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「人を増やさない経営」のための、3つの基本原理

世界4大会計事務所の1つDeloitteで経営コンサルティングに従事し、現在はティネクト株式会社代表取締役である安達氏。1000社以上にIT・人事のアドバイザリーサービスを提供する氏が語る、「人を増やさない経営」とは? その基本原理について紹介します。

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正社員を増やさない企業の増加理由を探る

人々
現在、「社員を増やさない」という会社が増えているように感じる。特に正社員の雇用には、企業は慎重だ。非正規雇用の増加、フリーランスの増加などの統計データは、その裏付けとなる。なぜこのようなことが起きているのだろうか。

一つには「軽い経営」をしたいという経営の要求。一つの事業の寿命が極端に短くなった現在、正社員を抱えて固定費を増やすことは、企業としては不合理である。事業の状況に応じて柔軟に社員数を調整したい、というのは自然な成り行きだ。

またもう一つには、「フリーランス」「派遣社員」のほうが正社員よりも成果に敏感という事実も存在している。彼らは成果を出し、顧客に気に入られなければ食べていけない。したがって「成果主義」を採用できるところも企業にとっては魅力的である。

分析

大きな利益を出せる事業は「あまり人を増やす必要がない」という現状もある。

例えばLINEの時価総額は1兆円を超えているが、人員数はたったの800名足らず。また同程度の時価総額でAirbnbという「空き部屋を貸し出す」Webサービスの会社があるが、彼らは全世界190カ国で商売をしているが、従業員数は1000名程度だ。

これは現在時価総額1兆円の企業、例えばリコー(連結の従業員数10万名超)やNEC(連結の従業員数9万9千名)などと比べると極めて小さい数字である。知識集約型産業では、少人数で大きな利益をあげることができる。

以上のような背景から、「人を増やさない経営」を望む経営者も多い。だが、「人を増やさない経営」は、言うほどカンタンではない。

例えばフリーランスに頼りきりになっていると社内にノウハウが残りにくい。また、自社の仕事を優先してくれるとは限らず、人の確保に苦労するときもある。また、人が入れ替わりやすい仕事は、仕事の質の管理も一苦労である。

そこで本稿では、上の現状を踏まえ、「人を増やさない経営」のポイントを解説する。

「人を増やさない経営」の基本原理

「人を増やさない経営」は、正社員をできるだけ増やさず、企業として大きな成果を上げることを目的とする。その基本原理は3つである。

  • 経営戦略、新規事業、研究開発は経営陣、すなわち役員・幹部が担う
  • 主力事業の実作業はフリーランスに任せる
  • 雑用、事務処理や手続き関係などは、パートタイム労働者が担う

順に説明していこう。

経営戦略、新規事業、研究開発、業務設計は経営陣が担う

経営戦略

成果を評価しにくいが、会社の将来を担う重要な仕事、マニュアル化が不可能な否定形業務は、「働いた時間」ではなく、「成果」で評価されることが当然であるので、労基法の対象外である役員の仕事である。

もちろん、成功すれば報酬は青天井となり、大きなリターンが得られる。社長の給与は会社全体の成果に連動している。基本的には「最優秀で一緒にリスクを取れる、価値観を共有する仲間」が役員となる。

また、後述する「フリーランスに実作業を任せる」ために、会社の頭脳たる彼らは徹底してフリーランスに適用する職務の設計を行い、それをマニュアル等に文書化する。フリーランスの能力によらず、ある程度の水準の仕事をしてもらうためだ。これが、「会社に残るノウハウ」となる。

主力事業の実作業はフリーランスに任せる

ワーケーション

ある程度定型化でき、成果を定義できる仕事はフリーランスに任せる。

内容は契約に定められ、一定の成果に対して一定の報酬が支払われる。フリーランスのモチベーションを上げるため、一定の要件を満たすと割増の報酬を渡す会社もある。また時には有能なフリーランスが役員より稼ぐこともある。当たり前だが、品質や納期など一定の要件を満たせないフリーランスは、契約を更新しない。

一方でフリーランスが契約で定められたこと以上のことを提案し、それが採用されることもある。それについても特別ボーナスを定めている。

彼らは有能なフリーランスを惹きつけるために、対価を惜しまず支払う。正社員に残業代を払うより、フリーランスにボーナスを支払うほうが遥かに合理的であるとの考え方だ。これらは、働く時間も、場所も拘束しない。ただ成果を出し、経営に協力してもらえる人を厚遇する仕組みだ。

雑用、事務処理や手続き関係などは、パートタイム労働者が担う

事務作業

作業定義とマニュアル化が極めて高度に進んでいる定型業務は、パートタイム労働者が担う。

こちらは労働者単位で生産性が測定されており、フリーランスと同様、一定の生産性が出せない労働者は契約が更新されない。だが、フリーランス同様、一定以上の生産性が出せる労働者にはボーナスが支給される。

まとめ

人の繋がり
「人を増やさない経営」のポイントは、「作業の定義」と「成果の定義」にある。これは、会社の頭脳たる役員・幹部たちが行う。彼らはある事業を行うとき、仕事を3種に分類する。

  • マニュアル化できない頭脳労働⇒役員・幹部の仕事
  • ある程度までマニュアル化できる作業⇒フリーランスの仕事
  • マニュアル化が完全にできる単純労働⇒パートタイム労働者の仕事

このように仕事の定義することにより、「人を増やさない経営」が可能となる。一見冷たい仕組みのようにも見えるが、実はそうとも言えない。フリーランスたちは、高額な報酬をある程度安定して稼ぐことができ、パートタイム労働者たちは柔軟な働き方が可能だからだ。有能な人はいつでもフリーランスとして契約できるし、また役員になりたいといえば、その道も開けている。

実際、これらの会社の利益率は非常に高く、またフリーランスとパートタイム労働者の平均給与も高い。全員が「成果」を強く意識しているため、「利益の出る」事業のみが残り、報酬を高く設定できるのである。

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