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コロナで売上半減、岐路に立つ福井の箸卸売業者。事業承継を機に2代目が挑む「越境EC」

塗り重ねられた漆の深い色合い、貝殻や卵殻を使った独特の模様が美しい「若狭塗箸」。日本の塗箸全体の8割以上を占め、日本人に馴染みがある一方、外国人観光客にも高い人気を誇ります。

福井県小浜市の有限会社「船商」は、若狭塗箸の卸売業を営む地域の事業者です。顧客の要望に丁寧に応えて地に足をつけた経営をしてきましたが、コロナ禍で売上が減少。事業承継し2代目社長が誕生したことをきっかけに、福邦銀行とランサーズのサポートのもと、ECプラットフォーム「Shopify」を使った「越境EC」に乗り出しています。
地方の小規模事業者が海外販売に挑戦する理由や目的、ランサーとのやりとり、今後の展望などを代表取締役社長の谷口昌也さんに伺いました。

【インタビュイー概要】
有限会社船商
代表取締役社長 谷口昌也さん
ホームページ:『箸のふるさと館WAKASA
オンラインストア:『若狭塗箸 専門店 船商

【福邦銀行・ランサーズのShopify導入支援キャンペーン】
2021年5月に業務提携した福邦銀行とランサーズは、ECプラットフォーム「Shopify」を活用し、福井県内の企業のDX化と越境ECによる新規販路開拓をサポートするキャンペーンを展開。福邦銀行から紹介を受けた企業にランサーズのプロフェッショナル人材をマッチングし、Shopifyのサイト構築・運用を進めている。

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大手電機メーカーから若狭塗箸の卸売業者の社長へ。商品のファンを増やすために奔走

――事業内容について簡単に教えてください。

弊社は1990年に大手の箸卸売販売会社に勤めていた先代が独立して立ち上げた、若狭塗箸の卸売業者です。観光地の土産物店のほか、百貨店やショッピングモールに入店する店に箸を卸しています。家族経営の小さな業者です。

さまざまな種類の箸を扱っていますが、中でも化学塗料を箸先には塗らずに漆の抗菌作用を生かし、四角い加工と木の肌質により麺でも豆でもつかみやすくしたすべらない先角箸が人気です。

――谷口社長はいつから事業に携わっておられるのですか?

私はここが地元で、大手電機メーカーに25年ほど勤めた後、妻の実家の稼業である船商に3年半ほど前に入社し2021年7月に事業を受け継ぎ、社長に就任しました。

電機メーカーでは作業改善やクレーム対応など主に内部の仕事を担当していて、接客やECの経験はありませんでした。船商に入ってからは製造元やお客さんとコミュニケーションを取ったり、観光地の店を回って商品を売り込んで船商のファンを増やしたり、それまでとはまったく違う仕事をしていますが、相手が喜ぶ顔を見られてやりがいを感じています。

コロナで事業に打撃、事業承継で新しい取り組みを模索する中、心に響いた「越境」というキーワード

――福邦銀行とランサーズは地域の事業者を対象に、Shopifyを使った越境ECのサポートを行っています。谷口さんがサポートの提案を受けたのはいつ頃でしょうか。また挑戦を決断した理由を教えてください。

福邦銀行さんからお話をいただいたのは2021年の5月末です。

提案を受け入れたことには2つの背景があります。一つは新型コロナの影響です。弊社は観光地の土産物店に箸を卸しており、外国人観光客によく買っていただいていました。ところがコロナで観光客がいなくなり、その分の売り上げが消失。昨年度の売り上げは前年度に比べて半減しました。

もう一つは事業承継です。私はもともと船商の人間ではなく、箸の知識では家族にまったくかないません。ですが電機メーカー勤務の経験を生かして、「社長になったら先代が築いてきた商売にただ乗っかるのではなく、何かしら自分にできることを探したい」と考えていました。福邦銀行の事業承継セミナーに参加した際にもその思いを語っていたところ、事業承継前に福邦銀行から今回の提案を受けました。「Shopifyを始めるならこのタイミングだ」と決断しました。

――これまで御社としてECはされたことはありますか?

いえ、ありません。ですが同業他社の中にはすでに国内ECに乗り出していて、Amazonや楽天などのECモールに出店している業者も多くあります。うちのような小規模業者が今から同じようなECを始めても、太刀打ちできないでしょう。

ですが私の知る限りShopifyをやっている事業者はいないため、Shopifyであれば同業他社に埋もれることはないと思います。それにコロナ前はインバウンド需要で若狭塗箸が売れていたことから考えても、日本の伝統工芸として直接お客さんにアピールできれば、海外の方に興味を持ってもらえると考えました。

以前、ほかの銀行から「ネットショップ作成サービスの『BASE』で国内ECをやらないか」という提案をいただいたときは、心が動きませんでした。今回挑戦することにしたのは、「越境」というキーワードにピンときたからだと思います。

信頼できる地域の銀行の後押し。「Shopifyでの越境ECを成功させて先代を喜ばせたい」

――やはり「地元の銀行からの提案」という点は、決断に影響しましたか?

そうですね、弊社のような小規模事業者は昔から地銀とのつながりが深いんです。今はインターネットでいろんな情報を得られますが、それでも田舎では銀行のように信用できるところからの情報や提案は心に残りやすい。福邦銀行の担当者がすごく熱い思いで説明をしてくれたことも印象的でしたね。
併せてECサイト制作費用に使える小規模事業者持続化補助金の詳細案内や申請代行もしていただき、申請が採択されれば費用を抑えられることも決断できた理由の一つです。

――新しい取り組みをすることに、家族・社内からの理解は得られましたか?

実は先代である義父はあまりいい顔をしてくれていません。ですが妻と義母は賛成してくれています。コロナで事業が打撃を受けた今、これまでのやり方をふまえて販路拡大に動くか、Shopifyのように新しいことに挑戦するのか、生き残るためには何かしらの対応が必要という考えは同じだったのだと思います。それにShopifyでの越境ECといっても金額的にそこまで大きな投資ではないこともあり、「やってもいいんじゃない」と言ってくれました。

結果的に義母が賛成してくれたことで、先代もしぶしぶOKをしてくれました。今は福邦銀行やランサーさんとの打ち合わせなど私が本業以外に時間を割いていることや、まだ立ち上げの段階で成果も見えていないことを少し不安に思っているかもしれません。だからこそShopifyを成功させて、思い切り喜ばせたいですね。

地域とつながりのあるフリーランスとマッチング!オリジナルブランドの構想も

――Shopifyに取り組むことが決まってから、話はどのように進みましたか?

まずランサーズの担当者と話をして、Shopifyの構築ができて、弊社に合いそうなランサーさん数人を候補者として提示してもらいました。そのうち2人とWeb面談を行いました。

最初に面談した方は男性ですごく丁寧な方でした。弊社のことを考えていろいろ提案してくれるなどとても親身になってくれて、面談を終えた後は「この人しかいない!」と思いました。

ですがもう一人の方はサイト制作後のフォローも期待できたほか、女性であるという点から描いていたECサイトのイメージとマッチしていました。金額的には一人目の方より高かったのですが、その方は伝統工芸に興味があり、福井県内に住むその方の親が若狭塗箸協同組合の運営する「箸のふるさと館WAKASA」に訪れたことがあるなど、親近感を覚えました。正式依頼の際は一度弊社に訪問していただきたいと思っていたため、家が大阪で来やすいこともあり、その方にお願いすることにしました。

今は海外に渡航されていて11月末に帰国される予定なので、実際のサイト制作はそれ以降になると思います。急いで作ることよりも、思い通りのサイトにすることを優先するつもりです。


箸のふるさと館WAKASAホームページ

――Shopifyを成功させるために、現在はどのような施策を考えていますか?

商品の魅力の打ち出し方やSNSの活用などはこれから勉強して、ランサーさんとも相談しながら考えていきたいと思います。

サイトでは日本の伝統的な技術を生かした手作りの箸という点をアピールし、少し高価格帯のものを販売していくつもりです。現在扱っている商品を拡充する形でスタートして、軌道にのったら海外向けのオリジナルブランドも立ち上げていきたいと思っています。このShopifyでの越境ECを成功させることで、若狭塗箸にも何かしらの形で貢献ができれば嬉しいですね。

取材・文:ひろみね
https://www.lancers.jp/profile/Merry5
報道記者、大学職員を経てフリーライターに。インタビューやコラムなどを多数執筆している。

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