公正かつ自由なフリーランスの競争市場に向けて ー 公正取引委員会のレポート報告 ー

働き方の多様化、企業による人材獲得競争が激化
山本:公正取引委員会では、昨年の8月に『人材と競争政策に関する検討会』を設置し、2018年2月15日に報告書を公表させていただきました。本日は、その内容をご説明したいと思います。
現在、日本では働き方の多様化が進み、個人として働く方が増えています。海外ではシェアリングエコノミーが普及し、今後は日本でもシェアリングエコノミーのサービス利用者だけでなく、提供者の増加も予想されます。
また、労働力人口の減少により、深刻な人材不足問題が発生し、企業間での人材の奪い合いがすでにおこなわれています。公正取引委員会は競争政策を担当しておりますので、そういった競争の活発化は歓迎です。
しかし、アメリカの事例を見ると、人材獲得競争が活発化してしまったが故に競争を制限しようとする行為も実際に起きているようです。なので、日本でも今後同じようなことが起きるかもしれないと。大きな変化が予想される、今後の人材市場を踏まえて、検討会を進めていったという背景になります。
フリーランスの約35%は、受注の際に契約書を交わしていない
山本:先ほども申し上げました通り、現在、個人で働いている方が増えている一方で、社会全体の仕組みが対応しきれておらず、フリーランスにしわ寄せが生じている可能性が高いことがわかりました。
フリーランスが発注を受ける際に、発注単価等の書面を交わしてから仕事をしているのかについて、調査結果によると、約35%の方が交付されずに仕事を進められていることが判明しました。
また同時に、フリーランスが仕事を請ける際に、契約書を交わしていない、または重要な契約期間を把握していない方は、相対的に報酬額が低い傾向にあることも分かりました。
要件定義力がないために、フリーランスが振り回されている
山本:調査などによると、「企業で働く管理職は、長期雇用を前提として働く部下を持つため、仕事の切り出しスキルやマネジメントスキルが低く、具体的特定が不十分」という結果が見られました。
これはどういうことかというと、例えば会社内に上司と部下がいたとします。上司は「Aをやっておいて」と部下に頼みます。そして、部下がAの作業をすると「Aではなく、やっぱBなんだよね」と、指示を変更することがある。
つまり、何が言いたいかというと、上司は思いつきで仕事を振る側面があると。もちろん全部ではありませんが、長期雇用を前提とした正社員同士であれば、思いつきで仕事をふってしまっても、切り出しスキルやマネジメントスキルがなくても、会社はまわっていくのです。
これを企業内で行う分には、独占禁止法的には問題ないのですが、社外にアウトソースした時は問題が生じます。先ほどの社内と同じように、思いつきでフリーランスに発注し、フリーランスが仕事し納品したら「いや、こんなんじゃない」と変更を要求されてしまう。それに応じてフリーランスが追加作業をすると追加コストが発生してしまう。
しかし、企業側は追加の支払いはできないとなってしまうと、フリーランスに不利益が生じてしまう。このように、フリーランスは増えているのに社会や企業が対応しきれておらず、フリーランスにしわ寄せが生じているという現状があり、企業側の意識を変える必要があると考えられます。
新しい個人の働き方に対し、独占禁止法上の新たな考え方が必要
山本:公正取引委員会はご存知の通り、独占禁止法という法律を運用する役所です。独占禁止法は、公正かつ自由な競争の維持促進を目的としており、人材獲得競争においても公正かつ自由な競争がおこなわれなければならない、と独占禁止法では考えています。
独占禁止法適用により、人材獲得競争が適切に行われることで、
1. 役務の価値を適切に踏まえた正当な報酬を実現
2. 労働力の需給マッチングを高め、社会全体における人材の適材適所の配置を実現
3. 人材を利用して供給される商品・サービスの水準の向上を通じた消費者利益の確保
4. さらには、経済的格差の是正
が期待されます。フリーランスが増加している今、人材の獲得をめぐる競争に対する、独占禁止法適用の意義は大きいと考えています。
ただし、昨年に施行70周年を迎えた独占禁止法は、人材獲得競争に関する考え方が整理されておらず、働き方の変化に適応できていないため、検討・整理することは喫緊の課題です。
企業が互いに取引条件を調整しあう行為は、今後も注視する必要あり
山本:検討会では、フリーランスに対して発注者が共同で不当な行為をする場合、独占禁止法上問題ではないか議論を交わしました。
まず、共同行為という点についてご説明いたします。企業がフリーランスに発注をおこなう際、共同で他社と話しあい、「●●円で発注していきましょうね」と発注金額をそろえる。
いわゆる、カルテルと呼ばれる行為ではありますが、発注金額をそろえたり、他社とお付き合いのあるフリーランスにはお互いに手を出さないでおきましょう、といった人材獲得競争を制限する行為が、これにあたり、これは独占禁止法上原則問題です。
また、人材獲得市場において、取引条件を曖昧なかたちで提示することは競争政策上好ましくない行為です。人材不足の状態で人件費があがっていきますと、「条件のすり合わせは後にしましょう」のように、各企業がなるべく報酬に関することを曖昧にする行動をとることがあり得ます。
そのような求人を目にされたことのある方もいらっしゃると思いますが、違反とは断定できないものの、条件面での競争が失われているため、今後も注視する必要があります。
線引きが難しい専属契約に関しては、引き続き議論をおこなっていく
山本:次は発注者A・B・Cが1人のフリーランスと取引をおこなっている場合に、優越的地位にある発注者Bが合理的に必要な範囲を超えた専属契約や、過大な秘密保持義務をフリーランスに課し、他の発注者A・Cと取引ができない状態をつくる行為があります。
企業がフリーランスと秘密保持契約を交わしてはいけないということはないのですが、例えば、フリーランスとは少し違うのですが、副業していた従業員について、副業をしたことのみを理由に秘密漏洩などを根拠とした損害賠償請求訴訟が提起されるといったような事例もヒアリングではお聞きしています。
当然、そのような話を個人が企業から持ち出されると、萎縮してしまいますし、リスクを冒すことは避けたいため、泣き寝入り……といった方向に進まざるを得ません。
また、萎縮という観点から申し上げると、現状、秘密保持義務などの義務の内容自体が曖昧、つまり、どこまでが義務でどこまでが義務ではないかという線引きが非常に曖昧であり、そのため萎縮が生じているという側面もあります。そのため、対策として範囲の明確化に資する一般的な考え方を取りまとめ周知する、フリーランスが範囲を明確にすることが必要となったときにそれに必要な手続きを整備する必要があると考えています。
このほかにも、発注者が優越的地位を利用し、フリーランスに不当に不利益を与える行為を検討しました。例えば、「頼んでいたものが不要になったから報酬は払わない」「条件をのまないと次は発注しない」など、発注者という立場をつかって、フリーランスに不当な要求をすることが、その一例です。
このような発注者の行為についても、今後注視していく必要があるのではないかと考えております。本日は、ご清聴いただき、ありがとうございました。
(おわり)
<人材市場における独占禁止法適用について、詳細を確認されたい方は以下ご覧ください>
・【公正取引委員会】人材と競争政策に関する検討会 人材に関する独占禁止法適用についての考え方
<公正取引委員会より、説明会のお知らせ>
公正取引委員会より「人材と競争政策に関する検討会」報告書の説明会を4月25日から5月31日にかけて全国9カ所で開催予定です。
フリーランスへの発注取引における、独占禁止法適用についての考え方を分かりやすくご説明いたしますので、お気軽にご参加ください。
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