コロナの影響で売上はゼロに。危機的状況から始めた越境EC。箸づくり体験も始め、問屋頼みの商売から脱却へ

いくつもの色が波のようにうねり重なり、美しい模様を描き出すマーブリング。色のセレクトや模様次第でポップにもシックにもなり、一つとして同じ模様は生まれない。そんなマーブリングを施した塗り箸で知られているのが福井県小浜市の有限会社「悟空」です。

ハンドメイドのオリジナリティの高い箸を得意とし、主に土産物店で販売していましたが、コロナ禍で売上が急減。一時はゼロに陥りました。会社の今後について真剣に考えていたとき、福邦銀行とランサーズが進めるECプラットフォーム「Shopify」を使った「越境EC」事業に出会いました。また同時に箸づくり体験もスタートし、問屋に頼らない新しいビジネスを進めています。

越境ECに取り組む理由や事業への思い、今後の展望などを代表取締役の谷口淳司さんに伺いました。また合わせて福邦銀行の担当者の方にも、支援に対する思いなどをお聞きしています。

【インタビュイー概要】
有限会社悟空
代表取締役 谷口淳司さん
ホームページ:創作箸工房たにぐち
https://go-ku.net/

株式会社福邦銀行
小浜支店
支店長 松永治丈さん
渉外係 中山一輝さん

【福邦銀行・ランサーズのShopify導入支援キャンペーン】
2021年5月に業務提携した福邦銀行とランサーズは、ECプラットフォーム「Shopify」を活用した福井県内の企業のDX化と越境ECによる新規販路開拓をサポートするキャンペーンを展開。福井銀行から紹介を受けた企業にランサーズのプロフェッショナル人材をマッチングし、Shopifyのサイト構築・運用を進めている。

箸業界では珍しい「マーブリング」に挑戦。若狭塗り箸に新しいジャンルを開拓


(画像:創作箸工房たにぐちHP

――事業内容について簡単に教えてください。

若狭塗り箸の製造を行っています。店舗はなく、小浜市内の問屋さまを通してお土産物屋さんなどで販売していただいています。機械による大量生産ではなく、手作りならではのクリエイティブな箸を得意としていて、特にマーブリング柄の塗り箸はご好評をいただいています。

――マーブリングはさまざまな商品に使われていますが、箸では珍しいですね。どういうきっかけで始めたのですか?

私が一時期プラモデルにハマっていたのですが、コンテストに参加した際に見たマーブリング柄のガンダムがとても美しくて印象的だったんです。箸にもマーブリングが生かせるのではないかと思い、始めました。

――初めての技法なうえに細い箸にマーブリングを施すとなると大変だったのではないですか?

最初は手探りで、再現性もなく苦労しました。ですが徐々にコツをつかみ、今では同じような雰囲気の柄を作れます。まったく同じ柄はできないので、世界に一つしかないお箸という部分は大きな魅力だと思っています。可能性は無限大です。

福邦銀行:私も幼いころから若狭塗り箸には親しんできましたが、マーブリングの華やかな箸を見て、こんなにも箸のジャンルが広がっていたのかと驚きました。

コロナで売上がゼロに。「問屋頼みの商売からの脱却」を目指し、越境ECへの挑戦を決意


(画像:創作箸工房たにぐちHP

――今回、福邦銀行とランサーズが地域の事業者向けに行うShopifyを使った越境EC構築の取り組みにご参加いただいています。参加に至った背景を教えてください。

一番のきっかけは、新型コロナウイルスの流行でした。海外の観光客が日本に来られなくなったことで、インバウンド客の箸需要が消失。土産物店で箸が売れないことで、問屋さまから弊社への注文も激減し、売上ゼロの月もありました。

「このままでは事業継続ができない。早急に何か対策を取らなければ」と追い詰められていたときに、福邦銀行さんからShopifyを使った越境ECの取り組みについてご提案をいただきました。「失うものは何もない」とすぐに参加を決めました。補助金についてもお話がありましたが、補助金がなかったとしても「やります」と回答していたと思います。

福邦銀行:悟空さんは、コロナ禍でも自社ホームページを制作されるなど取り組みを始められていて、私たちもよくお話を伺っていました。そこで今回ランサーズとの取り組みを始めてすぐにご提案をさせていただきました。

――コロナ禍で切羽詰まった状況だったのですね。コロナ前は順調に経営をされていたのですか?

弊社は製造業者で小売り店がなく、商売自体が問屋さま頼みでした。問屋さまからの注文がなければ、私たちは食べていけないんです。昔はそれが当たり前だったのかもしれませんが、今の時代はそれが通用しなくなってきています。コロナ前から、このまま問屋さまに依存していていいのか悩んでいました。

私たちのお箸はハンドメイドで、量を作れません。買いたたかれれば費用が不足し、クオリティの高い箸が作れなくなります。また私たちはどういう思いを込めて箸を作っているのか、そういったことも消費者にまったく伝えられていないという課題も抱えていました。今回図らずもコロナがきっかけとなって、「自分たちが満足できる製品をつくるためには、より広いマーケットに挑戦していくことが必要だ」と、道を切り拓いていく決断ができました。


福邦銀行:私たちがそもそも今回のランサーズさんとの取り組みを始めたのは、コロナ禍で今までのビジネスモデルが通用しなくなり、売上が大きく落ちた事業者をたくさん見てきたからです。悟空さんのように問屋さまに任せるといったBtoBが通用しなくなったことで、BtoCへの転換を考えていかなければならないと感じました。

とはいえ何の知見もなく、いきなりECを始めるのは簡単ではありません。そのうえ地方ではIT人材も見つかりにくい。ランサーズを活用すれば東京など全国のスペシャリストの方にリモートでお願いできるので、最適だと思いました。

――今回は越境ECの取り組みになりますが、海外市場を狙うことにどういったメリットがあると考えていますか?

実は当初は周囲から「海外販売はやめた方がいい」と止められたんです。ですが国内だとすでに以前からECに取り組んでいる同業他社と競合します。既存の取引先との関係も気になりました。国内ECが簡単ではないのであれば、大変そうでも海外に挑戦してみようと思いました。

販売先は最初、箸文化のあるアジア圏を想定していましたが、今はお弁当文化が広がっていることもふまえて、イギリスやアメリカなど欧米も視野に入れています。

――福邦銀行・ランサーズとの取り組みがスタートし、最初はShopifyでのECサイトを構築するランサー探しから始まったと思います。ランサーはどのように選びましたか?

ランサーズから男性2人、女性1人をご紹介いただきました。私は妻ら女性と仕事をすることが多く、マーブリングの色合いなどで女性の感性にはいつも感心していました。だから女性であれば私たちの思いや希望をくみ取って、それをサイトに表現してくれるはずだと考え、女性のランサーさんを選びました。面談などの際には、ランサーズの担当者の方にもとても丁寧に対応していただきましたね。

「箸づくり体験」をスタート!お客さまとの接点が生まれ、問屋ではなくお客さまの方を向いて仕事ができるようになった


――越境ECの準備を進めるとともに、御社独自の取り組みもスタートされたそうですね。

マーブリングの箸づくり体験を始めました。「ブライダルマーブリング」「マーブリングで記念品制作」「小学生マーブリング体験」の3つのプランをご用意しています。SNSで箸づくり体験について発信したところ、すぐに参加希望者がでてきて反響に驚きました。

――御社の鮮やかな箸の写真を見ていると作りたくなる人の気持ちもわかります。それに自分で箸を塗ると愛着もわきそうですね。

自分で作った箸で食事することは、やはり特別な喜びがあると思います。私たちとしても、今までは問屋さまを相手にしていたためお客さまの声を直接聞く機会はなかったのですが、体験を通してダイレクトに声を聞けるようになったので、始めてよかったですね。体験参加者の感想が箸づくりのモチベーションにもつながっています。


(画像:創作箸工房たにぐちHP

――自社でサービスを始めるというのは、会社としても大きな転換点になりましたね。

今までは問屋さまの方を向いて仕事をしていましたが、今はお客さまと直接つながることができています。クオリティに満足してもらえるように、弊社の箸で食卓が明るくなり食事がよりおいしく感じられるように、思いをこめて箸づくりをしています。

福邦銀行:悟空さんは今回の取り組みに参加されている企業の中で、いい意味で一番変化された企業だと思います。コロナ禍では売上がゼロになり大変な思いをされたと思いますが、それがなければずっと問屋さま頼みだったかもしれません。地域で事業をされていると、なかなか変化が難しい部分があるのは否めません。それでも今回参加され、越境ECも箸づくり体験も挑戦されていることは本当に素晴らしいと感じますね。

――では最後に、今後の目標などを教えてください。

箸づくり体験はもっと多くの人に参加してもらいたいですし、そこから箸の販売にもつなげていければと思っています。これからSNSなどで発信を強化していくつもりです。

越境ECについては、相手国の税金や法律など気をつけなければいけない点も多いため、実際のサイトオープンには少し時間がかかりそうですが、一歩ずつ着実に進めていくつもりです。

取材・文:ひろみね
https://www.lancers.jp/profile/Merry5
報道記者、大学職員を経てフリーライターに。インタビューやコラムなどを多数執筆している。