提案文 :
◎タイトル「タキジイの桜」
◎ペンネーム「たんぽぽ本舗」(tannpopo‐honnpo)
太郎君は12歳の小学校6年生の男の子です。
太郎君は、木の事にとても詳しいタキジイが大好きでした。
太郎君のおじいちゃんは、大きな公園を作ってきた造園家なのです。
県内にある一番大きな国立公園を作ったのもおじいちゃんの仕事でした。
「この森林公園は僕のおじいちゃんが作ったんだよ」と友達にいえる事が彼の自慢でした。
タキジイは、退職前に樹木医の資格をとり、元気のなくなった樹木を再生することに取り組んでいました。
ある日、太郎君はタキジイにたずねました。
「どうして樹木医の資格をとるの?」
「泉川のほとりに沢山の桜並木があるだろう。あの桜は、昔大地震があった後に植えられたものなんだ。このあたりは大火事になり、沢山の人達が泉川に逃げてきて亡くなったんだよ。その人たちを忘れないようにこの桜は植えられたんだ。」
「そうだったね。小学校4年の時に習ったことがある。」
「泉川のほとりの公園に大きな慰霊碑があるだろう。その中に、太郎のひいおじいさんの名前も刻まれているんだよ。」
太郎君は、タキジイの伝えようとしていることがすぐに分かりました。
「桜の木もわしのようにおじいさんになっちゃたんだな。枯れそうになっている木も増えてきた。わしは、その木を一本でも助けたいんだよ。」
タキジイは、大震災で亡くなった父親を桜の木に重ねて、その再生に命を懸けていたのです。
タキジイは晩年を樹木医として元気に働いていましたが、80歳を超えた年に病気でたおれてしまいました。入院していた病院の窓からは、タキジイがずっと守ってきた桜並木を見下ろせる部屋でした。
3月のある日、太郎君は嬉しい知らせをもって、タキジイの病室を訪ねました。
「おじいちゃん、志望高校の合格証だよ!僕もおじいちゃんのように造園を学んで、大きな公園を作るんだ!」
「太郎、おめでとう。おじいちゃんは嬉しいよ。」
「窓の下を見てごらん。この桜をワシは子供のころからずっと見て守ってきた。特にこの20年以上は、樹木医として愛情をこめて、お前のひいおじいちゃんの桜を守ってきた。」
「今年の桜がこれまで見た中で一番美しい。太郎よ、わしもこの桜になって、これからもお前のことをずっと見守っているからな。」
タキジイは太郎君が高校へ入学して間もなく、静かに眠るように息を引き取りました。
太郎君は3月のこの時期になると、満開の桜の花の下を通るたびに、タキジイの最後の言葉が耳によみがえってくるのでした。
2022-01-22 11:09:10