時代を読む力とディテールが武器の元・先生ライター

時代を読む力とディテールが武器の元・先生ライター
中学校の国語教師から、編集者・ライターへ転身した櫻井よしい氏。音楽雑誌の編集者、ライターを皮切りに、新雑誌創刊の編集長として手腕を発揮。その後も大手出版社から単行本を出し、さらに新たな分野へのチャレンジとして車雑誌の編集者なども経験し独立。櫻井よしい氏の歩みと労働観に迫るシリーズ「例えばこんなフリーランス」。
LANCER SCORE
33

柔軟な視点で世の中の流行りや空気感をキャッチできる編集者・ライター

大衆性と独自性を両立させることは並大抵なことではない。

櫻井氏は、世の中の流行りや時代が求めている空気感をキャッチし、それに独自の切り口を加え読者の視点で世に出す力があるのだとお見受けした。

だからこそ、雑誌の立ち上げを成功させたり、書籍の出版、ジャンルの違う編集者など仕事の幅がどんどん広がっていったのだろう。

書籍、ジャンルの違う雑誌、Web記事など幅広く執筆できる秘訣とは?櫻井よしい氏のインタビューをお届けします。

なぜ?安定した公務員から編集者・ライターの世界へ転職を

–櫻井さんは東京で中学校の国語の先生をなさっていたとか。安定した公務員から編集者・ライターに転職したきっかけを教えてください。

確かに公務員は安定していますね。そもそも生活を安定させるための手段として先生になったのは事実ですし。でも正直、そんなに好きな職業でもなかったので、書く仕事をしたいなと漠然と考えていました。

それで先生をしながら、宣伝会議の編集・ライター講座に通っていました。あるとき、求人サイトで出版社の編集者募集という記事を見つけ応募しました。

–どんなジャンルの本を出す出版社だったのですか?

音楽系の専門誌でした。新曲を出すタイミングで歌手のインタビューをしたり、イベントやライブの取材に行ったり。売れる前の歌手から、紅白に出場する大御所まで担当させて頂きました。

–思い出に残っているエピソードを教えてください

都築響一さんという、有名な写真家の方がいまして。雑誌「POPEYE」の創刊編集者でもあり、写真界で有名なすごい賞をとった人なのですが、都築さんと一緒に仕事をしたことでしょうか。

特に「売れる前の歌手の自宅訪問企画」は思い出に残っています。主に苦労話を聞くというコンセプトで、自宅で衣装を着てもらい撮影をして。私は編集者としてアーティストと都築さんの取材スケジュールの調整などを行ないました。

自宅ってその人の生活が見えますよね。なんとなくその人の本性が分かるといえば大げさかな? 人生が透けて見える瞬間があるというのか。毎回、出来上がった誌面を見るのが楽しみで。感慨深いものがありましたね。

–ほかにはどんなエピソードがありましたか?

その出版社で、全くジャンルの違う雑誌を編集長として立ち上げたこともあります。社長から「よりマニアックな雑誌を」という無茶ぶりでしたが、なんとか形にしました。ここでは6年間働きましたが今、この時の経験が生きていますね。編集者、ライターとして本当に勉強をさせて頂きました。

夫の転勤で地方へ行くも単行本を2冊出すなど精力的に仕事を展開

–出版社を退職したあと、フリーランスとして単行本を出版したそうですね。

夫が地方へ転勤することになり、単身赴任させるわけにもいかず、会社を辞めてついていくことになったんです。とはいえわたしのほうは仕事がありませんから、フリーランスとしてイチからのスタートでした。

出版社に片っ端から企画書を送って、そのうち2つが採用されて出版に至る、みたいな(笑)。通ったのは、占いと教育関連の企画でした。

占いの企画を考えたきっかけは、既存の本に良いことしか書いていないものが多いと思ったからです。読者としては、良いことだけでなくその裏側も知りたいのでは? と考えまして。当時、365日誕生日占いの本が流行っていたのですが、それを毒舌風にアレンジするという企画でした。

「絶対にこれがやりたい」みたいな、熱い思いはほとんどなくて。なんとなく「今の時代に合っているのはこれかな?」というスタンスで企画を出していましたね。

その他の仕事としては、編集プロダクションからいくつかいただけるようになって。薬膳の本の出版に携わったこともありますし、Web記事の執筆も経験しました。文庫本、ゴーストライターとなんでもありでした。

–ところが、単身赴任で東京に戻るという選択をしたんですよね。地方で築いた人脈や仕事を手放して。

正直、地方での仕事に物足りなさを感じてしまったんです。もっと幅広く挑戦したいと思うようになり、そうするとやっぱり東京にいるほうがチャンスが多い。それで単身赴任を決意しました。夫はしぶしぶ送り出してくれました(笑)。

上京することになってから、就職先を決めまして。業界では有名な自動車雑誌を発行している出版社に、正社員で雇っていただけました。そこではコラムを書いたり、試乗体験ルポを書いたり。

–音楽雑誌の経験はお持ちでしたが、自動車ってジャンルが違いすぎて苦労があったのではないでしょうか。

ユーザーの層が違うわけですから、細かいところは当然、違いがありました。でも雑誌を作るという点においては、音楽であっても自動車であっても同じです。基本は同じですから、苦労はないですよ。

面白い記事を書くコツは、まずは時代の流れをつかむこと

–良質なコンテンツを書く秘訣を教えてください

記事を面白くしようと思ったら、ディテールが大事です。ディテールって「全体に対する細かい部分」とか「全体を手抜きせずに再現した作品」といった意味があると思うのですが。

コンテンツの場合は、同じような内容のものなら読者の個人的体験であるとか、知識であるとかその人自身の考えを含ませていくと面白くなると思います。ネットで調べただけの記事って薄いというか、なんとなく物足りないと感じている人が多いのかもしれませんよね。

自身の失敗談や成功例などの生の声、体験を伝えること。それらを踏まえ、時代の流れをつかんで自分なりの切り口でさらに読者目線で書くと、良質なコンテンツが生まれるのではないでしょうか。

–今後はどんな仕事に取り組みたいですか

現在、興味のあるコンテンツのひとつに「お金の話」があります。それで今、FP(ファイナンシャルプランナー)について勉強中です。私の良いところは、こだわりがないことなので(笑)。

今後は、専門性の高い案件にもチャレンジしていきたいですね。

(おわり)

【櫻井よしい】
芸術系大学を卒業後、中学校の国語の教師になるも宣伝会議のスクールを経て編集者に転職。以降は音楽雑誌、車雑誌の編集者、占い、教育関連書籍の出版、WEBライターなど幅広いジャンルを執筆。東京都在住。
RECOMMEND
関連記事