“総再生回数1億6千万回”のYouTuber・ジェットダイスケに聞く、YouTubeとの上手な付き合い方
YouTuberの先駆者に聞く、“上手な”動画配信の仕方とは?
2006年からYouTubeで自作のビデオブログを投稿し、これまでの総視聴回数は1億6千万回にも上る、日本でのYouTuberの第一人者・ジェットダイスケさん。元々は大学卒業後にハードウェア関係の会社で勤務し、その後会社勤めと並行して、90年代後半から動画作成を始めるようになったとか。かねてから映像制作に携わっていたことからカメラなどのガジェットへの造詣の深さを理由に人気を呼んでいます。
実際にお会いしても、動画のようにハツラツと気さくにお話してくださった、ジェットダイスケさんのインタビューの模様をご紹介いたします。
「個人で動画をネットに配信できる」それ自体が画期的だった
― 最初はどんな投稿をYouTubeに上げていたんですか?
ブロガー仲間で『ONEDARI BOYS(おねだりボーイズ)』というのを始めて、ウェブ広告の賞をいただいたんですよ。どういうものかというと、今のウェブマーケティングの走りみたいなもので、「ブロガーに対して商品提供をしてもらう。そしてそれについて書く」ということをやり始めてて。そうなるとブログと同じ内容を動画にもってきた方がいいなと思ったんですね。動画でもそれが当然適用できそうだから。
動画は、ブログの内容の補足でしたね。例えば写真じゃダメなところ、動きがわかるようなものを、動画は補うことができる。次第に、写真と動画の読者(視聴者)が被ってこなくなってきたので、YouTubeはYouTubeで別にしようと思ってきました。
― YouTubeは今でこそ誰もが知っているサービスですが、2006年というとまだ黎明期にありましたよね。当時、YouTubeにどんなメリットを感じられたのでしょうか。
「コストがかからない」というのがYouTubeの一番のメリットだと思いました。それまでは動画をネットに上げるのなら、どこかのサーバーになんらかの方法で保管しないといけなくて、そうするとコストがかかる。でもYouTubeはそれを一足飛びにして、サービス側がストレージと通信費を持ってくれる。これは画期的だなぁと感じましたね。
ビデオブログをアップし始めた頃は、大人と子供とでは全然違う反応が返ってきたのが印象的でしたね。「これからの潮流だ!」と盛り上がっている大人もいれば、一方で子供は「こうなりたいです」という反応をくれる。そういう子供たちの反応を見ると、ちゃんと見てくれてるんだな、と感じられて嬉しかったです。
情報発信は「専門性より一貫性」が重要
― ジェットさんといえばガジェット紹介の印象が強いですが、専門性を極めることがビデオブログをやる上で重要だと思いますか?
ガジェット系を選んだのは、元々好きだったのと、当初やっていたブログの内容と合致していたという点からですね。逆に、今ビデオブログを始めるのであれば、多分ガジェット系には行かないかもしれないですし。
自分の周りの若い子たちは、専門性は多分ないですけど、みんな一貫性はありますよね。専門性って、しりすぼみになっていくものじゃないですか。どんどんマニアックな方向になっていって、突っ込んだ内容じゃないと「マニア受けしない内容」になっていくし、でも入り口の情報もやらないと多くの視聴者には支持されないし。
― ブログ記事であれば「文章」が主体だし、写真は「被写体」が主体ですけど、ビデオブログって、話者である自分の外見が全面に出ますよね。そこがビデオブログならではの特徴かなと思ったのですが、「自分が全面に出る」ことは抵抗なかったですか?
抵抗はありましたよ。あるというか「抵抗して」きましたからね(笑)。つい最近までサングラスをずっとかけてたし、大体「ジェットダイスケ」って名乗っているのも、ネットであまり本名出したくなかったから、というのが理由でしたし。
― ビデオブログって「自分をこう見せよう」とかキャラ設定が重要なのかと思うのですが、その辺って計算されていたんですか? それともノープランでしたか?
他の人はどうかわかんないですけど、僕が始めた時は他に誰もいなかったので、個人とか個性とかが重要になってくる前の時代でしたからね。「顔出してるおっさんがいる」っていうだけでユニークと思ってもらえる(笑)。
基本、顔ってユニークなものじゃないですか。それが出てるだけでユニークだと思いますよね。
続ける秘訣は「頑張らない」こと
― もうビデオブログを10年くらい続けていらっしゃるわけじゃないですか。毎日毎週それを続けるのもパワーがいると思うし、時々しんどくなるんじゃないかと思うんですが、更新を続けていくモチベーションって何なんですか?
最初は好きで始めたことなので。好きなことじゃないとできないんです、僕は。こんなこと「やれ」と言われても好きじゃなかったらできない(笑)。
よく「ちゃんといい機材持ってるのに、なんで照明立てていいカメラで撮らないんだ」と聞かれるんですけど、それをやってると多分続かない。その辺の適当なカメラを使って、適当な部屋で、朝起きて寝癖のついたまま撮る、みたいな。そしてそれを許してくれる視聴者のみなさんがいるからそれが成り立っている感じですね。
― 続ける秘訣は「頑張らない」こと?(笑)
元はサラリーマン時代からやっていたことなので、仕事終わったあとや週末にやっていたことなので。まぁ会社サボってやっていたこともありましたけど(笑)。
なんていうんですか。課外活動ですよ、最初の発端は。そこから来ているから、その労力でやれることしかやってなかったんですよね。今は相当時間もかけてやっていますけど、気分的には当時の感覚が抜けていなくて。
だからモチベーション高めるとかいうより大事なのは、いかにして労力をかけないかということが重要かと思います(笑)。
― (笑)。完璧主義だと「こんなのアップできない!!」ってなりそうですしね。
絶対そうなると思いますよ。「一流のお店で手の込んだ料理をお出しする」感覚ではなくて「冷蔵庫の余り物で済ます」っていう感じの方がYouTubeでは続けていけるのではないかと思います。
YouTubeは「芸術宝庫」ではない
― 「YouTuber」と呼ばれる方って今やたくさんいて、特徴も様々だと思うのですが、共通して「自分を表現する」というテイストが強いのかと感じています。他の方から影響を受けることはありますか?
特にないですね。僕はYouTubeに何もない頃から続けてきた人間なので、「自己表現」が目指すところではないですね。
― というと、どういうところを目指していらっしゃるんですか?
将来的には写真家をやりたいな、と思っていて写真も撮っています。元々動画始めたのは、10代から20代のころ。映画監督になりたくて動画を撮り始めたのですが、そこからCGをやったり色々やってきています。ですが最終的には、やっぱり劇場映画を撮ってみたいですよね。そう思っているので、今撮っているYouTubeは全然違う線ですよ(笑)。
― 写真や劇場映画とは意外ですね。これまでもそういった創作意欲が強かったのですか?
そうですね。でも、そういった創作性のある作品をYouTubeに投稿しても、それはYouTubeのコミュニティの中では「違うもの」になってしまうので、ウケないですよね。そしてどんどんそのコミュニティ色が濃くなっている感じがします。そういう世界で「自己表現をする」というのはなんか違うな、と感じていますね。
それを良しとするネタだったらいいと思いますけど、でもYouTube自体は芸術宝庫ではないですよね。YouTubeの役割としてはやっぱり「コミュニティ」なのかな、と思います。
― YouTubeを仕事に選ばれたのは、やはり「好きだったから」ですか?
YouTubeですか? YouTubeは仕事だと思ってないです(笑)。基本「好きなことをやってるおっさん」だという認識でしかないんですよ。元々仕事嫌いですから(笑)。働きたくないですし!(笑)
― (笑)。これからのワークスタイルって、理想としてはどのようにしていきたいですか?
いやーもう、できるだけ働かない方向で(笑)。
別に「お金持ちになりたい」とかは全然思っていなくて、生きていけるってことが大切ですよね。心配なく生きていけるくらいのお金があれば僕はいいです。とはいえ、それが段々日本では難しくなってきているんですけど(笑)。
― 今の活動はこれからも続けていく?
ある日突然辞めたりするかもしれませんよ。すごいテキトーなんです(笑)。
「写真家になりたい」とか言ってる間は目標に向かって挑戦していくんでしょうけど、やりたいことがなくなった時は怖いですよね。でも、動画を撮ることにしろ、ブログを書くことにしろ、自分で世の中に情報を発信できることはうれしいことですし、これからも自分の好きなことを続けていきたいですね。
(おわり)