106万の壁が出現! 社会保険と配偶者控除の変化を税理士が解説

106万の壁が出現! 社会保険と配偶者控除の変化を税理士が解説
2016年10月から私たちの前に立ちはだかる、106万円の壁。103万円の壁や130万円の壁があるなかで、また新しい壁が出現しました。さらに今後は、配偶者控除の見直しが行なわれる可能性も。知らないと損する税金の話を、現役税理士さんに解説してもらいました。
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配偶者控除の見直しで、税金も社会保険も大きく変わる!?

税理士:黒田悠介
税理士資格取得後、税理士法人山田&パートナーズで主に資産税、事業承継業務に従事。三井住友銀行への出向の後、M&Aアドバイザリー業務を中心とするTrusteesを経て、税理士法人Bridge 東京事務所 所長に就任。スタートアップ企業の内部構築・資金調達から大規模M&Aアドバイザリー、資産関連コンサルティングを得意としています。※103万円の壁、130万円の壁については コチラ の記事もご覧ください。

最近メディアで、配偶者控除の見直しについて取り上げられているのをご存知でしょうか。

政府税制調査会が9月になってから、所得税の配偶者控除を見直すという議論を始めたのです。ひとつの案として、配偶者の収入にかかわらず税負担が軽くなるという、夫婦控除という制度に変更することを検討中とか。

詳細はあとで解説しますが、配偶者控除とは所得税の負担を軽くする制度のひとつ。年収が103万円以下の配偶者がいる場合、世帯主の収入から38万円の税制控除が受けられるものです。

世帯主が控除を受けられるようにと、年収を103万円に抑える目的で勤務時間を調整する人が多いのは有名な話。103万円という壁があるせいで、女性の就労拡大を阻害する制度とみる有識者もいるようです。

配偶者控除を見直すためには、同時に就業調整をやめた配偶者の年収が上がる仕組みも必要という声も。特に、非正規社員の給与水準を引き上げるべきという意見も出ているようです。

また、最近では『106万円の壁』という言葉が注目されています。これは2016年10月から実施される、社会保険の加入対象となる年収額のこと。よく理解しておかないと、あなたの家計は金銭的に損をする可能性があるかもしれません。

このように、他人事ではない配偶者控除の見直し。わたしたちの生活に、いったいどのような影響があるのでしょうか。

配偶者控除が見直されることで、支払う税金が上がる? 下がる? 社会保険にも影響がある? 106万円の壁って? わからないことだらけの税金と社会保険について、自分ごとに考えられるように解説していきます。


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配偶者控除ってなに? みんなの税金知識、基本のキ

はじめに、おさらいの意味を込めて配偶者控除について解説します。そもそも配偶者控除とはどういうものでしょうか?

これは妻の年収が103万円以下であれば、夫は「配偶者控除38万円(地方税は33万円)」という控除を受けることができる制度のこと。税金の軽減額は、38万円に税率をかけたものとなるため、5万円~20万円程となります。

103万円の壁 実はそこまで気にする必要はない!?

配偶者控除を受けるためには、配偶者の収入を103万円以内にする必要があると言われています。103万円とは、給与所得控除(65万円)と基礎控除(38万円)を足したものです。扶養に入る配偶者の収入が、会社からもらう「給料」であれば給与所得控除が使え、上限は103万円となります。

配偶者がフリーランスとして直接収入を得ている場合や保険外交員などで「給与以外の収入」である場合は、給与所得控除は使えません。基礎控除にあたる38万円が、配偶者控除を受けられる所得の上限となります。

ただし、この上限を超えた時点で、控除額が急に0円になるというわけではありません。103万円を超えて配偶者控除の適用がない場合でも、141万円までは段階的に控除が受けられます。

これは『配偶者特別控除』という制度のこと。配偶者特別控除では、141万円(フリーランスの場合76万円)までの収入であれば、夫が3万円~38万円の控除を受けられるのです。

妻の収入が増えることで、夫の控除が減り、税金が増えたとしても、妻の収入分は世帯収入が増加します。収入の増加分が、減額となる控除額を上回っていれば、103万円の壁はさして気にすることはありません。

(参考)配偶者控除
(参考)配偶者特別控除

本当に気をつけるべきなのは130万円の壁

配偶者控除見直しで収入が減る?

ここまでは税金のお話。実は、税金の控除よりも慎重に見極めなくてはいけない問題があります。

それは社会保険の負担増です。妻の年収が130万円以下の場合は、妻は、夫の扶養に入ることができ、社会保険料を負担する必要はありません。

ただ年収130万円を超えると夫の扶養から外れ、自己負担で国民健康保険料や社会保険料を負担する必要が生じます。その場合の負担増は20~30万円程度と考えられます。130万円を超えそうなときは、おおむね160万円以上収入を得ないと世帯の実質収入が減少する場合が多いのです。

世帯の実質収入という観点で見ると、103万円の壁よりも、130万円の壁。130万円を超えるなら160万円以上の収入を! と覚えておくと良いかもしれません。

ただし社会保険の「130万円の壁」は、夫が会社員などで社会保険に加入している場合の話。夫が国民健康保険に加入している場合は、社会保険の扶養に入れないので130万円は気にしなくて大丈夫です。

配偶者控除見直しの動きあり!! 103万円の壁がなくなる?

配偶者控除が2017年1月から廃止される可能性が出てきています。与党が日本経済新聞のインタビューで、2017年度税制改正で見直しを検討すると表明したのは最近の話。もし廃止が決定すれば「103万円の壁」はなくなります。

見直しの理由は専業主婦だった女性が生活の足しにとパート労働に出るようになり、専業主婦世帯とパート主婦との世帯での「不公平感」と、女性の社会進出促進という課題からです。

配偶者控除廃止の代わりに夫婦控除という所得控除の検討もされているようですが、結論が出ていない以上まだはっきりしない部分が多い状況です。

また、配偶者として年収を103万円に抑えるようがんばっていた労働者にとって、もうひとつ大きな事件が発生します。高く高くそびえ立っていた103万円の壁がなくなるのです!

どのように見直される可能性があるか

まだ不透明な部分が多い配偶者控除の見直し。その中でも有力となっているのは配偶者控除および配偶者特別控除を廃止し、基礎控除38万円を夫婦でシェアできるようにする「夫婦控除」制度を新設するという内容です。

夫婦控除は、今まで妻が専業主婦もしくは収入103万円未満のため使いきらなかった基礎控除38万円の枠を夫の所得から控除できる仕組みになるようです。

専業主婦世帯(妻が給与所得控除65万円の範囲内で働いている場合を含みます。)は、夫の所得控除の内容が配偶者控除38万円から基礎控除のシェア分38万円に変わるだけで税金に影響はなさそうです。

一方妻がの65万円以上の収入(給与所得控除額)を得て働いているような共働き世帯は増税となる見込みです。もし夫の扶養でいるために収入を抑えているのであれば、2017年からの働き方を見直してみる必要があるかもしれません。

それでは、具体例を給与所得控除・配偶者控除・基礎控除に限定して見てみましょう。

現行制度:35歳夫の収入が500万円、妻の収入が100万円の場合 ※単位:万円
No内容備考
01収入(額面)500100
02給与所得控除15465
03配偶者控除380住民税は33
04基礎控除3838住民税は33
05社会保険負担額69.220
06所得税・住民税31.390{No1‐(2~5)}*税率
07手残り399.39100No1‐5‐6

現行制度では夫婦合計の手取り収入は約499万円となります。



新制度:35歳夫の収入が500万円、妻の収入が100万円の場合 ※単位:万円
No内容備考
01収入(額面)500100
02給与所得控除15465
03基礎控除3838住民税は33
04夫婦控除3038‐(100‐65)=3
05社会保険負担額69.220
06所得税・住民税37.890{No1‐(2~5)}*税率
07手残り392.89100No1‐5‐6

新制度での夫婦合計の手取り収入は約492万円となります。

現行制度と比較して手取り収入が約7万円減少していることが分かります。夫の配偶者控除38万円が妻の基礎控除の余りを控除できる夫婦控除に代わり、控除額が3万円と減少してしまったことによる増税となります。

これが妻の年収が80万円だと夫婦合計の手取り収入は約3万円の減少となり、妻の年収が120万円だと夫婦合計の手取り収入は約4万円の減少となると考えられます。この数字から分かることは、妻の収入が配偶者控除の「103万円の壁」に近ければ近いほど、改正後の税負担が重たくなることが分かります。

なお、フリーランスの方は給与所得控除がないため、増税のゾーンは収入から経費を差し引いた所得が76万円未満で配偶者控除もしくは配偶者特別控除を受けていた世帯です。

106万円の壁が出現 社会保険の加入対象が拡大されました!

106万円の壁とは!?

配偶者控除の見直しと同じように話題を呼んでいるのが、新たな「106万円の壁」。これは法改正によって2016年10月から新たに社会保険(健康保険・厚生年金)の加入対象となる短時間労働者の年収額となります。

短時間労働者とは以下の条件を満たす方とされており、条件を満たした場合には2016年10月からは夫の扶養から外れ、ご自身で社会保険を負担することになります。

≪短時間労働者の定義≫
・週の労働時間20時間以上
・月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
・勤続年数1年以上
・勤務先の従業員501人以上

この4つの条件にあてはまる方が130万円の壁から106万円の壁へ移行することになります。例えば今まで年収120万円でまったく社会保険を負担していなかった方が、新たに社会保険料を20万円程負担するとなるとかなりの痛手となりそうです。

対象者数は約25万人と言われています。ご自身が該当しないかどうか今一度確認する必要がありそうです。

税金と社会保険 ダブルで負担が増える方は働き方の見直し必須!?

2016年10月からの社会保険の法改正、2017年1月からと見込まれている配偶者控除の見直し。このどちらにも該当するのは大手企業にパートで勤めている方が多いのではないでしょうか。現在106万円~130万円の範囲で収入を得ている方はかなりの負担増となりそうです。

では、どのぐらいの負担増なのか見てみましょう。

具体例を先程の給与所得控除・配偶者控除・基礎控除に加えて社会保険(雇用保険は除外)を加味してみます。※妻は短時間労働者に該当するものとします。

現行制度:35歳夫の収入が500万円、妻の収入が120万円の場合 ※単位:万円
No内容備考
01収入(額面)500120
02給与所得控除15465
03配偶者控除380住民税は33
04基礎控除3838住民税は33
05社会保険負担額69.220
06所得税・住民税34.293.05{No1‐(2~5)}*税率
07手残り396.49116.95No1‐5‐6

現行制度では夫婦合計の手取り収入は約513万円となります。



新制度:35歳夫の収入が500万円、妻の収入が120万円の場合 ※単位:万円
No内容備考
01収入(額面)500120
02給与所得控除15465
03基礎控除3838住民税は33
04夫婦控除00
05社会保険負担額69.2216.54
06所得税・住民税38.490.56{No1‐(2~5)}*税率
07手残り392.29102.29No1‐5‐6

新制度での夫婦合計の手取り収入は約495万円となります。現行制度と比較して手取り収入が約18万円減少していることが分かります。

妻に社会保険の負担が発生し夫の配偶者特別控除21万円がなくなるばかりでなく、新たな夫婦控除も妻が単体で基礎控除を使いきっているため適用がありません。

働き方は変わらないのに手取り収入が減少することになります。ここまで負担が増えるとは考えていない方も多いのではないでしょうか。今までの世帯の手取り収入を維持するためには、160万円以上収入を得ないと世帯の実質収入が減少する場合が多いのです。

社会保険における新たな「106万円の壁」の出現と、夫婦の税のあり方の見直し。これらの改正に合わせて収入を抑えていたら、どんどん世帯の手取り収入は下がる一方です。これを機に年収180万円や200万円を目指し、世帯収入の増加を図るのが得策と言えるかもしれません。

家族でよく話し合い、これらの改正にどう向き合うのか慎重に判断する必要がありそうです。

< 企画・編集: キド

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