あなたは自社メディアのコンテンツを制作する立場になったとき、発信している情報に間違いはない、と言い切る自信がありますか? 特定の情報にいくら詳しい筆者が書いた文章だとしても、情報の漏れや表現の間違いが起こる可能性はゼロではありません。そこで、納品されてきた原稿には「校閲」の作業が必要となります。今回は、“校閲がコンテンツの信頼度にいかに影響するか”を説明していきます。

校閲に時間をかけられないWebメディアが多い
校閲は決して簡単にできる作業ではなく、ある程度の経験が求められます。紙媒体では、経験豊富な専門の校閲者や編集者が校閲を行なっていますが、Webメディアでは校閲経験者が不足している状態です。今回は、そもそも校閲とは何か、またメディアが校閲を行なう重要性について、有限会社モデルアート社 月刊『モデルアート』編集長 猪股一大 さんにお伺いしました。
校閲とは何か
校閲とは、事実関係に齟齬がないか、表現として適切かどうかを判断して、必要があれば修正したり、表現を改めたりする作業のことです。つまり、信頼できる原稿であることを保証するために行なわれる作業のことを指します。
たとえば、文章中に出てきた商品名が正式名称になっているかどうか、歴史に誤りがないか、などを判断し修正していきます。一方、校閲と似ている作業に「校正」があります。校正は誤字や脱字がないかどうか、用語の使い方が正しいかどうかを重点的に確認していく作業です。
校閲を行なう人のほとんどは、専門の校閲者や記者、編集者です。校閲には、筆者から納品されてきた原稿を第三者の目線で確認することによって、ミスを防ぐ効果があります。
校閲には高度なスキルが必要
信頼できる原稿づくりに欠かせない校閲ですが、校閲者には、どのようなスキルが求められるのでしょうか。一般的に、校閲を専業としている人の多くは、新聞社の記者や出版社の編集者を経験しています。校閲は編集作業の延長線上にあるため、特定の分野に詳しいだけではなく、「情報をわかりやすく、伝える」が求められます。
なぜなら、たとえ内容が正確でも、万人に伝わらない表現であれば、こちらの意図しない文脈として読者に伝わってしまうことがあるからです。たとえば、プラモデルの組み立て方をテキストで説明するときに、特定の人しか理解できない言葉を使ったとします。すると言葉がわからない読者は、上手にプラモデルを組み立てられません。特定の人だけではなく、多くの人に理解してもらうために、「情報をわかりやすく伝える」必要があるのです。
さらに校閲者には、「情報収集スキル」と「論理性のスキル」が求められます。情報収集スキルとは、原稿内で扱う特定分野についての知識や、それに関係する周辺情報を収集することです。用語だけではなく、雑学的なことも含めた知識全般が必要となります。
論理性のスキルとは、原稿内に書いてある内容について、それぞれ整合性が取れているかどうかを判断する力です。
このようなスキルを磨き、1人前の校閲者になるまでには平均して3~5年程度の時間がかかると言われています。それだけ多く時間がかかるのは、論理性のスキルを磨くことはもちろんのこと、たとえば自社で扱っている商品や媒体について、深掘りした知識を身につけないといけないからです。
プロの校閲者になったとしても、校閲作業には時間を要します。校閲を行なうタイミングの例として、原稿が納品された段階で1回、デザイナーに原稿を渡す段階で1回、色校正が上がってきた段階で1回行ないます。
このように何度も見直しすることを考えると、2000文字あたり、計1時間を超えることもよくあります。また原稿は、何名かで校閲を行うほどに精度が高まっていきます。そのため、1本の原稿を何名かで回し読みしている媒体も珍しくはありません。
Webメディアには校閲が必要か
先述したとおり、校閲者は高度なスキルを保ちながら、ある程度の時間をかけて校閲していきます。そのため、スピード重視で記事を発信していくWebメディアでは、校閲者を立てて、記事1本に対して校閲の時間を要することが時間のロスにつながります。
しかし本来は、Webメディアにも校閲が求められます。その理由を、校閲していない原稿が持つデメリットから考えていきます。
企業からの広告費で運用しているメディアが校閲を行っていなかった場合、スポンサー離れが起きる可能性があります。もしも校閲していない原稿が間違えていた場合、間違いに気が付くまで情報が一人歩きします。そして、間違いに気が付く時間が長ければ長いほど、情報の発信者はスポンサー、ひいてはその先の読者の信頼をなくしていきます。
信頼を築くには長い時間がかかりますが、崩れるのは一瞬です。その結果、「信用できないメディア」として信頼は失われ、広告出稿も当然減ってしまうでしょう。広告収入が失われれば、メディアを運営できなくなるケースも考えられます。
このようなデメリットをなくすためにも、まずはメディアを運営する側の前提として、コンテンツを商品として流通させている、と自覚することが重要です。ほとんどのメディアでは、コンテンツを無料で読者に公開しています。
そのため、「コンテンツ=商品」という認識が薄れがちです。しかし、本業でWebメディアに関わっているのであれば、なおさらプライドを持って、正しく情報を発信していくマインドが求められます。
まとめ
上記で説明したとおり、校閲は大変な作業ですが、必要不可欠な工程です。自社メディアのクオリティを担保することを考えると、コンテンツ制作に校閲の工数を組み込んだ方が、結果として記事のクオリティも上がり、メディアのブランディングにとってもプラスにつながります。
もしも社内に校閲者の適任がいなければ、外部にクラウドソーシングすることも手段のひとつです。自社メディアの信頼をなくさないために、経験豊富な校閲者に原稿の確認を依頼することが重要となるでしょう。
