飲食店は新型コロナの甚大な影響を受け、厳しい経営を強いられています。業績を回復させる取り組みとして、オンラインでのデリバリーや商品販売を実施する飲食店が急増中です。
飲食店がECへの参入を成功させるポイントは、どのような点でしょうか?他の業界とは異なる飲食店ECの特徴や、実店舗とECとの相違点を理解した上で、ECに取り組むことが重要です。
本記事では、飲食店がECを始めるメリット・デメリット、開業方法、手順などを解説します。

目次
飲食店のECを取り巻く状況
新型コロナウイルス感染拡大によって、深刻なダメージを受けた飲食店の状況について説明します。
飲食店の売上推移
新型コロナウイルス感染拡大によって、社会生活に深刻な影響が出始めた2020年の春以降、営業自粛や営業時間の短縮を要請された飲食店は、大きな打撃を受けることになりました。
2021年に総務省統計局が発表した「サービス産業動向調査 調査結果」には、2021年各月の産業分野別売上高を2020年と2019年の同月と比較したデータが記載されています。飲食店を含む「宿泊業、飲食サービス業」の2021年10月までの各月売り上げを2020年、2019年の同月と比較したのが、以下のグラフです。

出典:「サービス産業動向調査結果」(総務省統計局)(2022年1月2日に利用)
「宿泊業、飲食サービス業」の2021年10月の売り上げは、2020年同月に比べて13.8%減少しており、6月から5カ月連続して前年の売り上げを下回る結果となりました。新型コロナウイルスの影響がない2019年の売り上げと比較すると、2021年各月の売り上げは1兆円前後も減少しています。
拡大する食品関連のEC市場
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化するにつれ悪化した業績の回復策として、飲食店ではオンラインデリバリーの利用や、ECサイトの運用を開始する動きが加速しています。
実店舗の飲食店が業績低迷に苦しむ中、EC市場での食品関連の売り上げは拡大しています。
2021年7月に経済産業省が発表した「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」には、物流系分野の2020年のEC市場規模を前年と比較した、以下の表が掲載されています。

出典:「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」(経済産業省)(2022年1月2日に利用)
食品、飲料、酒類のEC市場規模は2019年から21.13%拡大し、2兆2,086億円となっています。その反面、 すべての商取引の市場規模に対するEC市場規模の割合を示すEC化率は、3.31%にとどまっています。今後もECに参入する飲食店の増加傾向が続けば、食品、飲料、酒類のEC市場はさらに拡大することが予想されます。
オンラインデリバリーや食品のネット通販の現状
飲食店のECと関連が深い食品のネット通販、オンラインデリバリーの現状を見てみましょう。
以下の円グラフは、2021年9月に矢野経済研究所が発表した、2020年度の「食品通販のチャネル別市場規模の割合」を示したものです。

出典:矢野経済研究所「食品通販市場に関する調査(2021年)」をもとに作成
ECサイト(ショッピングサイト)の割合は生協を上回り、トップとなっています。食品のEC市場では、2020年4月以来、これまでにないほど膨大な数の新規参入がありました。その結果、市場は活性化していますが、同時に競争も激化しています。今後も食品のEC市場は拡大を続けると予測されています。
オンラインでのフードデリバリーは、飲食店の商品をスマホやパソコンなどで注文できる宅配サービスです。「2021年フードデリバリーサービス利用動向調査」を実施したICT総研が、2021年4月に調査結果を発表しています。以下のグラフは、このサービスの市場規模と今後の需要予測を示したものです。

出典:ICT総研「2021年 フードデリバリーサービス利用動向調査」をもとに作成
フードデリバリーサービスの市場規模は、外出の自粛や在宅ワークが広がった2020年に大きく拡大しました。フードデリバリーを日常的に利用する消費者が増加し、生活に必要不可欠なサービスとして定着しつつあります。将来的にも着実に市場規模が拡大すると予測されています。
飲食店がECを始めるメリットとデメリット
飲食店がECに新規参入する主なメリットとデメリットについて説明します。
飲食店ECの3つのメリット
飲食店のEC参入によって期待できる主なメリットは、以下の3点です。
- 新規顧客の獲得
- 業務の分散化
- 販売エリアの拡大
それぞれのメリットの詳細を詳しく見ていきましょう。
1. 新規顧客の獲得
飲食店がECに参入する最大のメリットは、新規顧客を獲得する機会が拡大することです。オンライン上に実店舗とは別の販売拠点を設けることで、既存の顧客とは異なる属性を持った消費者に対するアプローチが可能になります。
2. 業務の分散化
ECサイトから注文を受けることで、店舗スタッフの業務を分散化できます。実店舗では、ランチや夕食などの時間帯に利用者が集中する傾向があります。比較的余裕のある時間帯にECサイトの商品を準備することで、スタッフの負担を低減し、時間や設備を有効に活用できます。
3. 販売エリアの拡大
ECへの参入によって、販売エリアの拡大が見込めることも大きなメリットです。実店舗での営業には地理的な制限がありますが、オンラインデリバリーでは販売エリアが大幅に拡大されます。さらにECサイトでの通販では、商品の種類などによっては、販売エリアを日本全国や海外にまで広げることも可能です。
飲食店ECの3つのデメリット
ECに参入する飲食店が注意すべき主なデメリットは、以下の3点です。
- 競合店の多さ
- 実店舗の強みを生かしにくい
- 設備投資が必要になることがある
それぞれのデメリットの詳細を詳しく見ていきましょう。
1. 競合店の多さ
ECでは、基本的に地理的な制限を受けることが少ないため、類似した商品を販売する数多くの競合が存在します。多店舗との激しい競争を勝ち抜くには、実店舗で培ってきたノウハウを生かし、ECのユーザーにアピールする商品を販売する必要があります。
商品だけでなく、集客対策や販売促進活動も含めて、競合との差別化を図る取り組みが重要です。
2. 実店舗の強みを生かしにくい
実店舗の顧客から店内の雰囲気や接客を高く評価されていても、ECを利用する消費者にとっては商品自体の魅力以外は、購入を決める判断材料にはなりません。商品写真や説明文、価格設定などを入念に検討し、商品だけで消費者を引き付けることが求められます。
3. 設備投資が必要になることがある
ECで販売する商品の種類によっては、商品の包装に用いる真空包装機や急速冷凍機などの機器が必要になることがあります。実店舗が持つ設備にもよりますが、ECを開始するために設備投資をする可能性があることに注意すべきです。
飲食店がECに参入する4つの方法
飲食店がECに参入する主な方法は、以下の4つです。
- 飲食店に特化したECモールへの出店
- ECプラットフォームでの自社サイト構築
- デリバリーサービスの利用
- スマホ決済端末の利用
それぞれの参入方法と代表的なサービスの概要を説明します。
1. 飲食店に特化したECモールへの出店
2020年以降、飲食店や食品に特化したECモールが増加しました。基本的なサービス形態は、楽天市場やAmazonといった大手ECモールと同様で、Web上のショッピングモールに出店して商品を販売します。大手ECモールに比べて費用が割安であること、利用者にECモールと実店舗の往来を促す施策などが主な特徴です。
代表的な飲食店特化型ECモールには、以下の2つがあります。
イエトソト
イエトソトは、2020年12月にオープンした飲食店特化型のECモールです。出店者は規約に沿った商品であれば数の制限なく販売できます。
イエトソトのユーザーに実店舗の魅力を伝える特集記事の掲載など、実店舗とECモールの往来や循環を促進するサービスを実施しています。
ラシクルモール
ラシクルモールは、徳島県に運営拠点を置くECモールです。商品のメインは食品や飲料で「地産地消やまちづくりにつながる商品」を推奨するという運営姿勢に基づき、地元徳島の食品関連企業が数多く出店しています。
初期費用や月額利用料は無料で、販売額に応じた取引手数料だけが発生します。
2. ECプラットフォームでの自社サイト構築
ECプラットフォームは、ECサイトの構築・運営に必要な機能やサポートを提供するサービスです。初期費用や月額費用が不要なサービスも多く、コストを抑えて手軽にECサイトを構築できます。サイト運営者が設定したエリア内であれば、顧客が商品の配達を依頼できる、デリバリー機能を持つECプラットフォームもあります。
飲食店に適したデリバリー機能を持つ、2つのECプラットフォームの概要を紹介します。
Shopify
Shopifyは、世界最大級のECプラットフォームです。高機能なECサイトを簡単に構築できるサービスを提供しています。初期費用は無料で、利用プランごとに月額費用が発生します。
ショップが設定したエリア内からの注文であれば購入者が配達を依頼できる、ローカルデリバリー機能を提供しています。
MakeShop
MakeShopは、提供する機能の豊富さや、集客力向上のための独自サービスに定評があるECプラットフォームです。初期費用と月額費用が必要ですが、取引手数料不要で、利益を上げやすい料金システムとなっています。
配送エリアを指定して料理や弁当などを購入者に届ける、ケータリング・デリバリーオプションを利用できます。
3. デリバリーサービスの利用
実店舗の営業形態を変えることなく、すぐにオンラインでの注文を増やしたいと考える飲食店には、主要デリバリーサービスの利用が適しています。注文受付から決済、配達までを全て委託でき、飲食店側は注文を受けた商品を配達スタッフに手渡すだけで取引が完了します。
主要デリバリーサービスでは、注文ごとに約35%の手数料が発生します。
代表的な2つのデリバリーサービスの概要を説明します。
出前館
出前館は、約95,000店(2021年10月現在)が加盟する、国内最大級のデリバリーサービスです。出店申し込みから利用開始までは最短で1週間程度です。
オーダー管理アプリで受注を確認し、店舗で商品をデリバリースタッフに手渡します。自社で配達を行うこともでき、その場合は手数料が1/3程度に減額されます。
Uber Eats
Uber Eatsはアメリカで誕生したデリバリーサービスで、自社のスタッフではなくUber Eatsに登録した配達パートナーが配達を担当する事業形態が特徴的です。Uber Eatsの公式サイトから店舗情報を登録すると、数日以内にUber Eatsのレストラン パートナーとして注文受け付けを開始できます。
4. スマホ決済端末の利用
スマホ決済端末のオンライン決済機能を使用することにより、自社のECサイトやデリバリーサービスへの登録不要で、デリバリー用の専用決済ページを簡単に作成できます。
オンライン決済機能を持つスマホ決済端末には、STORESやスクエアなどがあります。飲食店が最も簡単にECに参入できる方法ですが、決済ページだけをWeb上に作成する機能であり、利用に際しては実店舗の顧客にデリバリーの開始を告知する必要があります。
飲食店のECサイト構築・運営の基本手順
飲食店がECサイトを開設する基本的な手順は以下の通りです。
- 販売する商品の選定
- 食品表示ラベルの作成
- 商品の包装方法の決定
- ECサイトの構築
- 集客対策の実施
- 販売促進活動の実施
各項目の概要について説明します。
1. 販売する商品の選定
まず、ECサイトで販売する商品を選定します。ネット通販では、商品を入れる容器の費用や送料、取引手数料といったコストが発生するため、単価が低い商品では利益を上げにくくなります。
実店舗で提供している商品の特徴を生かした、ECサイト専用の商品やセット商品、期間限定商品などの検討をおすすめします。
2. 食品表示ラベルの作成
食品の販売には、食品表示法が定めた食品表示が必要です。商品に貼付する食品表示ラベルを作成しましょう。
表示する内容は、原材料名、添加物、アレルゲンの有無、栄養成分表、保存方法、賞味期限・消費期限などです。表示項目は、食品の種類によって異なるため、事前確認を行います。
3. 商品の包装方法の決定
商品を発送する際の包装方法を決定します。商品の味や形状を保ったまま顧客に配送できる、適切な包装方法を検討しましょう。
常温で配送できる商品か、冷凍や冷蔵が必要かの確認も重要です。商品によっては、真空包装機や急速冷凍機といった機器が必要になることもあります。
4. ECサイトの構築
商品と配送の準備が整った段階で、ECサイトの構築準備を開始します。ECサイトの開設に利用できるサービスには、前項で取り上げたECモールやECプラットフォームなどがあります。
各サービスの特徴を理解した上で、機能やコストが自社の希望や条件に合った構築方法を選択しましょう。
5. 集客対策の実施
看板や外観などを見た人々などが利用する自然集客が見込める実店舗と異なり、ECサイトでは集客力を高めるための対策が必須となります。
実店舗の顧客への告知だけでなく、Web検索で上位に表示されるためのSEO対策やSNSでの商品情報の提供が必要です。低コストで実施できる基本的な集客対策は、できるだけ早期に始めることをおすすめします。
6. 販売促進活動の実施
新規顧客をサイトに集める集客対策に加えて、商品購入者に対するリピート購入の促進といった販売促進活動を実施します。ポイントやクーポンの発行、おすすめ商品を紹介するメルマガの送付、Web広告の出稿などを検討しましょう。
飲食店がECを成功させるための3つのポイント
ECへの参入によって飲食店の業績を改善させるには、以下の3つの重要点に留意する必要があります。
- 販売許認可や関連法規についての保健所への事前相談
- 消費者の目を引く商品画像の作成
- 飲食店のEC導入に利用できる補助金の確認
各項目について説明します。
1. 販売許認可や関連法規についての保健所への事前相談
ECサイトの運用開始前に、販売に許認可が必要な食品や関連法規について、保健所に相談しましょう。
販売する食品や提供する方法によっては、法令違反になる可能性があります。ECサイトを立ち上げた後に違反が判明するリスクを避けるために、気になる点は全て保健所に確認や質問を行うべきです。
2. 消費者の目を引く商品画像の作成
飲食店のECサイトを構築する上で特に重要となるのが、サイトに掲載する料理や食品の写真です。実店舗では、他の客が注文した料理を実際に見ることができますが、ECサイトでは写真と説明文だけで商品の魅力を伝える必要があります。
プロのカメラマンに商品撮影を依頼するコスト捻出が難しければ、撮影場所の明るさや商品の配置などに注意し、一眼レフカメラや画像品質の高い最新のスマートフォンで撮影しましょう。
3. 飲食店のEC導入に利用できる補助金の確認
実店舗のある自治体や公的団体が、飲食店のECサイト開設時に利用できる補助金や支援制度を実施していないかを確認しましょう。
公益財団法人 東京都中小企業振興公社の業態転換支援(新型コロナウイルス感染症緊急対策)事業は、東京都内の飲食店を対象に、売上確保に向けた新たな取り組みを支援する制度です。100万円を限度額とし、助成対象経費の4/5以内の助成金が交付されます。
自治体のホームページを定期的に確認し、飲食店のEC参入を支援する制度があれば、制度の概要や申請要件を確認した上で申請を行いましょう。
飲食店のECサイト開設に関する疑問や悩みは、ECのプロへの相談がおすすめ
ECサイトの構築を検討中の飲食店が、外部のプロからの支援を受ける際に留意すべき2つのポイントについて説明します。
飲食店がECサイトを構築する際に、専門家のサポートを検討すべき業務
飲食店のECサイト構築に関して、プロへの相談が必要になることが多い業務は、以下の通りです。
- 実店舗と一貫性を持つECサイトのコンセプト作り
- サイト構築に利用するサービスの選定
- 競合との差別化を図るサイト構築・運営
- 注文管理・顧客管理
- 集客対策
実店舗のスタッフだけでは対応が困難な業務がある場合は、ECサイトの構築・運用に精通したプロへの委託を検討しましょう。
相談・委託先を選定する際の4つのポイント
ECサイトの構築・運用業務の委託先を探す際には、以下の4つのポイントについての慎重な検討が必要です。
- ECサイトの構築・運用に関する専門知識や高度なスキル
- 飲食店や食品を販売するECサイトの構築実績
- 相談や委託した業務への迅速な対応
- コストパフォーマンスの高さ
ランサーズで活動中のフリーランスには、食品関連のECサイト構築の実績を豊富に持つプロが数多くいます。業務委託先の選定にお悩みの際は、ランサーズのフリーランスへの相談をご検討ください。
飲食店が重視すべきEC参入のポイントを踏まえ、ECによる業績回復を実現しましょう
本記事では、飲食店のEC参入に関する以下の5つの重要点を取り上げました。
- 飲食店が厳しい経営を迫られる中で、食品関連のEC市場は拡大している
- 飲食店のEC参入には、新規顧客の獲得や販売エリアの拡大などのメリットがある
- 飲食店がECを開始する際には、条件に合った方法を選択すべき
- 飲食店のECサイト構築手順には、食品表示ラベルの準備など独自の準備が含まれる
- ECサイト開設前に、販売の許認可などについて保健所に相談すべき
飲食店のECへの参入やECサイトの構築には、他の業種とは異なる注意点が複数存在します。実店舗とECの2つの販売拠点を持つことによって、社会状況に即した営業戦略を立案しやすくなるはずです。飲食店が重視すべきポイントを踏まえた上で、業績改善を実現するECサイトの開設を行ってください。
