中長期を見据えて実行する、人件費の変動費化

中長期を見据えて実行する、人件費の変動費化
先行きの不透明な時代を乗り切るための経営手法として、「人」と「人に関する費用」の流動化を考える連載の最終回。前回は「短期的な人件費の流動費化手法」の具体例として、賞与の業績連動化や成果配分制度、年俸制の導入について考えてみました。続いて、中長期的な手法について取り上げてみます。

連載1|企業経営に効く、人件費の変動費化を考える
連載2|人件費の変動費化、短期的な取り組み施策

中長期的な取り組みとしての人件費の変動費化。

特集06

前回に考えた短期的な人件費の変動費化から一歩進めて、中長期的な取り組みについて検討してみましょう。短期的な取り組みだけではなく、中長期的な取り組みおよび賃金以外の取り組みを上手く組み合わせて運用することが、企業経営に効く総額人件費の流動費化につながることになります。

ポイント制退職金の導入

これまで一般的に実施されてきた退職金制度は、最終給与比例方式(退職時給与×勤続年数に応じた支給率)でした。終身雇用が崩壊した現代において弊害が薄まる可能性はありますが、依然として給与や勤続年数の増加により退職金コストが増大するというリスクを抱えています。会社への貢献度の反映という観点でみると不十分な制度だという指摘もあるようです。そこで導入され始めたのが、ポイント制退職金。

◎給与や勤続年数による退職金コストの増加を回避できる
◎在職中の貢献度を反映できる
◎中途入社者に不利益が少ない
◎退職金の状況を従業員が把握できる

などの特徴があるとされています。

この制度を取り入れる際、ポイント付与の条件に等級(職務)ごとの点数を勘案し、一般社員と管理職に差をつけるなどの工夫をすることがより効果的なようです。能力主義を明確にし、会社への貢献度が高く反映される仕組みにするということ。

ストック・オプション

一般化しているストックオプション制度もまた、長期的な取り組みのひとつと考えられます。特にストック・オプションによる新株予約権(自社株購入権を含む)であれば、企業の長期業績に連動する報酬になるため、より企業業績の向上にモチベーションが働くのは既知のこと。

日本版ESOP

ポイント制退職金、そしてストック・オプションと同時に検討できる中長期の変動費化手法として、日本版ESOPも挙げられます。制度化運用されているアメリカやイギリスの定義によれば、ESOPは雇用者株式による退職・年金支給制度です。日本においては一種の金融スキームと解釈され、退職給付型と従業員持株会活用型に大分されています。どちらのスキームを利用するにしても、先に上げたポイント制退職金と同じように貢献度に応じた点数付けを意識することで、有益な手段になるのではないでしょうか。

複数の雇用形態をミックスした組織づくりによる、人件費の変動費化。

特集07_01

人件費を抑制するために、複数の雇用形態を導入する。一般的に考えられるのは、いわゆる正社員での雇用と併せて、派遣社員やパート・アルバイト社員の比率を上げることでしょう。固定費化しやすい正社員の比率を下げ、フロー社員の活用によって「必要なときに必要なだけ」労働力を得る仕組みです。

導入のハードル自体は低いと言える施策ですが、注意すべき点もあります。大きなところでは、社内整備が必要になることです。

業務フローと領域の整理

フロー社員に任せる業務は何なのか。まずは正社員に任せる業務と、派遣社員やパート・アルバイト社員に任せる業務の切り分けが必要です。フロー社員に任せるということは、個人に依存するノウハウの蓄積が不要の業務と考えることができるでしょう。事業上、必要となるが定型業務であり、「少ない訓練」で「誰も」が「一定の成果」を上げられる業務であることも重要です。

業務にあたる人材が変わることを想定して、習得までの訓練と業務フローを簡潔に整理しておくことも大切になります。「少ない訓練」で「誰も」が「一定の成果」を上げられる仕組みづくりが肝となるのです。

評価制度の整理

様々な雇用形態のスタッフが増えることで、評価制度の適正化が必要になります。個別の業績を的確に把握・判断し、評価に結び付ける仕組みです。適正な「業務範囲」と「評価」の連動がなされないと、社員の士気低下(いわゆるモラールダウン)を招きかねません。

外部リソースの有効活用による、人件費の変動費化。

アウトソーシングの活用

人件費の流動費化施策として、最後にご紹介するのが「外部リソース」の活用です。連載の1回目でご紹介した通り、バブル崩壊から顕著に行なわれた人件費の抑制施策のひとつ。当時は、大手企業の大半が業務のアウトソーシング化に着手したと言われています。

今でも「給与計算」を専門に請け負う企業があるように、人事・経理などのバックオフィス業務をアウトソーシングする企業が多かったようです。それだけにとどまらず、開発や営業など、業態によっては事業の根幹をなす部分まで、外部リソースを活用した例があるほど。

ご存じの通り、現在でも多くの企業がアウトソーシングを活用しており、「必要なときに必要なだけ」業務を切り出しています。確かに、ある領域を専門に扱っている企業なり人に任せるほうが、業務効率が高く、クオリティも安定するというメリットがあります。労務管理の労力も不要となり、経営体質をスリム化する面でも有効な手段です。

クラウドソーシングの活用

特集07_2

近年では、業務を別会社に依頼するアウトソーシングと異なり、不特定多数に依頼・公募する仕組みが盛り上がってきました。不特定多数の人=crowdに委託するこの仕組みが、クラウドソーシングです。主に個人やSOHOで働く人が請負先となり、企業が依頼した業務に対して提案をしてくれます。アウトソーシングとの違いとして、企業側は依頼さえすれば、受注者から業務に対する応募がある点。集まった中から自社にとって最も適した提案を採用し、発注を行ない、成果物を納品してもらうことができるのです。

基本的に発注者と受注者が直接のやり取りで業務を進めるため、ノウハウが社内に貯まるという点もアウトソーシングと異なります(発注だけを行なうというサービスの利用方法もあります)。この方法であれば、自社の理念や特徴など、内部にいる人にしか理解できない部分まで、成果物に込めることができるでしょう。従来のアウトソーシングとは異なる、企業の永続的発展に寄与する外部リソースの活用方法として注目を集めています。

ハーバードビジネススクールの助教授によって提唱された「オープンイノベーション(自社だけでなく、他社や大学などが持つ技術・アイデアを組み合わせ、革新的なビジネスモデルや研究成果・製品開発につなげる方法)」を取り入れる企業が増えている昨今。そのひとつのカタチでもある「クラウドソーシング」の導入は、一歩進んだ企業経営を行なうための武器となりそうです。

<おわり>

(※この記事は2014年10月22日にクラウドソーシング研究所に掲載した記事を、加筆し掲載しています )


002