくことは大事だと思いますよ。
(おわり)