フリーランスとサラリーマンで大きく違うお金の事情

フリーランスとサラリーマンで大きく違うお金の事情
伊藤会計事務所代表 公認会計士・税理士の伊藤英佑さんに、2回にわたりフリーランスが知っておくべき「お金のこと」について伺いました。フリーランスとサラリーマンの違いを理解して、賢いマネーライフを送りましょう。
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知っておきたいフリーランスとサラリーマンの「お金」の違い

今まで会社勤めをしていた人がフリーランスに転身した時、働き方だけでなく経済面でも大きな変化が起きます。

まず、税金や社会保険料など、今までは会社が給与天引きの形で各種の支払いや手続きをしてくれていたのですが、全て自分で手続きをして納付をすることになります。給与天引きの内訳がどうなっているかは、給与明細を詳しく見ない人も多いかもしれませんが、所得税、住民税、社会保険料等の項目が引かれています。

所得税は、収入源が勤め先だけであれば、基本的には会社が準備してくれる年末調整の書類を提出するだけで終わります。対してフリーランスになると、個人事業主として、毎年、必ず自分で確定申告を行わなければなりません。

社会保険や住民税等も、サラリーマンであれば給与支給に合わせて手続きや納付を全て会社が行ってくれますが、フリーランスになったら自分で届出なくてはなりません。

サラリーマンは給与額面から税金や社会保険料が控除されて手取りになりましたが、フリーランスになったらこれらの支払を後から自分で行う必要があります。そのため、仮にサラリーマンと同じ額が口座に振り込まれていても、フリーランスはそこから税金や社会保険料を自分で支払いますので、サラリーマン時代のように「振込額=全額自分で使える額」とはならないことを認識しておきましょう。

フリーランスになるにあたり、まずはこのような基礎知識を身に着けていくことが自衛のためには必要となりますので、最低限抑えるべき基礎知識をここでご紹介します。

まず知っておきたい、健康保険と老齢年金のこと

健康保険

国民皆保険制度をとる日本では、すべての国民がいずれかの公的医療保険に加入する必要があります。会社員の健康保険は勤務会社単位で全国健康保険協会(通称、協会けんぽ)か健康保険組合に加入していますが、フリーランスが新規で加入できる公的医療保険は国民健康保険しかありません。

会社員の健康保険とフリーランスの健康保険における一番の違いは、サラリーマンが加入する健康保険には、国民健康保険にはない「扶養」という制度があること。配偶者や親などの親族を扶養に入れることができ、被扶養者が複数名いても被保険者の健康保険料は変わりません。ほかにも、独自の給付制度があったり人間ドックの補助制度や保養所の割引制度があったりと、社会保険の健康保険は、国民健康保険に比べて一般的に手厚い制度が設けられています。

ただし会社員からフリーランスに転身する場合は、勤め先を退職しても2年間は会社在職時の健康保険を継続できる、「任意継続」という制度があります。これにより、在職中の標準報酬月額が28万円以上の場合は保険料が安くなる、健康保険組合が行う保険給付を受けられる(健康保険組合によって異なります)、扶養で家族も入れる(国民健康保険は家族それぞれが入らなければいけません)、というメリットがありますので、自身が有利になりそうか調べて任意継続の手続きをしましょう。

任意継続には、資格喪失日(退職した次の日)から20日以内に任意継続の手続きが必要ですので、退職間際で立て込んでいてうっかり期日を過ぎないよう注意が必要です。

老齢年金

老齢年金とは、公的年金の加入者が原則65歳から一生涯、国から受け取ることのできるお金のことで、主に国民年金(1階部分)と厚生年金(2階部分)が土台となっています。厚生年金は全てのサラリーマンが加入するものですが、フリーランスが加入するのは土台の1階部分である国民年金のみになります。何も対策をしなければ、公的年金の受け取りで、2階部分の厚生年金や、会社固有の年金制度で設けられている企業年金(3階部分)まであるサラリーマンに比べ、フリーランスでは将来もらえる老齢年金が少なくなります。

老齢年金の平均受給額は国民年金だけだと月額約6.5万円ですが、厚生年金の加入者でサラリーマン人生をまっとうした場合では平均月22万円になります。国民年金だけのフリーランスは、厚生年金加入者であるサラリーマンと比べ、年間で約186万円以上も年金受給額が少なくなるのです(この金額は平均で、会社員時代の給与水準等により変わります。また、企業年金が加わると差はもっと大きくなります)。

このように、厚生年金の有無や優良企業で企業年金に入っている場合と、国民年金だけでは老後資金はかなり変わります。一般的に考えて、何の貯蓄もなく月額約6.5万円の国民年金だけで生活することは厳しいでしょう。

遺族年金や労災等の保障はどうなる!?

遺族年金

遺族年金は、国民年金または厚生年金保険の加入者が亡くなった時に、亡くなった方によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金ですが、フリーランスとサラリーマンでは受け取れる年金の種類が異なります。

サラリーマンの遺族なら「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類の遺族年金を受け取ることができますが、フリーランスの遺族が受け取れるのは「遺族基礎年金」だけです。しかも、遺族基礎年金は18歳以下の子と妻、または18歳以下の子のみが受給できるなど、受給要件や受給期間が遺族厚生年金よりも厳しくなっています。

遺族厚生年金の受給額は、亡くなった方の加入期間や保険料納付額によって異なるため一概には言えませんが、その総額は一般的に数千万円にものぼりますので、これを受給できるサラリーマンの遺族とできないフリーランスの遺族とでは、その後の生活に大きな違いが生じるでしょう。

その他の各種手当

まず「出産一時金」は、子ども一人出産するにつき42万円が支給される一時金で、フリーランスの多くが加入する「国民健康保険」「健康保険の任意継続」でも支給されています。

労災保険は、仕事が原因で働けず、収入がストップした場合に休業中の収入を補う給付金です。雇用されている労働者のために会社が加入して保険料を払っているものですが、フリーランスは雇用されていないのでこれがなくなります。

また、仕事以外が原因で働けず、収入がストップした場合は、サラリーマンは健康保険より「傷病手当金」の支給がありますが、フリーランスにはありません。

産休中は健康保険より「出産手当金」(産休手当)が、育休中は雇用保険より「育児休業給付金」(育休手当)が支給されますが、これもフリーランスにはありません。

おわりに

以上のように、フリーランスになるとサラリーマン時代と比べて多くの場合に公的な保障が減ってしまうことがわかりました。それに対してフリーランスはどのような備えをしておくべきでしょうか。フリーランスが取るべき対策について、次回の記事で解説します。

▶第二回「フリーランスが考えておくべきお金の自助努力の基本」はこちらから!
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