GoToトラベルキャンペーンの開始とともに再び脚光を浴びるようになった「ワーケーション」。休暇を楽しみつつ仕事もする、というスタイルを取り入れようとする企業も増えてきています。今回は「ワーケーション」の定義とテレワークとの違い、ワーケーションのメリットとデメリットについてまとめました。ワーケーションの導入に積極的な企業や、ワーケーションしやすい環境を整えている地方自治体も紹介します。ワーケーションの制度導入を検討している企業担当者の方はぜひご一読ください。

目次
ワーケーションとは
ワーケーションの基本的な意味とワーケーションという概念が生まれた背景、テレワークとの違いについて解説します。
ワーケーションの定義
ワーケーションとは、いつもと違う場所に行き、休暇を取りながら働くこと。
「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語です。
ワーケーションでは、旅行の休暇を取得して旅先でバカンスを楽しみつつ、インターネットを使って作業を進め、会議にも参加します。
休暇を取得しながらも、働いた分は勤務したとしてカウントする点も、ワーケーションの大きな特徴です。
ワーケーションという働き方を企業が導入するには、休暇と勤務が完全に分かれている現行の制度を変更する必要があります。
ワーケーションが生まれた背景
ワーケーションという働き方が生まれた背景は日本の有給休暇取得率の低さにあります。
エクスペディアが毎年行っている「世界19ヶ国 有給休暇・国際比較調査」の2019年版によると、日本は世界19ヶ国の中で有給休暇取得率最下位に。
過去11年を振り返っても、有給休暇取得率最下位は9回とダントツの低さです。
また、日本では、短い休暇を複数回取得すると答えた人が51%と、19ヶ国唯一過半数を超えています。
このような背景があり、日本の有休休暇取得推進のために、ワーケーションという考え方が生まれたのです。
ワーケーションとテレワークとの違い
ワーケーションとテレワークは、職場から離れた場所で仕事をする、という意味では似た面がある働き方です。
ワーケーションとテレワークの違いは、有休休暇を消費するかどうかという点と、働く場所が日常生活の場とは離れた休暇を楽しめる場所かどうかという2点です。
ワーケーションは観光地やリゾート地に出かけて休暇を楽しむのがメインで、現地で可能な時間のみ仕事をします。
一方、テレワークは、自宅またはサテライトオフィスで仕事をするだけ。勤務時間は会社勤務と同等であり、有給休暇は取得しません。
ワーケーションのメリット5つ
ワーケーションを企業が制度として導入するメリットを4つ紹介します。
休暇取得の促進
もっとも大きなメリットは、有給休暇取得、特に長期休暇の取得促進効果です。
ワーケーション制度を導入することで、仕事は中断せずに回しながら、有給取得率挙も高めることが可能です。
リゾート地で長期休暇を楽しみつつ、会社からの問い合わせにのみに対応する、夜間決まった時間のみ作業をする、といった方法で、負担にならない程度に仕事を推進。
このように何らかの形で仕事に関わることで、長期間職場からいなくなる罪悪感が軽減され、長期休暇を取得する心理的な障壁が軽減されます。
特に、日本の世代別にみると、中間管理職の立場となる中高年層の有給取得率が減少する傾向にあります。
中間管理職が休暇を取得しないと、部下も休暇を取得しづらい雰囲気となり、休暇取得率向上の足かせとなる場合も少なくありません。
中間管理職もためらいなく長期休暇を取得できる環境を整備するためにも、ワーケーションは有効な施策です。
働き方改革の一環
ワーケーションの導入は、働き方改革の一環としても有効です。
特に若い世代では、「もっと休暇が取得できるなら仕事を変えてもいい」と考える人が多い傾向があります。
自由な働き方の一環として、リゾート地でリフレッシュしながら仕事を進めるスタイルを会社側が制度として用意することで、従業員の離職率を抑えることが可能です。
また、今いる従業員に対する効果だけでなく、採用面でもプラスの効果が期待でき、優秀な社員を獲得しやすくなるというメリットもあります。
従業員の労働意欲向上
2020年7月、株式会社NTTデータ経営研究所、株式会社JTB、日本航空株式会社の3社合同で行った、ワーケーションに関する実証実験の結果が発表されました。
発表によると、ワーケーションを経験することで、仕事とプライベートの切り分けが促進され、情動的な組織への所属意識が向上するという結果に。
さらに、ワーケーション期間中の仕事のパフォーマンスは20%向上したという結果も出ています。
このように、従業員の労働意欲向上効果も、ワーケーションを導入するメリットです。
ワーケーション期間中、家族と楽しい時間を過ごしたり、温泉などで心身を癒やしたりしながら仕事をすることにより、従業員の労働意欲向上につながります。
従業員の健康増進
ワーケーションには、従業員の健康増進、という効果もあります。
先ほど紹介した実証実験の結果では、心身のストレス低減効果と、運動量の増加に効果があることが分かりました。
特に運動量については、ワーケーション参加前と比べて歩数が2倍程度増加という結果に。
従業員が健康を害して職場を長期間離れることになると、企業としても大きな痛手です。
そのため、従業員の健康を守る施策は、企業の事業活動にとっても重要なミッションと言えます。
ワーケーションは、従業員が健康長く働ける環境を作る施策としても有効な手段のひとつです。
イノベーション創出
ワーケーションには、新しい人とのコミュニケーションや気分転換などのリフレッシュによるイノベーション創出が期待できるというメリットもあります。
別府市では、都市圏の働き手が地方の働き手や学生などとデスカッションする機会を提供。新しい出会いによるイノベーション創出を促す目的のワーケーション実証実験を行いました。
旅行先で用意されているワーキングスペースでの新しい出会いにより、フラットな関係性からイノベーションが生まれることも期待できます。
ワーケーションのデメリット3つ
ワーケーションにはメリットばかりではなく、デメリットもあります。
ワーケーションを導入する上で検討しなければならない課題として、デメリットも確認しておきましょう。
労務管理がしにくい
ワーケーション一番の課題は、労務管理がしにくい点です。
労働時間が把握しづらく、労働環境(自宅のデスクや椅子、照明など)も管理しにくくなります。
この課題は、テレワークにも言えることなので、テレワークをすでに実施している企業なら解決できる問題です。
しかし、これからテレワークもワーケーションも初めて導入する場合は、他の企業はどうやってルール作りをしているのかから調査する必要があります。
労働時間なら勤務システムのWeb打刻で実時間を管理するか、ワーケーション勤務は固定で数時間の労働と規定するかなどを明確化しなければなりません。
コミュニケーションコストの増大
ワーケーションでは、コミュニケーションコストが増大するというデメリットを考慮しなくてはなりません。
ワーケーションを導入するなら、ZoomなどのWeb会議やチャットなどコミュニケーションツール導入も必須です。
テレワークにも同様の問題はありますが、ワーケーションでも、ZoomなどのWeb会議ツールやチャットがあれば、コミュニケーションはある程度カバーできます。
ただし、ワーケーションの場合は特にリアルタイムで仕事のやり取りができるとは限りません。
そのため、対面と比べるとどうしてもコミュニケーションコストは増大します。
セキュリティ問題
ワーケーションやテレワークなど、職場外の場所で仕事をするにあたり、多くの企業が懸念することがセキュリティ問題です。
主なセキュリティの懸念点としては「パソコンの盗難・紛失」「信頼性の低い無線LANへ接続して情報漏えい」などが挙げられます。
特に、回線接続に関しては、ホテルが提供するWi-Fiの中でも、宿泊客ならだれでもアクセスできる状態になっている場合は要注意です。
セキュリティリスクへの対応方法はいろいろ考えられます。
持ち歩くパソコンにはファイルなどを一切保存しない、フリーWi-Fiや提供元が分からない無線LAN回線には接続しない、などはその一例です。
また、セキュリティリスクの高い業務はワーケーションではやらない、できる業務を一部に絞るなどの条件を設定する、という方法も考えられます。
セキュリティ面の制度やハード面の整備コストを考えると、業界や職種によっては、ワーケーション制度の運用コストの調査は必須と言えます。
ワーケーションの活用事例と導入企業
それでは、ワーケーションの活用事例を、導入企業の例として紹介します。
JAL
JALでは、2017年の7~8月、初のワーケーション推奨期間を設けて、ワーケーションの導入を試みました。
その結果、ワーケーション取得者数は、34 名(男性 24 名、女性 10 名)となり、中には海外に行く従業員も。
以下は、ワーケーションを利用した従業員の感想です。
「中間管理職が職場にいなくても、連絡が取れるため仕事は進められスピード感が出る」
「新しいことをじっくり考える時間ができた」
翌年度は、さらにワーケーションを利用する人が増え、78名もの従業員がワーケーションを取得しました。
JALは、ワーケーション導入により、旅行中に急な会議が入っても旅行を継続でき、有給取得率の向上が期待できる、としています。
現在、JALでは勤怠システムの中に「ワーケーション」が選択できるようになっているとのことです。
三菱UFJ銀行
三菱UFJ銀行では、2019年度より元々あった長野県軽井沢町の保養所を活用してワーケーションを導入しました。
2019年7月末に、保養所の1部屋をワーケーション専用のITオフィスに。
軽井沢へ家族旅行をしている間、1日だけこのITオフィスを利用して仕事をする、という想定でITオフィスの環境を整備しました。
ワーケーション利用者は、PCを持ち歩く必要がなく、セキュリティ面で参考になる事例です。
株式会社JTB
旅行代理店大手のJTBでは、2019年度より、海外でのワーケーション制度として「ワーケーション・ハワイ制度」を導入しました。
ワーケーション・ハワイ制度では、休暇中の従業員が「JTB Hawaii Travel,LLC」に設置された専用スペースでテレワークを行う、という実施方法を採用。
テレワークスペースは、海が見える絶好のロケーションです。
社長自らが検証を行い、従業員からも「いつもと違う環境でいいアイデアが浮かびそう」「パソコン操作も特にストレスがない」など、好評価を得ています。
セールスフォース・ドットコム
セールスフォース・ドットコムは、CRMシステムで知られる「セールスフォース」を提供する会社です。
セールスフォース・ドットコムでは、ワーケーションに取り組んできた先進的な自治体「和歌山県」でのワーケーションを2015年より実施しています。
和歌山県白浜町にサテライトオフィス「Salesforce Village」を設置。
常時数人の従業員が常駐して、リゾート地出の暮らしを楽しみながら働く、というスタイルを実践しています。
サテライトオフィスからは白浜の海が見え、開放感は抜群。
東京オフィスよりも20%高い商談成立件数を挙げ、ワーケーション効果を出しています。
ワーケーションに取り組む自治体の事例
日本政府は、人口減少に悩む地方自治体の「関係人口創出・拡大」事業のひとつとして、各自治体のワーケーション誘致を推進しています。
ここでは、ワーケーションの誘致に熱心な地方自治体をいくつかピックアップしました。
ワーケーションの候補地を検討する際、誘致に熱心な地方自治体の提供する環境を利用することも検討してみてください。
北海道
北海道は、冷涼で広々とした土地が特徴であり、特に梅雨時期から夏季のワーケーション先として魅力的なエリアです。
北海道では、北海道型ワーケーションとして長期滞在・広域周遊型ワーケーションプランを提案し、2019年に以下の3プランを実施しました。
・スマート農業視察プラン
・北海道産業視察プラン
・IT人材発掘プラン
北海道は、札幌を含む道南エリアだけでなく、道央・道東など地域によってさまざまな魅力があります。
北海道型ワーケーションは、そんな北海道の魅力を十分満喫できるプランです。
神奈川県
首都圏からは近場でワーケーションがしやすい神奈川県も、ワーケーション誘致に積極的です。
神奈川県の観光協会公式サイトでは、首都圏と近い箱根温泉や強羅温泉などで、ワーケーションプランを用意している宿泊施設を紹介しています。
移動であまり疲れない距離で、ゆっくり温泉を楽しみながら仕事も進める、というタイプのワーケーションには最適な自治体です。
長野県
長野県も、首都圏から移動しやすく冷涼な土地でリゾート地として魅力のある自治体です。
長野県では、「信州リゾートテレワーク」という名称でワーケーション事業を展開。
信州リゾートテレワーク対応施設マップや信州リゾートテレワーク対応宿泊施設リストを紹介しています。
宿泊施設リストは、Wi-Fiやワークスペースの有無、主要駅からのアクセスが記載してあり、ワーケーション実施に役立つ情報が満載です。
鳥取県
鳥取県も、ワーケーションの誘致に熱心な自治体のひとつです。
鳥取県では、「コンパクトなとっとりで”つながる”ワーケーション」と銘打ち、ワーケーションに関する支援制度を拡充。
企業が利用しやすい支援制度は以下の通りです。
・とっとりワーケーションモニター募集
・ワーケーション実施企業支援事業費補助金
・ワーケーション型企業研修プログラム造成事業費補助金
とっとりワーケーションモニターは、ワーケーションを事前に検証してみたいという企業担当者にもおすすめです。
また、ワーケーションに関する補助金は、ワーケーション導入を検討している企業にとって魅力があるのではないでしょうか。
ワーケーションを導入する際のポイント
ワーケーションを導入するにあたっては、事前準備が必要です。
どのような順費が必要なのかについて解説します。
制度や運用ルールの明確化
ワーケーションを導入するには、制度や運用ルールの明確化が必須です。
どのような形で働いたことを立証するかという労務管理の問題だけでなく、セキュリティ管理などの運用ルールも明確にしなければなりません。
すでにテレワーク制度がある場合は、労務管理・セキュリティ管理など参考になる部分が多いので、ワーケーション独自の部分を検討します。
作業環境が整った観光地の把握
ワーケーションで旅行に行ける場所を従業員が自由に選ぶ場合、旅行先で仕事をする環境が確保できない可能性があります。
現在では、インターネット接続環境や電源コンセントを備えている宿泊施設が大半です。
しかし、中には仕事ができる環境がない宿泊施設も存在します。
旅行に行っても仕事ができない環境では、ワーケーションが実現できません。
仕事ができない環境に当たる可能性を回避するため、ワーケーションとして利用できる観光地を従業員に提示して運用する、ということも検討しましょう。
従業員が自由にワーケーションの行き先を決める場合は、仕事をする環境があるかどうかを従業員自身が確認するルールが必要になるかもしれません。
すぐにワーケーションを導入できない場合はフリーランスの活用も
ワーケーションの導入には、かなり多くの事前準備と導入コストが必要です。
中小企業の場合、すぐには対応できないかもしれません。
すぐにワーケーションを導入できない場合は、フリーランスの活用も検討してみてはいかがでしょうか。
フリーランスの活用により、ワーケーションで得られるメリットと同じ効果が期待できます。
フリーランスの活用でイノベーションの創出
ワーケーションでのイノベーション創出効果は、フリーランスと一緒に仕事をすることでも得られます。
フリーランスを職場に入れることで外部の視点が得られて新しい刺激に。
結果として、新しいアイデアからイノベーションの創出につなげる、といった効果が期待できます。
自社とは別分野の専門知識を持つフリーランスを活用することで、新しい知見を得て、新しい自社製品の開発につなげることも可能です。
従業員の長期休暇取得促進にフリーランスを活用
従業員の長期休暇取得促進に、フリーランスを活用することも可能です。
長期休暇取得がなかなか進まない理由は、「業務量の多さ」があります。
「自分が休むと仕事が回らない」という周囲への引け目から、実際には長期休暇を取りたくとも取れない、という状況も少なくありません。
そのため、業務を切り分けてフリーランスに業務を委託して従業員の負荷を減らすことで、休暇取得をしやすい環境が整えられます。
長期休暇を取得する従業員の作業をフリーランスに委託することで、ワーケーション導入と同様の休暇取得促進の効果が得られます。
ワーケーション導入には制度や運用ルールが必要
ワーケーション導入により、従業員の休暇取得やモチベーション向上、イノベーション創出などさまざまなメリットが期待できます。
しかし、ワーケーション導入には、制度の整備やハード面の初期コストなど、それなりに大きな苦労が伴うこともまた事実です。
中小企業でなかなかワーケーション導入に踏み切れない場合や、制度などの準備期間が必要な場合は、フリーランスの活用もご検討ください。
フリーランスを活用することでも、ワーケーション導入に近いメリットが得られます。
ランサーズでは、さまざまな専門知識を持ったフリーランスが多数登録しています。
御社に必要な人材を見つけられる環境を整えていますので、フリーランスの活用をご検討の際は、ぜひランサーズもご利用ください。
