ニートを脱し乃木坂46のPVを撮影した、フリーランス森翔太の苦悩。
YouTuber・映像クリエイターの可能性を探る
フリーの映像クリエイター、森翔太さん。今年の秋に、乃木坂46『今、話したい誰かがいる』特典映像として収録される”個人PV”で、斉藤優里さんの『愛の二等辺三角形』を監督しました。
彼が注目を浴びたのは、個人制作していた『仕込みiPhone』が大ヒットしたから。腕に自作の機械を取り付け、ワンアクションでiPhoneが飛び出し「もしもし?」とできる装置……と説明しても意味不明なので、実際の映像をみてください。
個人的に作成したYouTubeムービーが、ひょんなことからメディアに取り上げられ、海外でも噂になったのです。これがきっかけとなり、フリーランスの映像クリエイターとしてスターダムにのし上がった森翔太さん。
フリーランスになったきっかけ、映像クリエイターの未来を伺おうとインタビューしたところ……
商社マンは車を大破させ、ニート生活を送っていた
――フリーランスになったきっかけを教えてください。もともとはサラリーマンだったとか。
静岡の大学を卒業して、そのまま県内の商社に就職したんです。ちょっとしたトラブルで、社用車を盛大に大破させまして。辛くて辞めました。商社マンになるも、一年と続かなかったという。
会社を辞めてすぐ、あてもないまま東京に出ました。下北沢で、家賃が2万円という激安の住処をみつけて。ずっと仕事をしなくても、ニートとフリーターを行ったり来たりで生活できたんです。日雇いを少しやったら、もう働かない。それでも足りない分は、ゴミですね。ゴミを拾って売る。
目が覚めたら、いつもの不燃物置き場に行くんです。土地ごとに傾向があって、DVDやCDが捨ててある『行きつけ』がありまして。それを集めて売りに行くんですね。
そして僕は見つけたんですよ。ブックオフはダメで、ひとつ100円にしかならない。ところが中野ブロードウェイだと、良い値段がつくんです。すごい発見をしたぞと、それ以来、自転車で下北から中野まで通勤していました。
――ニートとフリーターとゴミ収集で生活してたということですが、どうやったら今の仕事につながるんですかね。
東京でたまたま、大学の先輩だった女性に会うんですね。「なにやってるの?」って聞かれて、「ニートです」って答えるしかないじゃないですか。すると、彼女は劇団の事務所で働いていて、忙しいから手伝わないかと声をかけてもらえました。
ほとんど引きこもりみたいな状態でしたけど、仕事はしたくないし、演劇にも興味はなかったんです。でも……すごく綺麗な人だなと思って。女性と接点を持てなかったので、下心満点でお手伝いさせていただくことになりました。
生きる理由が見つかって、そこでモギリとかをしながら、たまにお食事とか誘っていただいて。なんて幸せなんだと。加えて、そのころには演劇が面白くなっていたんですね。本当に良かったなと思いますよ。ご結婚なさったんですが、 心から祝福したいですね。男って凹みますよね、付き合ってた女性が結婚したとか。
――付き合ってはいないですよね? でも劇団が面白くなってて助かった、と。
一度会話した女性とは、もう付き合ってるようなものです。
手伝っていた演劇は、最先端の活動をしていました。演劇にダサいイメージを持っていたんですが、「あれ? 面白いぞ?」と。傷心気味だった僕の心に、演劇が救いの手を差し伸べてくれました。そして「森くんも役者してみたら?」と周囲からの甘い声もあって、役者として挑戦してみることにしたんです。ところが、調子に乗ってオーディションを受けるんですが、まぁ受からない。
連戦連敗。さすがに諦めようと思いましたが、運が良くて。『悪魔のしるし』という、最近では海外公演も多くやっている団体があるんですが、人員不足を理由に潜り込めてしまったんです。やたらと相性が良くて、面白いことをたくさんやらせてもらいました。
主宰の人ほど面白い人に、人生であったことがなかった。そこでまた、調子に乗ってしまったんですね。「役者として脂が乗ってきたぞ」とか勘違いして、宮沢章夫さんや本谷有希子さんという、超大御所の門を叩きました。「絶対に受かるな」と行きましたけど、落ちるんですね。せっかく脂が乗ってきたのに、役者として必要とされていないんだって、自信を喪失しちゃいました。
遊びでつくったYouTube映像が、海外から逆輸入される
――役者としての夢は諦めて、ついに映像ですか?
そうです。演劇をやめようと思って、じゃあどうしようかなって悩みました。そんな折に、知り合いから「面白い映像を撮ったら送ってよ」なんて言われていて。思いついたのが仕込みiPhoneだったんです。すでに製作はしていて、仲間内で披露して「あー、面白いね」って反応をもらっていて。これを撮影して、YouTubeで流してみようと思ったのがきっかけです。
最初は、1日40人くらいのViewしかありませんでした。ところがですね、あるWebメディアに取り上げられたことで、3万Viewとかに跳ね上がったんです。もうショック受けちゃって。演劇だと、1公演50人を3~4回やって、200人来たら成功したねってレベルです。それが、見ず知らずの何万人に見てもらえるんですから。しかもコメントまでもらえる。
「こわい」とか「気持ち悪い」が最初は多かったんですね。「こういう奴がいるから日本がダメになる」とか言われて落ち込んだり。でもなかには「面白い」「どんどんやってください」なんてコメントもいただけて。
――いわゆるYouTuberのはしりになるんですか?
仕込みiPhoneは2012年が最初なんですが、ヒカキンとか出始めたころでした。2013年には呼び名が定着してましたね。僕もイベントに行くと「YouTuberの森さんです」って紹介されて、『YouTuberだったの?』って思うくらい。広告つけないんでYouTuberじゃないんですけどね。
このあたりからですね、映像に興味を持ったというか。仕込みiPhoneの動画って、2013年の年明けてすぐに、海外で一度話題になって、日本に戻ってきた感じなんですね。それを見てか分かりませんが、以前から知り合いだった伊藤ガビンさんというプロデューサーが、ミュージックビデオをつくるから一緒にやらないかと声をかけてくださいました。
口ロロ(クチロロ)というミュージシャンのMVでした。当時のガビンさんは、やったことない人にやらせてみるっていうスタイルが多かったようです。結果として、それをたくさんの人にみていただけて。それ以降は、なんだかんだで映像の仕事をさせていただけるようになりました。月1本とか定期的にあって、バイトもゴミ拾いもやらない生活に。
フリーランスは本当に自由を手に入れたのか
――今では数々のWebCMをつくったりと、売れっ子になってきた印象です。順風満帆な人生になっちゃった感じですか?
ところがですね、そうでもないんですよ。普段は企業の仕事、WebCMとかやらせてもらってます。それがけっこう、自分の中で「大丈夫かな?」という気持ちがあって。いわゆる広告じゃないですか。収入的には大変ありがたいんですが、「僕、大丈夫かな? 僕で良いのかな?」って不安があります。
――仕事があって、ゴミ拾いしてないのに、何が不安なんですか?
お金をいただいてるんで当たり前なんですけど、なにかしらの制約はあります。で、さまざまな利害関係者がいて、一緒につくっていく作業なんですが、以前はそれがやりたかったんです。でも、なんか迷いが出てきて。
直近だと広告じゃない仕事で、たとえば 乃木坂のCDについてくる特典映像つくったんですけど。あれ、すごい面白かったんですよね。自由にやっていいと言われて、面白くて仕方なかった。内容はむちゃくちゃなんですよ、人が死ぬし、地球は爆発するし。
もちろん、面白い広告のお仕事もたくさんいただいてますよ。同業者からいつも言われてるんですが、「森さんはいつも好き勝手やれて羨ましい」って。ただ結果として、興味がなくなってしまった仕事に対して、今後どうすればいいのかっていうことでしょうか。
――やりたいことをやりたい。表現したいから、表現できる仕事をしてる。でも、仕事は制約がある。かといって、フリーランスなので断ったら収入や次の仕事が不安……みたいな感じですか?
まあ正直、言い訳してる部分もありますよ(笑)! 制約あって面白いことをやってる人はたくさんいますからね。ようは性格の問題で。ぼくは器用じゃないってことです。仕事の依頼がきたら、内容を聞かないうちから「やりますっ!」と答えちゃう。やっぱり、断ったら次がないんじゃないかと考えちゃいますし。
最近ですね、トム・ハンクスのキャストアウェイって映画を観たんですよ。無人島に独りで取り残されて、「たすけてー」って言ってるだけの映画です。それ、すごく辛くて。会話する相手がいないから、転がってたバレーボールを友人に見立てて、ひたすら話しかけるんです。
「あ。これ、似たようなことやってた」って思いだして。ニートだった頃、話し相手はいないしやることもないしで、本当に辛かったんです。あの頃には戻りたくないって思いました。
仕事を断ると、あの頃に戻っちゃうわけじゃないですか!?
――いや……。そうとは限らないと思いますけど。
あともうひとつ、仕事をあまり断らない理由は、受けてみないとわからないから。その仕事が面白いか面白くないかって、ほんと映像の納品日くらいまでわからないんですよ。いきなり途中から面白くなってくるときもあるし、最後になるにつれて面白くなくなってくることもある。だから仕事依頼がくると、「やってみたいなぁ。面白そうだなぁ」っていう興味が絶対出ちゃうんですよ。AV監督をしてくれって言われたら、ちょっと悩みますが。
――数年前から、次は動画がくるぞって言われていて。そう考えると、仕事がなくなる心配はいらないかと思うんです。
Vineとか見てても、素人が6秒ですごい映像つくってますよね。動画コンテンツが増えて、ある程度のセオリーみたいなのもできあがって。上手につくれる人が増えたと思うんです。だから、今後どうなるか怖い。上手い人はたくさんいるわけですから。
――じゃあ、フリーランスを辞めますか?
無理ですよね。会社員、一年と続かなかったんですよ。それに、いつ起きても良いってのはすごく魅力的。出社が自由で、何もしないでお金をくれるなら社員になりますけど。無理ですね。
ただずっとフリーランスでいるのかっていうと、揺れている部分はあります。一人でやるのに限界があって。忙しいのに、窓の外の景色とか見ちゃうんです。人が歩いてるなーとか。
一緒に働く人がいたら、頑張れるんですよ。大手の会社と共同でやったときなんか、徹夜もできちゃう。けっこう盛り上がって、良い作品が生まれたりもして。たまにくるんですよ、モチベーションのまったくない時期が。一人でやっていると、一番の敵はモチベーションですね。
好き勝手な映像をつくらないとダメになりそう。会社勤めは自信がない。けど寂しい。特に秋から冬にかけてって、すごく寂しいじゃないですか? だけど会社員は実際、できなかった。どうしろって言うんですか?
――知りませんよ。そもそもなんで就職したんですか。向いてないの分かってましたよね。
なんで就職したんだ……。 ハッ! 大学の人が無理やりさせたんです! 就職率が欲しいから。辞めちゃダメだって電話がきて。「分かりました、頑張ります!」って言って、すぐ辞めましたけど。
ただ、今の映像の仕事に対しては、好きっていう気持ちが根底にあるんですよ。昔から映画とか、普通に好きでしたし。だから続けられている。広告の仕事も、好き勝手やらせてもらえる場合もあるし。
フリーランスという働き方、いつまでやれるかわかんないですけど、逆に言うとフリーランスにしかできないこともあると思います。会社に所属したら、好き勝手はやり難くなるでしょうし。そう考えると、フリーランスで楽しめるだけは楽しもうかなって思ってしまうんですね。
――フリーランスとして働きながら悩んでいる人、もしくはこれからフリーランスへの転身を考えている人たちに、なんというか非常に勇気を与えられるお話ですね。ありがとうございました。
< おわり >