食品の生産・製造や販売を手がけていて、ECサイトによる商品販売に関心を持っている企業は少なくありません。しかし、食品業界は物販の他業界に比べるとECサイトの普及率は低くなっています。その背景にあるのが、食品をECサイトで扱うには品質管理や物流など、多くの課題があるからです。
本記事では、食品ECサイトを成功させるための留意点や必要な準備について解説します。また、食品系ECサイトの成功事例もご紹介します。

目次
食品ECサイトの分類
ケース入りの飲料や果物、全国のお取り寄せグルメなど、ネットショッピングではさまざまな食料品が購入できます。食品ECサイトは、サイトの運営会社や販売形態によって、以下の4つに分類されます。
食品系ECサイトの種類 | 食品の販売形態 |
生産者・メーカーによる食品ECサイト | 農産物の生産者や食品・飲料のメーカーが運営するECサイトです。生産者が直接消費者に販売します。 |
小売業による食品ECサイト | スーパーや百貨店などの小売業が、取り扱っている食品を販売するサイトです。スーパーが店舗の商圏に住む顧客を対象に、ネットで店内の食料品などの注文を受けてその日のうちに配達する「ネットスーパー」という形態もあります。 |
生鮮食料品・加工品の定期販売ECサイト | 生鮮食料品や加工品などを会員向けに定期配達するECサイトです。有機野菜や無添加加工品など、こだわりの食材をセットにして販売しています。 |
飲食店によるテイクアウトのEC化 | 店舗を構える飲食店が、冷凍調理などを施したメニューを販売するECサイトです。コロナ禍による来店数減少をカバーする方法として広まりつつあります。 |
食品は物販系ECサイトの中でもEC化率が低い
国内の食品業界は「EC化率」が低いといわれています。EC化率とは、業界の全市場規模に対するEC市場の割合を表す数字です。
経済産業省の「令和2年度電子商取引に関する市場調査」によると、商品ジャンル別に見たEC市場規模の上位は以下のようになっています。
- 生活家電、AV機器、PC・周辺機器等
- 衣類・服飾雑貨等
- 食品、飲料、酒類
3つのジャンルの市場規模は、いずれも2兆2,000億円~2兆3,000億円程度あります。
しかし、市場規模に対するEC市場の割合を表す「EC化率」は、以下のように商品ジャンルによってかなりの▼があります。
- 生活家電、AV機器、PC・周辺機器等の「EC化率」=37.45%
- 衣類・服飾雑貨等の「EC化率」=19.44%
- 食品、飲料、酒類の「EC化率」=3.31%
食品業界の市場規模を考えると、まだまだEC市場は拡大の余地があるということですが、食品のEC率が他業界に比べて低い理由として、次のようなことが考えられます。
- 実店舗に比べて利益率が低い
- 顧客の自宅の近くにある実店舗と競合する
- 食品の鮮度管理が難しい
それぞれの理由について、詳しく確認してみましょう。
実店舗に比べて利益率が低い
ECサイトでの食品の販売は、実店舗での販売に比べて利益が出にくい傾向があります。扱う食品によっては、在庫管理に冷凍設備が必要になります。また、実店舗ではかからない配送コストも発生します。
食品は家電などと比べて単価が低く、保管費や配送費が利益を圧迫しがちになることから、食品ECサイトで利益を確保するためには薄利多売でしっかりと販売数を増やす必要があります。
顧客の自宅の近くにある実店舗と競合する
食品ECサイトの競合相手は食品を扱う他のECサイトだけではなく、顧客の自宅付近にあるスーパーやコンビニとも競合します。
顧客がECサイトで購入を検討する食品で多いのは、身近な店舗で販売されていない珍しい商品、そして実店舗では持ち帰りにくい米やケース売り飲料などです。そのため、実店舗と差別化できない食品をECサイトで販売しても、売り上げにつながらない可能性があります。
食品の鮮度管理が難しい
食品は鮮度や品質を守るために、物流の過程で温度管理が必要になることが少なくありません。食品を扱うECサイトを運営するには、鮮度を保ちながら商品管理や配送が行える物流体制を整える必要があります。
食品ECサイトを成功させるための3つのポイント
食品ECサイトの難しさを踏まえ、サイトを成功させるポイントを見てみましょう。
- 食品ECサイトに向いている食品を扱う
- 品質を維持できる物流体制を整える
- ECサイトのリピーター(ファン)を増やす
1. 食品ECサイトに向いている食品を扱う
実店舗では買えない、あるいは実店舗に売っていても持ち帰りにくい食品がECサイトに向いています。ここからはECサイトで販売することが向いている食品の特徴について、具体的に説明していきます。
付加価値が高い商品を扱う
食品ECサイトでよく購入されるものは、近所の実店舗では簡単に手に入らないものです。例えば、地域限定で販売しているものや流通量が少ないものなど、希少性の高い食品・食材が挙げられます。
また、凝った料理やスイーツが家庭で簡単に作れるキット、有名店のテイクアウトメニューを冷凍食品にしたものなども人気です。
実店舗に買いに行くのが手間な商品を扱う
ケース売りの飲料や段ボール詰めのみかんやリンゴなど、実店舗に買いに行くと持って帰るのに苦労するものも、ECサイトでよく購入されています。
2. 品質を維持できる物流体制を整える
食品を販売するうえで、ECサイト運営者が最も気を遣うのが物流面です。食品の品質や鮮度を保ったまま顧客のもとに届けるには、温度を一定に保った状態で保管・配送を行う必要があります。
自社で資金を投入し、温度管理ができる倉庫や配送トラックなどを用意することが理想ですが、難しい場合は物流部分をアウトソーシングする方法もあります。
3. ECサイトのリピーター(ファン)を増やす
食品ECサイトに限らずすべてのECサイトに共通していることですが、継続的に購入してくれる顧客を増やすことがサイト運営を安定させるカギになります。
リピーターを獲得するための代表的な施策を確認してみましょう。
顧客にとって利用しやすいサイトのデザイン
顧客がECサイトで簡単に買い物ができるように、商品のカテゴリー分けや商品選びから購入までのナビゲーションなど、スムーズな購入動線になるように配慮しましょう。
また、顧客は食品ECサイトで買い物をする際には、商品を手に取って確かめることができない分「これは買う価値のあるものだ」と判断できる情報をサイトに求めます。商品写真の撮り方や商品説明などで、品質の高さや味の美味しさを伝える工夫が必要です。
顧客を飽きさせない企画
リピーターを増やすには、顧客にとって定期的に訪れたくなるような仕掛けも大切です。食品の産地や生産者の情報を読み物として伝えたり、レシピを掲載したりして商品の魅力を強力に伝えられるのは、実店舗にはないECサイトの強みでもあります。
他にもメールマガジンを配信したり、会員を優遇する頒布会(はんぷかい)形式を取り入れてみたりして、顧客とのつながりをつくることも有効です。
食品ECサイトの成功事例を紹介
ここでは、人気の食品ECサイトとその特徴をご紹介します。食品ECサイトのイメージ作りの参考にしてください。
生産者と消費者をダイレクトにつなぐ「食べチョク」
生産者が食材を箱詰めし、生産者に直接配送する産直通販のポータルサイトです。間に流通を専門とする企業などが入らずに、生産者が直接価格を決めています。
サイトのトップには、顧客が購入した食材の画像とメッセージをアップする「みんなの投稿」が掲載されています。生産者からの返信も添えられ、生産者と消費者のつながりを感じることができます。
野菜や果物、魚介といったカテゴリー検索のほか、「特集から探す」といった商品の探し方も可能です。「自然災害や盗難などの被害にあって困っている生産者」といった特集ページもあり、生産者と消費者の関係づくりを大切にしている様子が伺えます。
醤油に特化したコンテンツが豊富「職人醤油」
日本全国で生産されている400以上の醤油を100mlの小瓶で販売する醤油専門店のECサイトです。サイトのコンセプトは「このサイトでいろんな醤油を試して、気に入ったものがあれば蔵元で大きなサイズを買ってください」というユニークなものです。
サイトのトップには、醤油についての記事やサイトのコンセプトを説明する記事へのリンクが配され「共感できる人に買ってほしい」という思いが伝わってきます。
商品のカテゴリー分けは「肉におすすめ」「魚におすすめ」など、味がわからないものを買わせる工夫がされています。日本全国の醤油を扱っているサイトらしく、産地や蔵元からも選べるほか、初めて購入する人向けのセットも用意されています。
プロの料理人も使う世界中の食材を取り揃え「ハイ食材室」
海外の食材や調味料を中心に揃えたサイトで、プロの料理人からも支持されています。
Instagramのように食材の画像をたくさん並べたおしゃれなトップ画像が目を引きますが、実は自社ECサイトではなく、楽天市場に出店しているモール型サイトです。画像をクリックすると、おなじみの楽天市場のフォーマットに沿った購入ページに遷移します。
モール型サイトでは、食材の背景にあるストーリーなどを伝えるのが難しいため、Facebookのリンクを貼り、フェイスブックで季節の食材や生産者の情報などを発信しています。
実店舗のこだわりメニューを冷凍宅食で提供「筋肉食堂DELI」
渋谷や六本木など都内に6店舗を構える「筋肉食堂」は、体を鍛えている人やダイエットをしている人向けに、高たんぱく・低カロリー・低糖質のメニューを提供するレストランです。「筋肉食堂」のECサイトである「筋肉食堂DELI」では、お店のメニューを冷凍で宅配しています。
「トレーニングやダイエットをしている人向けの料理」という特化型の商材であることに加え、レンジで解凍するだけで食べられる手軽さが人気です。また、定期購入制度があり、配達頻度に応じて割引率がアップするのも、日々の食事を重視する人にとってありがたいシステムです。
食品ECサイト開設のための準備
食品ECサイトを開設するには、サイトの構築に加えて保健所に届けを出したり認可を得たりする必要があります。ここでは、食品ECサイト開設までの流れを見てみましょう。
- 保健所への届け出・許可申請・資格取得
- 販売計画を立てる
- サイトの作成
1. 保健所への届け出・許可申請・資格取得
ECサイトで食品を扱うには「食品衛生責任者」の資格を持った人を置き「食品衛生法に基づく営業許可」が必要になります。保健所で講習を受けると、食品衛生責任者の資格が取得できます。
食品衛生法に基づく営業許可は製造・加工業、販売業、調理業、処理業と業種ごとに異なります。さらに、扱う食材の種類によっても営業許可が細かく分かれています。農作物の販売なら許可は不要になることもありますが、ECサイトで販売する商品を決めた時点で、まず保健所に営業許可の申請を行いましょう。
飲食店の経営者は飲食店の営業許可を得ていますが、店で出しているメニューを冷凍して販売する場合には、追加で冷凍業の営業許可が必要になります。
営業許可の申請方法については、製造・販売の拠点となる場所を管轄する保健所に問い合わせましょう。
2. 販売計画を立てる
下記に分けて、それぞれ販売計画の詳細を説明していきます。
- 商材や仕入れ先の決定
- ECサイトの構築方法の選定
- 梱包・発送方法の決定
商材や仕入先の決定
具体的な商材や仕入れ先を決定し、ECサイトで販売する商品を作ります。店舗で販売している料理のように調理・加工した商品をECサイトで販売する場合、配送中に品質が変化しないよう冷凍する必要があります。
ECサイトの構築方法の選定
ECサイトの構築方法には自社でECサイトを立ち上げる方法と、ECモールに出店する方法があります。ECモールへの出典は、構築費用や期間が抑えられます。自社でECサイトを立ち上げる場合は、個性を打ち出したサイトを作りたい場合に適しています。
なおいずれの方法も、社内で作成するパターンと制作会社に依頼するパターンがあります。社内でサイト構築の人材を確保できない場合は、Webサイトの制作会社に依頼するとよいでしょう。
梱包・発送方法の決定
梱包や配送方法を決める際は、食品の品質が保てるように配慮しつつ、コストも考慮する必要があります。梱包や配送にかかる費用は、原価さらには販売価格にも影響するので慎重に検討しましょう。
3. サイトの作成
構築方法や内製・外注のいずれにするかが決まったら、サイトを構築します。販売する商品が完成したら商品説明の原稿や画像を作成し、決済や配送方法とともにサイトに登録します。
また、商品の販売以外にも、SNSとの連携や読み物コンテンツの掲載、メールマガジンの発行などリピーターを獲得するための取り組みも随時行いましょう。
食品ECサイトで新たな顧客を獲得しよう!
食品は大きな市場である反面、EC化が他分野に比べてなかなか進んでいません。しかし、コロナ禍をきっかけに食品をネットで購入する人は確実に増えていて、今後もネット販売は伸びると考えられます。
顧客にとって「生活圏内にある実店舗では簡単に買えない商品」を気軽に買えるのが、食品ECサイトの強みです。一方、食品の生産者や飲食店にとっては、これまで出会えなかった新たな顧客を獲得できるチャンスです。今以上に定着が期待される食品ECサイトを活用し、新しい販路を開きましょう。
