華やかさの陰に努力あり。ジェットダイスケ氏&小野 慎二郎氏に聞く「フリーランスの仕事術」とは?
華やかに見えるSNSでの情報発信も、裏には戦略や調整が隠れている
YouTuberとInstagrammer。両者とも、自身でコンテンツを制作し世の中に披露しフォロワーを獲得していくという点では、「一億総表現者時代」の象徴的存在と言えるのではないでしょうか。ですが、情報の海と言われるインターネットの世界で、自身の存在をより多くの人に気づいてもらうことは簡単なことではないはず。
パネルディスカッションを通して、より多くの人に自分の仕事ぶりを見てもらうためには、フィールドの選び方や自分のたたかい方の確立、時間の使い方など、いくつかの気をつけるべきポイントが見えてきました。
【テーマ】 「Lancer of the Year 2016」~フリーランスの仕事術~ |
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【パネラー】 YouTuber / アルファブロガー:ジェットダイスケ 氏 Instagrammer / 柴犬まるの飼い主:小野 慎二郎 氏 【モデレーター】 |
自分のフィールドとして、なぜそのサービスを選んだのか
秋好:今回のセッションは「フリーランスの仕事術」をテーマに忌憚(きたん)のない話をしていければなと思っています。まずは自己紹介をお願いします。
ジェット:ジェットダイスケと申します。普段はYouTubeを使ってiPhoneのケースであるとか、デジタルガジェットみたいなものの紹介の動画をやったりしています。
小野:小野 慎二郎と申します。私は、飼い犬のまるという柴犬のかわいさを世界中の人に知ってもらおうとInstagramに写真を投稿しているのですけども、基本的にはマーケティングコンサルティングの会社を経営しております。
「マーケッターとして自分にいったい何ができるんだ」というスキルの証明として、Instagramを使って自分の犬をどれだけ有名にできるか、ということを実践しようと考え、こういった活動をしています。
秋好:今でこそ、YouTuberとかInstagramって、もう誰もが知っているサービスになりました。ですが、Instagramって、最初僕は「数多くあるサービスの中のひとつだ」と思っていたんです。そこで伺いたいのですが、なぜそもそもInstagramで活動していこうと思ったんですか?
小野:これはもう、マーケッターの職業病と言ってもいいかもしれないですけど、新サービスが登場した際は、必ず市場規模や経済規模を必ず見るんです。ブログをやっても、見てくれるのは、1日10人とか20人。コメントされているのは、全部日本人の方。
ところが、Instagramに投稿した瞬間に、ものすごい数の海外の方からの反響があったんです。ハングルから、アラビア語、英語、タイ語、もういろんな言語が飛び込んできた。それで自分が本当に、世界で活躍できるんじゃないか、という快感に近い可能性を感じたわけです。
秋好:なるほど。一方で、YouTubeってサービス自体は、10年ぐらい前からあると思うんですけれども、ジェットさんはどういうきっかけで、今のお仕事に近いかたちを始められたのですか?
ジェット:僕は元々動画を作っていたのですが、当時はインターネットに動画を上げることはやっていなかったですね。その頃のネット環境は64キロバイトほどのダイアルアップ通信だったんですけども、時代の流れで急に1メガ、2メガとかの速度の回線が出るようになって。
そうなると通信会社さんもみんな考えることは一緒で、「動画を配信してくれ」っていうんですよ(笑)。環境が進歩していくうちに、動画の配信が個人のレベルでできるようになってきた。それによって、自分の本当にやりたかったこと、自分の動画を見せるということが、無料でできるようになり、「これはやらない手はないな」と思うようになり、動画配信を始めました。
増え続けるライバルと自分の「差別化」について
秋好:Instagrammer、YouTuberとして、非常に有名なお二人ですけども、その分ライバルが多いんじゃないかなと思ってしまいます。ライバルとの差別化をどのように考えてらっしゃるか、お聞かせいただいてもよろしいですか。
小野:僕の場合は、犬の動画や写真を上げているので、ライバルがほかの犬というふうになるのかもしれませんし、飼い主さんとかになるのかもしれません。ですが、差別化という点に関しては「常に安定を求めないこと」だと思います。失敗を恐れてやるのではなく、明日はもっと新しいことをしよう、と考えること。
結局、評価を決めるのは他人なので、人前に出してみて「いいね!」が多かった、悪かった、という判断をすること。こういった判断を常に見て、自分のよかった、悪かった点を直していって、常に進化していく。そういった姿勢を見せていくことが、フォローしていただいている方に対して、飽きられずに見ていただける秘訣かなと思っています。
ジェット:誰かが始めるよりも早く新たなことに挑戦して差別化をはかれることもある思いますが、僕は無理に新しいものや流行に手を伸ばすことはしていないですね。長く続けていると、やっぱりサービス側が変わったりとか、見ている人が変わってきたりとか、変化がありますよね。
ですが、僕の好きな話があって、荻窪に「春木屋」さんというラーメン屋さんがあるんですけど、そこは、ずっと変わらない味を提供しているんです。つまり、「ずっと味を微調整してきている」ことなんですよ。
自分も同じだと思っています。僕はずっとスタイルは変わってないんですけど、ちょっとずつチューニングしている部分は、気づかずにあるんですよね。チューニングをする上で軸を持つことができていれば、自分の長所を損なわずにいられると考えています。
なぜ、他のSNSへ活動の幅を広げることはしないのか
秋好:起業家として思うのが、Instagramで写真を上げているなら、動画にしてYouTuberになってしまえばいいんじゃないかなという点でした。また、逆に写真を上げて、Instagrammerになって、お互いの領域にチャレンジしてもいいのかなと思うのですが、お二人はどのようにお考えですか?
小野:いや、実は、同じ動画だから人気出るんじゃないかなといって、YouTubeに投稿したこともあるんです。でも結果大惨敗でして。やっぱり鍵はノウハウなんですよ。
Instagramでは、どの日に、何時に、どんな感じの写真を上げれば「いいね!」がつくかっていうのは、僕の感覚で、わかっているわけです。なので、「このときのキャプションはこうだ」っていう感覚を持っているんですけども、YouTubeに関しては私にノウハウがなくて、やっぱり、なかなか難しかったというところがありますね。
僕は、基本的には、得意なところで徹底的に戦うことが一番の近道だと思っているので、あんまり、自分のマンパワーを超えた戦いをして、元のフィールドの作品のクオリティを落とすことのないようにしたいなと思っています。
また、例えば新聞にお金を払って取っている家庭って多いと思うのですが、新聞にお金を払う価値を僕はいつも考えるんです。何のためなのかなって。これは僕としては、毎朝決まった時間に、あの新聞がポストに投げ込まれること。これに価値があるんだと思っています。
視聴者の「24時間」をいかに自分に費やしてもらうか、という思考が大事
小野:同じことはSNSの情報発信にも言えることだと思っています。つまり、僕らはそういったサービスを買っているんですね。なので、いつも、柴犬まるのポストするときは、基本的には、8時間ごとに投稿しています。日本時間のマーケット開ける時間と、ヨーロッパのマーケット開ける時間、アメリカのマーケット開ける時間という、三つに分けてポストしているんですね。
そこで、みんなはその時間にくれば、まるを見られる。YouTuberでもInstagramでも、SNSで発信することはタイムラインの奪い合いなんですね。ジェットさんと僕も、そういう意味じゃライバルなんですよ。時間の取り合いなんです。みんな、均等に24時間しかないので、いかに、その時間を僕にもらえるかどうか、という話だと考えています。
ということは、新聞と同じように、ポストに取りに来てもらえればいいんです。この時間に来れば、新聞は入っているよと認知してもらう。僕の場合は、「その時間に来ればまるの写真見られるよ」と認識してもらうことで、必然的にみんなに見てもらえるような工夫もしています。
フリーランスにとって重要なのは「外とのつながり」と「名刺代わりの仕事」を持つこと
秋好:最後に、今回は「フリーランスの仕事術」をテーマにお話を伺ってまいりましたが、フリーランスとして注目を浴びるお二方から、最後に改めてひと言いただければなと思います。
小野:私も、ちっちゃい会社であるものの個人事業主をやっているので、全く皆さんと同じような立場なんですけど、どうしても、引きこもって自分で悩んでしまう傾向にあるんですよね。でも大事なことは、SNSでも何でもいいので、とにかく外の世界つながること。これによって、自分の価値というのが、現在正味価値で、どこにあるのかなっていうの確かめられるんですね。
うちにこもっていると閉鎖的な環境になりがちで、情報がないがために「本来10万円の仕事が、実は5万円で受けていた」など損をしてしまう可能性もあるので、とにかく情報を集めることが重要だと思います。
それで、周りの人たちのスキルと自分はどう違うのかって比べる。周りの人とのスキルが合わさったことによって、「1+1」が3になることだってあるんです。そういった可能性もあるので、とにかく視野を外の世界に向けた方がいいと思います。
自分の仕事の時間も大切なんですけども、それと同じぐらい、ほかの人たちとつながって、新しい情報をチェックする。それにどれだけ時間を使えたかといったところが、恐らく1年後、2年後の力になってくるのかなと、私は思っています。
秋好:わかりました。ありがとうございます。ジェットさんもひと言お願いします。
ジェット:僕が10代のころ、BOOWYというバンドが好きだったのですが、そのボーカルの氷室京介さんがよく「シングルは名刺代わり」っておっしゃっていたんですよ。僕は、これはフリーランスにも当てはまるなと思うんです。「仕事の代表作はこれ」って言えば通じるものを持つ。
例えば、僕なんかはCGを作っていたときに、とあるキー局のゴールデンタイムの番組のオープニングを作成したんですよ。それで、「これを作りました」と言ったら、相手に自分の仕事ぶりが通じる。
その名刺代わりの仕事を、年に1本でもやれれば全然変わってくるなと思います。まずはそういったところを意識してやるといいのではないでしょうか。例えば、雑誌の連載してても「この雑誌で、このページ書いてます」と言うだけで、相手への伝わり方が違ってきますし、やっぱり強いなと思います。
秋好:Instagramは、外から見るとすごく華やかな世界のようで、2、3年市場を見たり、アメリカとアジアとヨーロッパタイムで投稿し分けるとか、かなり緻密に考えられてやっているんだな、という点に関心しました。
あと、ジェットさんが仰っていた「やっていたのはずっと一緒で、世の中と調整していただけなんだ」という話や、最後小野さんが仰った「ネットの世界にだけにいるのではなくて、世の中とつながることが大事だ」という話も、私自身もすごく勉強になるセッションでした。本日はありがとうございました。
(おわり)