ブランドのロゴと聞くとどんなものを思い浮かべるでしょうか。良いブランドのロゴを考えるコツ、そのために考えなくてはいけない商品のタグラインの関係も一緒にご紹介します。いくつかの具体例を見ながらご紹介します。

目次
ブランドとは何か
「ブランド」と聞くと、商標でしょ、と思う人は多いかもしれません。もちろん商標登録されたブランドマークを思い浮かべるのは当然といえば当然のこと。では、ブランドとは、そもそもどのようにして生まれたのでしょうか。これを知ると、ブランドとはどのようなものなのかがわかるので、簡単にご紹介します。
アメリカではどのようにしてブランドが生まれたのでしょうか。
西部開拓時代のことです。当時の雑貨屋では、いろいろなものが販売されていました。そして、その多くは量り売りが中心。そんなお店で客は商品を買います。その商品がとても気に入った客は、もう一度同じ商品が買いたい、と思いますね。
ところが同じような商品がたくさんあって、区別がつかなかったのです。客が気に入った同じ商品を買いたいと思ったのに、店に入っても同じものがどれだかわからずとても不便だったのです。
そこで、メーカーは、量り売りではなく、自らの社名をつけた袋に商品を入れて、定価販売を始めたのです。つまり、パッケージにメーカー名を記載するようにしたわけです。こうして、客は、メーカー名を確認しながら、同じ商品を再購入しやすくなったわけです。同じブランドなら、とりわけ他よりすぐれたものではないけれども、それ以下ということもないので、安心して買うことができました。つまりブランドによって顧客は、同じ品質の商品を迷わず買うことができるようになったというわけです。
ブランドは、商品を再注文するためのものであり、品質の保証でもあったわけです。
また、ブランドは、もともとは“焼き印”という意味合いも。他のものと区別するために、焼き印が押されたというわけです。こうしたことを考えると、ブランドには、
- 再注文する際に便利なもの
- 品質の保証
- 他社製品との区別ができる
という機能がある、ということがわかります。
ブランドとは期待や安心感
現在、ブランド戦略はブランディングといわれ、商品やサービスなどを市場の中で際立たせて優位性を発揮する戦略として知られています。つまり、ブランド戦略とは、市場で目立ち、しかも魅力的に見せるための方策、というわけです。しかし、莫大な予算をかけて一流デザイナーに広告デザインを発注し、ブランドを構築するというのは、予算が潤沢にある企業にしかできません。
限られた予算のなかで商品やサービスを目立たせたい、というのは商品やサービスを提供する会社であれば、当然のことです。
そこで活用したいのが、商品ロゴマークやロゴタイプ(文字)、タグラインです。ロゴタイプには、企業名そのものをデザイン化して、個性を表現したものが数多くあります。たとえば、「SONY」「ローソン」「NISSAN」などがそうですね。これらは社名ロゴと呼ばれるものです。その名前を見たり聞いたりするだけで、ユーザーは価値を感じます。価値とは、品質に対する期待や安心感がある、ということです。
今回は、主に、商品名を表すロゴタイプについてご紹介していきたいと思います。では、世の中の商品名は、なぜロゴタイプ化されているのでしょうか。
商品名を表すロゴタイプはどんな効果を発揮する?
たとえば、あなたがスーパーで買い物をするとき、商品はどのように選ぶでしょうか。店内でさまざまな買い物をした後、ふと牛乳を買わなければならないということを思い出したあなたは、牛乳が陳列された冷蔵コーナーへ行きました。すると、さまざまな牛乳が置かれています。たとえば、こんな牛乳が陳列されていたらどうでしょう。
特選牛乳
特濃牛乳
まきば牛乳
低脂肪牛乳
カルシウム牛乳
有機牛乳
低温殺菌牛乳
さて、あなたはどの牛乳を選ぶでしょうか。
いつも決めているのがこれだから、ということもあるでしょう。違ったものも飲んでみたい、と思うかもしれません。こんな牛乳もあったの、という発見があるかもしれません。
同じ牛乳というカテゴリーで、各メーカーは、このようにそれぞれが個性を競い合い、選ばれる商品となるように工夫を凝らしているわけです。
それぞれの牛乳には、ロゴタイプとして文字がデザイン化されています。そして、牛乳パック全体をパッケージデザインし、スーパーの売り場で際立つようにデザインされているのです。
明治、森永、小岩井など、社名にブランド力がある企業の場合は、企業ブランドの力が選択の際に働きます。この会社のものならまちがいはないだろう、という期待と信頼感です。次に気になるのは、味や機能でしょう。ストレートに「おいしい」とつけている場合もあれば、「特選」「特濃」など、味の違いを期待させるものもあります。ダイエットをしている人や健康志向の人は、「低脂肪」を選ぶかもしれません。
安全性や健康意識の強い人は、「低温殺菌」「有機」「カルシウム」というキーワードにとびつくかもしれませんね。
このように、一般的な商品でも、特徴をつけてその説明を加えると商品力が向上します。商品を先鋭化することができ、目的やライフスタイルからこの牛乳を飲みたい、というターゲッティングが明確になるのです。それはつまり、ブランドとして強くなっていく、ということです。これが商品ブランドとロゴの関係性を端的に表したものです。
そして、冒頭でご紹介したブランドの成り立ちの話を思い出してください。ブランドとは、
- 再注文する際に便利なもの
- 品質の保証
- 他社製品との区別ができる
というものでしたね。
まさに、牛乳という商品に対してブランド化すると、このような効果になっていくわけです。
牛乳のロゴタイプが意味するものは?
では、ロゴタイプとブランドの関係性はどうでしょうか。あるブランドのイメージ照準を定めるためにロゴデザインがあります。牛乳の場合はロゴタイプ(文字)のデザインが重要です。その牛乳のイメージをどこに置くか、ということが最優先で考えられているのです。
牛乳のロゴタイプには、明朝系が使われていることが多いようです。低脂肪を特性にしている牛乳はだいたい明朝体が使われています。ゴシック系では、文字が太目になるため、「低脂肪」による期待効果のイメージがつながりにくいからでしょう。見るからにどっしりとした書体では「低脂肪」=「ダイエット」のイメージが醸成できません。
有機牛乳ではどうでしょうか。この場合は、たいてい太い明朝が使われています。オーガニックのイメージを高めるためカラーリングもグリーンを使用し、自然のイメージを強調しています。
「特濃」はどうでしょう。やはり太い明朝を使用していることが多いようです。あるメーカーでは袋文字にして白色を強調しています。白い部分を多くしながら、文字の可読性を高めかつ白さを強調しているわけです。これによって、「特別に濃い味の牛乳」というイメージを醸成しています。
「低温殺菌」はどうでしょうか。こちらの場合、しっかりしたゴシック系の文字が使われていることが多いようです。これによる技術の安定感を演出しているのかもしれません。手描きの筆文字風書体の商品もあります。こちらは、“殺菌”というイメージを強調したかったのかもしれません。
このように、商品ロゴタイプの書体、デザインが意味するのは、商品の持つ特性をロゴタイプに個性を与えることでより的確に訴求するということなのです。商品ブランドをロゴタイプによって補強していく、という考え方です。
これはロゴタイプ制作の基本となる考え方といえるでしょう。
ロゴに強力な発信力を与えるタグライン
タグラインとは、ロゴに添えられたことばのことです。企業ロゴに添えられているものはブランドステートメントと呼ばれています。スローガン、コーボーレートメッセージといった意味合いのもの。たとえば、
昨日まで世界になかったものを。 旭化成
出典
その感動を、わかちあう。 アサヒグループホールディングス
出典
おいしさと健康江崎グリコ
出典
100年をつくる会社鹿島建設
出典
地図に残る仕事。大成建設
出典
いかがですか。企業のスケール感や使命感などを感じさせ、社名だけでは感じ取れない思想のようなものまで表現できるということがおわかりいただけるのではないでしょうか。これこそがブランドステートメント。企業タグラインと呼ぶこともあります。
では、商品ロゴタイプに添えられるタグラインとはどのようなものかみてみましょう。
やめられない、とまらない かっぱえびせん カルビー
出典
高画質4K×音声検索BRAVIA ソニー
出典
商品ロゴタイプに添えられるタグラインは、商品の本質的なベネフィット(製品利便、得られる利得)を語っています。商品の説明にとどまらず、商品のベネフィットまで語ることで、商品に対する関心度を高め、購入意欲を高めてくれるといえるでしょう。
実際の中小企業に見るタグラインの例
中小企業の開発した製品でもタグラインは制作できるのでしょうか。もちろん可能です。
第26回の「中小企業優秀新技術・新製品賞」の優秀賞を受賞した商品をご紹介しましょう。
さびで錆を制す 新次元の維持管理を実現する反応性塗料 パティーナロック
この場合のタグラインは、「新次元の~」のほう。パティーナロックという商品ロゴタイプに添えられたタグラインで、この商品がどのようなカテゴリーの商品かがわかるようになっています。
このメッセージの構造を考えると、「さびで錆を制す」は、商品キャッチです。いわゆるキャッチコピーですね。そして、それがどういうカテゴリーの商品で何をもたらすか、つまり、ベネフィットは何かということを表現したものが、「新次元の維持管理を実現する反応性塗料」ということになります。
キャッチはターゲットの気を引く、なんだろう、と思わせるレトリックが必要です。そのため、商品から少し離れた表現になりがち。しかし、そのままだと商品から離れすぎて着地できません。つまり、読み手の理解が宙ぶらりんになってしまうのです。そこで、タグラインをつけることで、ああ、そうか、そういう意味だったんだ、ということがわかるように、つまり着地させることができます。
商品ロゴとタグラインで目立つ販促に
しかし、現実には、中小企業でタグラインを駆使した商品ロゴタイプやタグラインは多くありません。また、完成度という点でもプロのコピーライターが介在しなければ困難でしょう。その理由は、タグラインの制作スキルに関わっているからです。しかし、だからこそチャンスがある、といえます。適切なタグラインを制作でき、適切なデザイン処理がなされれば、広告としての機能は飛躍的に高まります。それがあまり行われていない業界であるならば、こうしたアプローチをするだけで目立ちます。つまり販促になるということです。
商品ロゴタイプは、タグラインを得ることでさららに強力な広告ツールになります。商品の特性を絞り込み、短いことばで表現することで、射程距離の長い広告、刺さる広告になります。
まとめ
いかがでしたか。商品ロゴタイプの考え方、それを補強するタグラインのあり方などをご紹介しました。商品を広告する際、つい売り手の発想だけになりがち。商品ロゴタイプやタグラインを活用することで、効果的な広告、販促をすることが可能になります。ぜひ、新商品はもちろん、従来商品にもこの考え方を活用してみてください。
フリーランスのコピーライター。
中小企業から上場企業の商品広告(新聞、雑誌、ポスター、チラシなど)、企業広告をはじめ、インナー向けの販売マニュアル、プロモーション映像、商品ネーミング、企業名ネーミング、社名ロゴマークディレクション、サービスマークディレクション、販促企画などに従事。
都内のデザイン専門学校で約8年間、グラフィックデザイン科の講師も務める。
コピーライターでありながら、デザインの基礎を講義。受講生の間では実戦的な授業と評価され、担当したクラスは平均90%の就職率を誇る。
「日経BP社年間企業広告最高賞」、「消費者のためになる広告賞」などの受賞歴も持つ。
