数年前にバズワードとなったデータサイエンティスト。その中身や仕事内容については、あまり正確に理解できていない人が多いかもしれません。名前から判断すると、データを科学する人のようですが……。いまいち実態をつかめないデータサイエンティストについて、その役割や能力について解説します。

データサイエンティストの定義
「データサイエンティスト」という言葉があります。その名の通り、データサイエンスの専門家のことを指しますが、一般的には「言葉は知っているけれど、何をしている人なのかはよく知らない」という方は多いと思います。
一種の「バズワード」とも取れるこの言葉ですが、実際にはビジネスの現場で活躍しているデータサイエンティストの方はすでに多く存在します。
ヤフーや電通、IBMなどが会員となっている「一般社団法人データサイエンティスト協会」によれば、データサイエンティストという職業にはまだ明確な定義がありません。
昨今、センサー・通信機器の発達、ネットサービスの普及などにより、収集・蓄積が可能なデータの種類と量が急激に増大しております。そして、これらの膨大なデータ(ビッグデータ)から、ビジネスに活用する知見を引き出す中核人材として「データサイエンティスト」に注目が集まっております。この流れを受けて、企業では当該人材の獲得・育成に力を入れようとしておりますが、実際には新しい職業である「データサイエンティスト」には明確な定義がなく、対応領域も広いことから、さまざまな課題も生まれています。
(引用:「一般社団法人データサイエンティスト協会」)
そこで本稿では、データサイエンティストの方へインタビューを行った知見を元に、「データサイエンティスト」は何をしている方々なのか、について考察してみます。
データサイエンティストに必要なスキルとは
先に挙げたデータサイエンティスト協会は、「データサイエンティスト スキルチェックリスト」を発表しています。
これによれば、データサイエンティストに必要な力は大きく3つです。
ビジネス力
課題背景を理解した上で、ビジネス課題を整理し、解決する力
データサイエンス力
情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う力
データエンジニアリング力
データサイエンスを意味のある形に使えるようにし、実装、運用できるようにする力
つまり、ビジネスを理解し、ビジネス上の成果を追求するため、データの取り扱いにどのような技術が必要かを判断し、それを実装して運用するのが仕事、とかなり広範囲なスキルが求められる職業のようです。
データサイエンティストは具体的にどのような仕事をしているのか?
例えば、第3回データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤーを受賞したリクルートの原田氏は次のように答えています。
何が成果か、といえば2つあります。まず一つ目はwebサービスの顧客側の部分の改善。全てのサービスには改善の要となるキー・ドライバーが有ります。例えば訪問、登録、応募などです。それらの接続を良くし、ユーザーにサービスをより便利に利用してもらうことです。
もう一つは、リクルートのオペレーション側の改善です。サービスの提供側の我々がどのようにしたら適切な提案をユーザーにできるか、どんな営業トークが望ましいか、そういったことに対して提言をする仕事です。こちらは広義でいう社内コンサルタント業務になります。”
データ・サイエンティストという名称から推測すると、かなり数字と向き合うような職業に見えますが、実際には社内のキーパーソンと向き合うことが重要であると感じます。
データが示すことに対する「解釈」と、その解釈に対する「納得感の醸成」です。数字はあくまで数字でしかなく、その数字にどのような意味を与えるかは人間次第です。100人いれば、100通りの解釈があります。そして、そこの中から「何を選択するか」、すなわち意思決定は社内政治などの力学で決まります。だからこそ、この仕事はコミュニケーションが一番難しい。
二千年も前から「人は見たいと欲する現実しか見ない」(ユリウス・カエサル)と言われています。また、ハーバード・ビジネススクールのジョン・コッター教授は、ひとに行動を促す際の注意点として
問題の核心は、人々の行動を変えることにある。そして行動を変えるうえで何より効果的なのは、人の心に訴えることである。(中略)変革に成功した事例では、理性だけでなく感情に訴える形で、問題点や解決策に気づいてもらう方法を探している。
(引用:Switch! 早川書房)
と述べている。
客観的なデータや数字を見せられたとしても、感情が納得しなければ動かないのが人間です。
実は「コミュニケーション力」が相当に問われる職業
以上見てきたように、データサイエンティストは二つの基盤の能力によって成果を左右されます。
1.数字、データを分析する知識
2.データを使い、どのような成果に結びつけるのかを考え、社内の人を動かすこと
1.はともかくとして、2.は相当なコミュニケーション能力が問われるでしょう。とかく、数理的な知識とセンスがクローズアップされがちな仕事ですが、実は泥臭い交渉事、社内の人の説得、プレゼンテーションなどのスキルも必要な難しい仕事です。
そう考えれば、これからの時代、webやコンピュータに関わる大量のデータを扱う人物であれば誰でも身につける必要のある素養の一つになっていく可能性があります。まだ「データサイエンティスト」と呼ばれる方の数はそれほど多くないでしょう。ですが、企業や人に変革を促すことができ、将来性のある、夢のある仕事ではないでしょうか。
