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人件費の変動費化、短期的な取り組み施策

先行きの不透明な時代を乗り切るための経営手法として、「人」と「人に関する費用」の流動化を考える連載第2回。前回は『人件費=給与ではなく総額人件費で考える』として、経営観点で人に関わるコストについてお伝えしました。本稿では、短期的な取り組みとしての「人件費の変動費化」について考えてみます。

連載1|企業経営に効く、人件費の変動費化を考える

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様々な経費削減策を行なうも、外部リソースの活用が増えるのは既定路線。

コスト
ある調査によると、人件費の項目の中で削減したいと考えているのは、「残業手当」「諸手当」「法定外福利費」を挙げる企業が多かったそうです。「残業手当」に関しては、成果主義への移行が大きな要因になっていると考えられます。

また昨今の国内事情をみると、ホワイトカラーエグゼンプションの導入が検討されるなど、労働時間に比例する賃金への見直しが注目されているようです。ただし残業代はおろか、労働時間という基準をなくした中で、給与はどう支払われるべきかという点について具体的な対策が示されていません。仕事のできる人には新たな業務が降り注ぎ、単純な強制労働になるという懸念も。無賃金残業の合法化となる懸念が、労働者側には大きな不安となっているようです。

総額人件費の縮小については、「残業手当」などの削減以外にも「ホワイトカラーの生産性向上」「非正規社員の活用」「業務の外注化」「派遣労働者の活用」など、いくつもの方法が考えられます。いずれにしても「外部労働力の活用」を考える流れがあるようです。内部的な施策を考え実行するよりも、外部リソースを利用する選択にダイレクトな効果を期待する声が大きいのも事実。ではいかにして「人件費」を「変動費化」するのか。その方法について考えてみます。

短期的な取り組みとしての人件費の変動費化。

人々
人件費を変動費化するにあたり効果的なアプローチ方法は、短期的な取り組み・中長期的な取り組み・賃金以外の取り組みを掛け合わせることが有効と考えられます。まずは短期的な取り組みについて、具体的に考えてみましょう。

日本の賞与制度と各国の賞与制度

まず目を向けたいのが、個人の年収に占める賞与の割合が25~27%となっていること。約1/4という高い割合になっているのです。高いウエイトを占める賞与に変化を加えることで、人件費の流動費化が図れないでしょうか。そもそも賞与という仕組みは何なのか。実は日本独特ともいえる制度になっているのです。そこで参考までに、諸外国の賞与事情を調べてみました。

・アメリカ
日本では正規雇用されている従業員の大半に支払われる賞与。しかしアメリカでは必ずしもすべての従業員に支払われるわけではないようです。多くは管理職や中間層以上のスタッフのみに支払われ、年収の5~10%が一般的。ただし職位が高ければ話は別で、年収の50%を超えることも珍しくありません。また業種・職種によっても差があり、例えば弁護士であれば2万ドル以上、投資銀行であれば7万ドルを超えるとか。

・イギリス
イギリスにおいては基本的に賞与の支給はないようです。ただし会社の業績が非常に良かった際、個人の業績が会社に多大な貢献をした際に支給されることがあるとか。これは民間企業の話であり、公務員については能力に応じたボーナスが支払われるようです。

・イタリア
一方でイタリアについて調べると、ボーナスの支給が法律で義務付けられています。しかしその額は月収の1ヵ月が基本とのこと。確実に賞与が支払われるという点では、労働者にとって日本より良く見えるかもしれません。しかし、日本では数か月分の支給が多いこと、イタリアは日本と比較して失業率が高いことも触れておきます。

・中国
お隣の中国では、年1回、1ヶ月分の支給が平均的のようです。ただし中には賞与の支給がない企業、年に複数回支給がある企業と様々。特筆すべき点としては、現金支給だけではなく、現物支給のケースもあるようです。買い物に利用できるプリペイドカードや交通カード、ガソリンカード、お酒などの飲料や食品、レアケースだとは思われますが自動車や住宅を支給される例もあるとか。

・フランス
最後にフランスについて。一般的には、賞与ではなく手当てという概念で支給されるそうです。ただし必ず支給されるものではなく、会社の業績が一定以上の場合に支払われるとか。手当の名目としては、「バカンス手当」など特徴的です。

固定部分と業績連動部分とに、賞与基準を明確化する。

人件費分析

各国の賞与についての仕組みを見ると、日本の賞与制度が独自であることがわかるかと思います。しかしながら日本においては、賞与の支払いが義務化されているわけではありません。また本来の目的で考えると、企業の業績に連動して支払われるものだと考えられます。

では、今日から突然、賞与の支払いをないものとできるでしょうか。ここには慣習となっている事実、既得権の問題が発生します。なかなか簡単に賞与支給をなしとする、とはいかないものですね。では、いかなる方法で賞与に変化を加えるか。具体策について考えてみます。

業績賞与の設定と比率変動

近年、取り入れる企業が増えてきた方法として、賞与を業績に連動する部分と固定的に支払われる部分を明確化し、業績賞与部分は完全に会社の業績と連動させるもの。更なる手を加えて、職位が高い=賞与額が高いほど業績連動比率を上げていく方法です。これにより賞与の一部、つまり人件費の一部を変動費化させることができます。

業績賞与の連動先を明確化

更に業績と連動する賞与について、組織目標と個人目標部分に二分する施策も有効です。目標の達成によって左右される業績連動賞与になるので、その達成イメージが持てるかどうかは、労働者のモチベーションを大きく左右します。

達成イメージが持てる・自らの貢献度合いが可視化され賞与の増額が実感できるということは、働く側の意欲を駆り立て、動機付けとしての機能を果たすわけです。併せて期待できる効果として、従業員一人ひとりが企業業績に対する意識を高める効果もあるでしょう。明確な基準のもとで業績賞与が支給されることで、評価に対する納得性が高まるメリットも挙げられます。

年俸制の導入と運用

年俸制という給与制度自体が、成果や業績に基づく賃金体系です。固定化している人件費を変動させる場合、業績に対応させやすいことからも適した制度と考えられます。年俸制についても、多くの企業が導入するようになりました。

ただし日本の多くの企業で取り入れられる年俸制は、欧米の制度とは異なり、固定部分と変動部分の2要素から構成されるケースが多いようです。固定部分とは、会社が支給を保証している安定的な年俸であり、後者は会社業績への貢献度によって変動する年俸。概念は業績賞与と同じであるため、明確な評価基準での運用が鍵となるでしょう。

成果配分制度の導入と運用

月例給与や賞与とは別に、成果を変動的な金銭として配分する成果配分制度の導入も検討の余地があります。特に売上が厳しい状態で賃金水準が下がった場合、一定期間
の努力や目標達成が賃金に結びつくことを示し、労働者のモチベーションを維持する効果が期待できそうです。成果三分法を取り入れる場合は、配分比率の明確化や、業績賞与や年俸制度の運用と同じように、評価基準の明確化は検討の必要がありそうです。

人件費を変動費化させる方法として、まずは短期的施策をいくつか挙げてみました。これらは企業ごと、マーケットごとに導入の可否が別れるでしょうし、中長期的な視点で見た時に上手くいくとは限りません。あくまで短期的に人件費を変動費化させる方法として考えてみました。次回は中長期的な、人件費の変動費化について考えてみます。

<つづく>

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