有識者と一緒に考える地方創生1|地域と地域社会が抱える課題に解決策はあるのか。

【テーマ】
「産官学が連携することによって、地域に雇用と新しい働き方を創出していけるのか」
【パネラー】
テレワーク協会 専務理事 井沢晃一さん
東北芸術工科大学 デザイン工学部 教授 松村茂さん
NPO法人キッズバレイ 赤石麻美さん
【モデレーター】
株式会社インテリジェンスビジネスソリューションズ
ワークスタイル革命担当 家田佳代子さん
人口減少など、地域社会が抱える課題はあまりに根が深かった。
家田:地方創生という、かなり旬なテーマで、新しい働き方についてお話させていただきたいと思っております。
今回は地域の視点から、産官学それぞれの立場の有識者を交えたパネルディスカッションです。仕事や働き方の観点から地域の課題と解決策を議論するという、壮大なテーマでお話をお伺いしたいと思っております。
まずはじめに、第一部のほうで少しふれていただきましたが、地方創生の背景を改めてお伝えします。
昨年末にまち・ひと・しごと創生「長期ビジョン」というものと、「総合戦略」というものが閣議決定されました。地方の人口減少に歯止めをかけましょうというところと、2060年に1億人程度の人口を確保しましょうということで、いろいろな政策が国のほうで始まってきております。
地方についても、「地方人口ビジョン」というものと「地方版総合戦略」というものがございまして、平成27年度中に、「地方人口ビジョン」「地方版総合戦略」の策定に努めるようにと、都道府県と市町村に対して国が発表したところでございます。
これを受けて、かなり壮大な話になりますが、「産官学が連携することによって、地域に雇用と新しい働き方を創出していけるのか」というテーマでディスカッションしていきたいと思います。
まず最初の質問なんですが、日本の地域や地域社会が抱えている課題とは何なのか。まちづくりの視点から見た際の地域の課題として、地域のIT活用や起業支援の現状について、松村先生にお話いただきたいと思います。
松村:大変難しいと言うか、大きなテーマで、どういうお話をすれば良いか戸惑いますけども。地方にとって一番の課題は、人口が減少しているということだと思います。
各市町村の皆様がですね、どうやれば人口が、少なくとも維持できるのかということについて腐心されているという状況ですよね。
人口減少を食い止めるために、例えば、I、J、Uターンみたいなことを推進して、東京や大都市圏から人が戻ってくる、あるいは移住してくれることを期待して取り組んでいらっしゃいます。そもそもそこには、地方の経済がなかなかうまく回っていないという問題があるのかと思います。
例えば地方の場合、一般的に第一次産業ということで、農業とか漁業とかを手がけています。そしてもうひとつ第二次産業として、食品加工などさまざまな加工産業があるわけです。そうしたものがですね、ITと上手くつながっていないということが二つ目の課題なのかなと思います。
というのも、人材という面であれば、I、J、Uターンやリゾートテレワークという仕組みで東京や大都市圏と行き来する。あるいはインターネットを使って行き来する。そうしたことと、地元の一次、二次の産業が上手くエコシステムを作れないと。要するに、経済を回すような仕掛けがなかなか作れないという状況が、二つ目に大きくあるんじゃないかなと思います。
地場の産業が、一次・二次・観光業なども含めれば三次産業もそうですけれども、それらをどうIT化していくのかと。そこで初めてテレワーカーやノマドワーカー、クラウドソーシングに携わっている皆さんとつながるエコシステムができていく。そんなふうなイメージがありまして。そういうところの仕掛けはですね、まだまだできていないというところが一つ、大きな課題なんだろうと思います。
家田:ありがとうございます。では、赤石様。実際、地域が抱える現状の課題というのはどういったものがあるのか、お話いただいてもよろしいでしょうか。
赤石:私が活動しているのは、群馬県桐生市というところです。都内から特急に乗って1時間40分ぐらいで着く、比較的東京との行き来もしやすいところにある場所になります。
街の産業としては、古く1300年前から続く繊維の街、織物の街として、一時期は本当に、街のみんなが裕福でした。最近では富岡製糸場が世界遺産に登録をされたりしていますが、その時代は本当に日本の近代産業を支える一つの都市、街でした。
繊維産業という仕事があるから、色んな所から働く人が集まってきて。桐生市の商店街のメインストリートは本町通りと言いまして、東京の銀座をぶらぶら歩く「銀ぶら」って言葉があると思うんですけれども、桐生市でも「本ぶら」って言って町の中を歩くことが一つのステイタスだったくらい、先人たちが頑張って栄えさせた街です。
ただやはり、繊維産業の衰退と同時に、街の衰退が想像以上に速いスピードで進んでいるんじゃないかなというふうに思います。もちろん私自身、一番栄えていた時期は知らないんですけれども、振り返ってみると実感する部分もあるんですね。私が高校に通っていた頃、この10年ぐらいの差なんですけども、自分が思っている以上に速いスピードで、お店がなくなっていったりとか、人通りが減っているのを肌身で感じています。
大震災のあとに、私が社会人2年目のときのことなんですが。会社が大きな人員削減をすることになったので、退職という決断をして地元に帰ったんですね。そのときに見た町というのが、すごく自分自身びっくりしたと言うか。高校を出て大学の4年間と働いていた2年間、7年しか経っていなかったんですけども、高校生のときに見ていた町とはすっかり変わっていた。
自分はそんなに年を重ねたつもりもなくて時間もたっているつもりもないけれども、町というのは思っている以上のスピードで、衰退したりとか、元気がなくなるんだなと。一生懸命手を打っている人たちはいるんだけれども、それより速いスピードで時代が変わってきちゃっているというのを感じました。
家田:そうですよね、都内から1時間40分ぐらいですと、通える圏内であったりすると思うんですが、通うよりも地元に戻ることを選択する人って、NPO法人には増えてきているんでしょうか。
赤石:私は昨年の4月から東京での仕事を、テレワークと言うかパソコン1台でできる仕事は、地元でやらせていただいているんですね。私が戻り始めた頃から、地元に戻りたいとか、自分たちで仕事を作っていきたいと考える人たちがすごく増えているなという印象は受けます。
それから桐生市の土地柄なのか、みんなすごく地元愛が強くてですね、戻れるものなら戻りたいと。ただ、仕事をどうしようという問題はあるようです。東京に出て働いている子たちからすると、じゃあ戻ってどうしようか、どうやって生活しようか、どうやってそのコミュニティに参加していこうかというのが、ハードルになっているのだと思います。
家田:ありがとうございます。私どもの会社でも人材サービス、総合サービスをやっておりますので、やはり仕事がなくて帰れないという声もいろいろ聞いたりはしております。ここがなくならない限りは、なかなか地方に移住したりとか、一時的にも帰るというところが進まないのかなというふうには思っております。
テレワーク・クラウドソーシングは、地域社会の救世主と成り得るか。
家田:続いての話題に移りたいと思います。昔からテレワークってあったと思うんですが、私が一番最初にテレワークを導入したのが12年ぐらい前で、なぜ今テレワークが広がってきているのかというところと。そして地域社会から見た際のテレワーク。フリーランスではなくてテレワークの意義というものを聞いていきたいと思います。
まずは、井沢様。テレワークによる新たなワークスタイルの実現ということで、テレワーク協会様に会員登録される企業さんですとか、NPO法人さんがたくさんいらっしゃると思うんですが、それぞれにとってのメリットはどうお考えでしょうか。
井沢:まず、テレワークが何で広がってきているのかという話なんですけども。まず、技術の進歩が最初にあると思うんですね。例えば、通信速度が速くなっているとか、通信機器が大きなデスクトップパソコンから、スマートフォンやタブレットもでてきてですね、持ち運びできるようになってきた。外で働く環境がどんどん整ってきたなというところがあるし、さらにそれに伴って、値段もどんどん安くなってですね、使いやすくなったりとかいうことがあると思います。
それからさらにですね、そういうことの総合的な応用として、このクラウドソーシングなどの仕組みができるようになったりとか、それも非常に大きいことだと思いますし。これから出てくる、もう出てきているんですが、これからどんどん使えるようになってくるウェアラブル端末、こういうものの利用によって、どんどん可能性が広がってくるなということが言えると思います。
例えば、通信が速くなって、通信機器が進歩して、価格が低下しましたということで、何に最初に効いたかというと企業の営業マンですよね。企業の営業マンが今までいちいちお客さんのところに行って会社に帰ってくるよりも、ずっと外にいるほうが効率がよくなりますし、家に早く帰れるということも含めて、生産性の向上にもろにつながったと。
そういう人たちについては、ワークスタイル変革、要するに会社で働く時間が減って、外にずっといるみたいな感じのね、ワークスタイル変革ができるようになって生産性の向上につながったということ。
それからもうひとつ増えてきているのは、自分のしあわせのために、まずどうやったら自分はしあわせなんだと、ハッピーなんだということを考える方がだんだん増えてきてるだろうと感じます。昔だったら、会社を辞めてどうするんだ、みたいな感じで非常に責められたかもしれません。しかし今はもう別に、「どうとでもないわよ、そんなの」という考え方がどんどんできているようになったという感じのことかなと思って。
次の段階については、地方の最大の問題、日本の最大の問題になりますが、労働人口の減少というものです。どうやって対応するのが良いかというと、まずは現役社員の生産性向上ですね。営業マンは何とかやってきましたと。次は内勤の方の生産性向上。例えば、在宅勤務を入れるなどですね。さらにそこには女性。地方創生も非常に大きなテーマですが、女性の活躍推進も非常に大きなテーマになっていますよね。
女性の場合は、今まで何かを犠牲にしてこないと社会で活躍できてこなかった場合が結構ですよね。だけどそうじゃなくて、結婚をして子どもを産んで、その後に働くということがちゃんとできるようになっていこうと。そのためには今のワークスタイルじゃなくて、新しいテレワークを使ったワークスタイルが有効なんじゃないかと。在宅勤務をちゃんと活用するようなかたちですね。女性が何かできる時間を増やしていこうという、ワークスタイル変革が必要ですよね。まず、現役社員の生産性向上、女性のワークスタイル変革による活躍推進。
そして更には、今後出てくる話として高齢者の雇用問題があります。高齢者についても、今、割と定年になると冷たく、辞めろと。それでいて年金は65歳まで出ない。何とかしなきゃいけないですね。労働人口はどんどん減ってきた中で、まだまだ活躍できる高齢者をそのままにしておけない。高齢者に対しても、今までのワークスタイルの変革が必要になるわけです。会社で働くんじゃなくて、例えば家で働く、どこかのコワーキングスペースで働く、そういう働き方を入れることによって労働人口の減少なんかには対応していくんだろうなということでございます。
それから今まで、ブルーカラーの人がテレワークとは関係ないとか言われてたんですけれども、ウェアラブル端末の登場で、ブルーカラーの方もテレワークできるようになるんじゃないかと。例えば、現場のいろんなチェックを今まで3人組で行ってましたと。それが、ベテランの方一人は会議室で待っていて、誰かウェアラブル端末で送ってくる情報を見ながら、ここがおかしいとか、あそこがどうだとか、そういうことが言えるようになってきます。日本全国でいわゆるテレワークによるワークスタイル変革というのものができてくるんじゃないかと。取りあえず今はこれぐらいなんですね。
女性、高齢者、それから内勤の方々を通じてさらにテレワークは進んでくると思います。テレワークの意義は、ワークスタイルを変革するためのツールになるということ。労働人口の減少に対応するためには、ワークスタイルの変革がなきゃダメですね。テレワークによるワークスタイルの変革が起きれば、多様な人材や多様な働き方ができるようになると考えております。
家田:ありがとうございます。
松村先生にも少しお話を聞きたいんですが、テレワークによる地域振興への貢献というところでお話がしたいなと思っているんですが。
松村:先ほどのセッションで産業革命に続いた情報革命という言葉でおっしゃっていたように、産業革命と情報革命に例えられ、比較されることがよくあります。産業革命のときは、資本家が台頭してきたということで、資金を持って新しい産業を起こしていくのが、新しい産業方針、あるいは社会貢献として起きていました。
それから2~300年経って、今日の受賞された皆さんをはじめですね、ITで働いていらっしゃる方、フリーランスで頑張ってらっしゃる方は、とくに大きな資金を持ってスタートさせたわけではなく、知恵だけでスタートしているんですね。
ですから、やはり知恵やITの上に乗せられるものが、社会をこれから動かす、あるいは引っ張っていくと考えられます。実際にですね、起業するなんていうのはお金がかからない。どうしても物をつくりたいのであれば、3Dプリンタを買ってくれば可能な時代です。多額の資金がいらないということは、間違いなく地方に大きなチャンスがあるんだと思います。
東京と比べたらマルひとつ、あるいはふたつ少なくなってしまうわけで、資金なんかもともとないんですけれども。しかしITが出てきてですね、ランサーズで皆さん頑張ってらっしゃる方、あるいはそれをベースに会社をつくる方が増えてきました。そうした方々は、知識をコントロールできるということで、新しい知のネットワークで組織をつくってらっしゃるということですね。
地域振興という視点から言いますと、そういう人に光があたったという意味で、ランサーズさんの表彰は地域の人に勇気を与えたと思います。そうしたものを浮かび上がらせるために、コワーキングスペースなんかに集まってもらって、どんな人が地域で知をコントロールしてるのかを明らかにしていく。そこで得られた事例や知見が、地域振興の新しいスタイルになってくるんじゃないかなというふうに思います。
クラウドソーシングとは別の話になりますが、地域ではAmazonのマーケットプレイスで、頑張っている方もいらっしゃいますね。例えば、Amazonで一番売ってらっしゃる方は、長野県の上田にいたりですね、地方で頑張っている方が隠れておるわけです。そういう人たちが、目立つような仕掛けをつくっていくことが必要だと思います。
それからもうひとつ。先ほどもちょっとお話しましたけども、地域の方に、ITを使ってもらうということが一番大事なので、クラウドコンピューティングをまずちゃんとやってもらってですね。その延長にクラウドソーシングがあったりするわけですから。
震災時に新しい家を建てたいというニーズが高まってですね、CADを描く人が足りないというようなことがありました。そこで、会社を退職された方にネット上で仕事をしてもらったと。CADもブラウザで動くので、パソコンさえあればできるということで、清書描きなんかをですね、ブラウザ上でやってもらったというような例もあります。それから、女性が結婚で退職するときに、オンラインで働き続けてもらうという例も少しずつ出てきました。地方の会社は社員数が少ないので、その人に辞められると大変困るわけですね。というように、少しずつITを使った仕事というものが、地方にも増えてきているわけです。
ですから、こういう事例や働いている人を見えるようにして、それをつなぐような仕組みをつくっていく。クラウドソーシングもそのひとつですね。少なからず発生してきた例を、見えるようにして、振興につなげていくということが大事なんだろうと思います。
家田:ありがとうございます。まさにクラウドソーシングがあるからこそ、地方で仕事ができる。クラウドの技術が出てきたからこそ、企業も仕事を依頼できるようになった。
松村:それがITの力なんだと思いますね。
家田:そうですね。ありがとうございます。
(次回につづく)
有識者と一緒に考える地方創生2|産官学の連携・クラウドソーシングの普及で地域に活力を。
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