働き方の選択肢が広がり、仕事を請ける側はもちろん、依頼する側にとっても大きな恩知を受けられる時代になりました。本来であれば、法人や一握りの人にしか依頼できなかった仕事を、自由に誰にでも頼めるようになったのです。今回紹介する事例は、ミュージシャンによるフリーランス活用。多数のオーディエンスを前にして、最高のパフォーマンスを手掛ける彼らがフリーランスに仕事を依頼した理由とは?
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ミュージシャンがクラウドソーシングで発注側になる理由とは
コンテンツマーケティングが主流となっている昨今。リソース確保の一つの手段として注目を集めるクラウドソーシングは、いまや多くの企業が活用するプラットフォームに成長しました。しかし、本日紹介するのはミュージシャンのクラウドソーシング活用という一風変わった事例。
今回取材に協力していただいたのはレコード会社や音楽事務所に所属せず、完全セルフプロデュースの音楽活動で生計を立てているDIYミュージシャン「Yellow Studs」の野村 太一氏と植田 大輔氏。しかし、なぜミュージシャンという職業の方がクラウドソーシングを活用することになったのでしょうか。お二人に話を伺ってきました。
ただのバンドマンじゃない、DIYミュージシャンとは
![Yellow Studsの植田 大輔氏(左)と野村 太一氏(右)](https://s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/wp.lancers.jp/c/wp-content/uploads/2016/04/12154928/1-573x382.webp)
Yellow Studsの植田 大輔氏(左)と野村 太一氏(右)
――一般的にミュージシャンというとレコード会社に所属していたりすることが多い印象なのですが、Yellow Studsさんの場合はすべて自分たちでプロデュースされているということですが。
野村氏:そうですね。セルフプロデュースというと聞こえは良いんですけど、実際はバンドを13年間やっている中でレコード会社から声がかからなかったっていうのがホントのところですよね。だから自分たちで全部やるしかなかったっていう。
――それでも音楽だけで食べれているというのはすごいことですよね。ミュージシャンで生計を立てるという事は具体的にどういうことなのか詳しく教えていただけますか?
野村氏:CDやライブ動員による売上、TVCM等への楽曲提供がメインですね。あとは自分たちのオンラインショップで販売している物販ですよね。バンド始めた頃は有名ミュージシャンみたいにドカンと売れる予定だったんですけども。自分らなりに考えてやり続けているうちに何とか形になってきたみたいです。
植田氏:あと今僕らが音楽を仕事としてできているのはITの力がとても大きいと思ってます。最近はほぼ無料でHPを作れるし、たった数クリックで動画を世界に配信できる。それから職業柄、SNSのような自由なメディアの恩恵は人一倍受けてますよね。
――なるほど。チャットワークやタイムツリーなどのIT活用事例紹介も読みましたが、音楽活動をする上で「活動のIT化」というのは欠かせないポイントなんですね。
植田氏:そうですね。最先端というほど使いきれてないとは思いますが、ITが進化してきたことで僕らの仕事が成り立っているっていうのは事実としてありますよね。多分10年前だったら今みたいな環境は作れなかったのではないかと思います。
――ミュージシャンというと夢追い人みたいな印象を持っている方も多いと思うのですが、Yellow Studsさんの場合はもう起業みたいなものですね。
野村氏:まあでもバンドって社会的な信頼が無いというか、音楽で食っててもビジネスとして「ちゃんとしてる」感は薄いですよね。前にチャットーワークさんのパーティーに事例紹介で招待していただいたんですけど、周囲からは「え?バンドマン?(クスクスッ笑)」みたいな状況で。でもキリン氷結ストロングのCM楽曲作ってますって映像が出たら、皆応対が一気に変わるっていう。勝てば官軍の世界ですよね。まあ基本負けのスタンスが定着しているバンドなんですけども。
![黙々と作業しながら質問に答える野村氏](https://s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/wp.lancers.jp/c/wp-content/uploads/2016/04/12154942/2-573x382.webp)
黙々と作業しながら質問に答える野村氏
自分たちを売り込むためのセールスツール作成をクラウドソーシングで依頼
――今回はクラウドソーシングのランサーズを利用されたということでお伺いしたのですが、サービスがミュージシャン界隈でも有名になってきているのですか?
植田氏:いや、そんな例は聞いたこと無いですね。僕らの場合はラッキーというかたまたまというか。地方からいつも足を運んでくれるファンの方がいるんですけど。あまりにも頻度が多いので気になって「何の仕事してるんですか?」って聞いたみたんですよ。そしたらフリーのプログラマーさんで。そこで初めてクラウドソーシングについて教えてもらったんです。
――なるほど。それで今につながるわけですね。ちなみに今回はなぜクラウドソーシングを利用することにしたのでしょうか?
植田氏:僕らは自分たちでイベンターさんやレコード会社に営業しなければならないんです。今回はその営業ツールとなる提案資料の作成ですね。もっと早くからやらなければいけないことだったのですが、メンバーにそういうスキルを持っている人がいなくて。4月に新しいCDリリースして営業に回る機会も増えるので、この機会に作らなくては!という勢いも手伝って利用しました。
意外と使える!ミュージシャン×クラウドソーシング
――今回の提案資料作成プロジェクトはどのような流れで進みましたか?
植田氏:システム上の操作。費用はどのくらいに設定したら良いんだろう。資料作成に必要なデータは何か。正直、初めてなので結構苦労しましたね(笑)
費用相場がわからなかったので6500円という中途半場な予算で出したんです。すると2件応募をいただきました。一人は予算通り、もう一人は18000円という予算の3倍で提案いただきました。
ただ提案内容だけだとわかりづらいかったのでメッセージでやり取りしながら話を詰めて。最終的には18000円の提案をいただいた方にお願いすることにしました。
![実際に植田氏が立ち上げたプロジェクトのキャプチャー](https://s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/wp.lancers.jp/c/wp-content/uploads/2016/04/12154954/3-573x382.webp)
実際に植田氏が立ち上げたプロジェクトのキャプチャー
――3倍というとかなり予算オーバーだと思うのですが、その方を選ばれた理由について教えていただけますか?
植田氏:一度実際に会って打ち合わせの場を設けてくれたところですね。単に音楽事務所向けの資料といっても僕らの膨大な活動実績を資料にまとめるわけですから、データオンリーのやり取りには不安がありました。あとは、そのライターの方が以前僕らがCM楽曲を担当した企業の元社員の方だったので、親近感も理由の一つですね。
――少ない応募数の中、良い人が見つかって良かったですね。その後の制作はスムーズに進みましたか?
植田氏:プロジェクトを立ち上げてから最終納品まで約1ヶ月。結構時間はかかった印象です。利用するまではライターの方に素材だけ渡して任せればポンと完成品上がってくるという安易な考えだったんです。だけど、実際に制作を進める上では発注者の目的やイメージを正確に伝える力も求められますね。
今回も何回か修正を重ねていく必要があったんですけど、ライターさんは親身になって対応してくれたので結果的に満足のいく資料ができました。
――やはり最初ということで手間取った部分もあったのですね。ちなみに、今後もクラウドソーシングを音楽活動の中で利用できそうですか?
植田氏:かなり利用できると思います。まず直近でやってみようと思っているのはレビュー集めですね。4月にニューアルバムをリリースするのですが、僕たちのことを知らない方からのレビューを集めて今後の楽曲制作に生かしたいなと思ってます。これはちょっと用途違うかもしれませんが(笑)
あとは会場物販に展示するPOPやイベントチラシのデザインも依頼してみたいですね。今回のような資料作成は頻繁に出てくるので今後も継続して依頼してみたいと思ってます。
![クラウドソーシングのオペレーションを担当した植田氏](https://s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/wp.lancers.jp/c/wp-content/uploads/2016/04/12155001/4-573x382.webp)
クラウドソーシングのオペレーションを担当した植田氏
ミュージシャンにとってのクラウドソーシングは「大人の力を借りれる場所」
――実際にクラウドソーシングを使ってみてどうでしたか?
野村氏:「社会経験豊富な大人の力を借りれる」っていうのは僕らみたいな世間知らずのバンドマンにとっては非常に大きなことですよね。とは言っても、僕らも30半ばの良い大人なんですけども。
全員これまで音楽しかやって来なかったから正社員はおろか、社会人としてのビジネス現場を知らないんですよね。しいて言うなら、居酒屋の魚民でバイトリーダーを長年やってた植田くんが頂点ですよ。音楽ソフトのCubaseは使えてもビジネスでは常識のPowerPointは使えないっていう。そういういびつな団体なんですよね。
植田氏:デザインとライティングとか専門的なスキルの仕事って、意外と頼む先が限られるんですよね。企業に発注するもの良いんだろうけど、そんなにボリューム無かったり。あと金額も高くなってしまうイメージがありますよね。でもクラウドソーシングのようなサービスがあればピンポイントで専門的な仕事を安くお願いできるから便利ですよ。
――なるほど。実務面以外の知識面でも力を借りられるというメリットがあるわけですね?
野村氏:そうですね。多分自分のスキルだけで独立して仕事している人って優秀なんだろうし、バックボーンもしっかりしてますよね。そういう人たちと仕事が出来るのは僕らにとってもありがたいです。あと自分の力で食べてる人たちだから柔軟性もあるのが良いですよね。まあ、人によるんでしょうけど。
![取材・撮影場所は自宅兼事務所の野村氏の自宅](https://s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/wp.lancers.jp/c/wp-content/uploads/2016/04/12155014/5-573x382.webp)
取材・撮影場所は自宅兼事務所の野村氏の自宅
頭使って音楽やらなきゃいけない時代だからこそクラウドソーシングは役立つ
――先ほどミュージシャンでクラウドソーシング使っている人はいないというお話をお伺いしましたが、同業にもオススメしますか?
植田氏:しますね。バンドマンて横のつながりがすごい強いから、ついつい仕事の頼み合いみたいな状況が起こりがちなんですよ。でもそれってどうしてもクオリティーが低くなりがち。だからこういうクラウドソーシングを上手く活用して各分野のプロと一緒に仕事ができれば、自分たちの活動にも良い影響が出てくる気がするんですよね。
野村氏:良い曲作ったら誰かが拾ってくれてメジャーデビューでドカーン!みたいな幻想ってもはや崩壊してるじゃないですか。だからこそ、僕らみたいなDIYミュージシャンは頭使って音楽やる必要がある。そういう意味でもクラウドソーシングみたいな場は、バンドマンにとって強い味方になってくれるんじゃないかなと思うんです。
――「頭を使って音楽やる」現代においては個人単位のミュージシャンも音楽活動をビジネスとして捉える必要があるということですね。本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございました!
野村氏&植田氏:こちらこそ、ありがとうございました!
取材協力:Yellow Studs
まとめ
一般企業におけるクラウドソーシングの活用意義は、主に人件費のコストカットやリソース確保。しかし、それは自社プロジェクトを効率良く推し進めるためのパーツ集めと言い換えればこともできます。
しかし、本日紹介したYellow Studsのように「僕らに力を貸してください」というスタンスでクラウドソーシングを利用する団体の存在は、クラウドソーシングを利用するワーカーにとってやりがいを感じる事例の一つになったのではないでしょうか。
また、人材選定やレギュレーションを一考する必要こそあるものの、企業側にとっては裁量の大きいクリエイティブな仕事をクラウドワーカーに任せるという選択肢も生まれそうです。
ミュージシャンのクラウドソーシング活用という異例の裏には、クラウドソーシングを通じた企業・ワーカー双方の新たな未来が見え隠れしているのかもしれません。
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