「顔と名前を売る」か「裏方として信頼される」か|ウェブライターの生存戦略2016

「顔と名前を売る」か「裏方として信頼される」か|ウェブライターの生存戦略2016
東京・五反田のコワーキングスペースCONTENTZで2月27日、「ライター・編集者はより多様であっていい」と考える現役ライター・編集者によるイベント『1本2000円からのシフトチェンジ「WEBライター生存戦略TIPS 2016」』が開催された。

ウェブライターの「生存戦略」とは

編集プロダクション・ノオトが運営するコワーキングスペースのCONTENTZでは、同業向けのイベントがしばしば開催される。そんなCONTENTZに、現役のライター・編集者3人のグループから「イベントを開催したい」という連絡があった。彼らには、これまでのライター・編集者向けイベントとはまた違う狙いがあると言う。

3人とノオトの協議により、“1本2,000円からのシフトチェンジ「WEBライター生存戦略TIPS 2016」”と題されたこのイベントの意図を説明するために、以下に司会進行を務めたウェブライター・編集者の長谷川賢人(はせがわけんと)さんのイベント開会の挨拶を引用する。

今回のテーマは“ウェブライターの生存戦略”ですから、これから「ウェブライターになるには」「ウェブライターでどう食っていくのか」などについて話し合います。そもそも今回のイベントを開催した経緯ですが、最近はウェブライターについての議論が活発で、「目立っているライターしか食えていない」「ひと記事数千円で何本書いても力がつかない」なんて言われていますよね。それを目にする度に、僕たちは飲み屋で意見を交わしながら「ウェブライターへの参入障壁を高くしてばかりでどうするんだ」とモヤモヤしていたんです。

だから、本日は「ウェブライターにもいろいろなやり方があっていい」という趣旨のイベントです。名前と顔が露出する仕事もある一方で、名前が出ないウェブライティングの仕事もたくさんある。前者でも後者でも、戦略次第で自分の生活を担保することは可能なのではないか。

というのも、僕たちは10年先も生き残れるライターになりたいんです。このイベントには、まずその願望が込められています。なれるとは言い切れないけど、なりたいと思っている。そのためのノウハウを共有し、考える場ということです。

ウェブでも活躍するベテランのライター・編集者たちを迎え、2016年2月27日に開催されたこちらのイベントでは、一体何が語られたのか。確かに従来のイベントよりも実践的な“TIPS”が集まった当日の模様をレポートしたい。

【登壇者プロフィール】

生き残るカギは「編集力」! ウェブライターに必要なスキル

Webライターの生存戦略

長谷川:武者さん宮脇さんはこの20年近くで、紙媒体もウェブも経験されてきて、今はウェブの仕事も多くなっているそうです。常山さんはウェブが中心で、名前は出ていないけれど「実は常山さんの仕事」がたくさんある。

お三方はこれまで活躍されてきているので、上手くいったこともあれば、上手くいかなくて反省されたこともあるかと思います。僕たち後進が同じ轍を踏まないように、という意味を込めて、ライターとして生き残るために注意するべきポイントについて、それぞれの意見を伺っていきます。

本題に入る前に、ライター業界の現状を少し整理しておきたいと思います。そもそも、ウェブライターにはどんなスキルが必要なのでしょうか?

武者:最近、いわゆるオウンドメディア側に編集のスキルがなかったり、新興のウェブメディアの編集者が実際には素人だったり、というケースが増えている気がします。そうなると、ウェブライター側に、本来は編集者の範疇である企画の立案から原稿の校正までの能力が求められることがありますよね。

常山:確かに、オウンドメディアの担当者が「何が編集の仕事か」をわかってない場合があるかもしれません。ライターの仕事がどこからどこまでか、しっかり設定するのもメディアの責任だと思います。

宮脇:私は純粋なライターというよりは、もともと雑誌の編集部にいて、編集者としても働いていました。ですのでフリーランス時代は、「ライターも編集者も両方やっています」みたいなスタンスだったからか、仕事を発注していただくチャンスが多かった気がします。昨今はウェブメディアがどんどん増えているので、編集的な観点がわかっているライターへのニーズがより一層高まっているのではないでしょうか。

武者:僕の体感として、いろいろな企画を出せるウェブライターに仕事が集まっているような気がします。企画の振り幅と言いますか、あちこちの事例をしっかり把握しておいて、「この案件ならこういう切り口があります」と提案できるといいのではないかと。常山さんはまさにそういうタイプですよね。

常山:1つの企画でも、相手の反応に合わせて「A・A’・A”……」と違う切り口を提案するのは心がけています。ただし、ウェブライターに企画力はあった方がいいですが、絶対になければいけないかと言うと、それも違うのではないかとは思っていますが。

武者:ウェブライターというのは、ウェブのコンテンツそのものを作る仕事です。あとで写真の話が出ますが、例えばコンテンツのビジュアル面を含めてどのような展開をするか、コンテンツ全体をプロデュースする力が重要なのではないでしょうか。

まずは「校正・校閲」、それから「書き分け」などクオリティーを意識する

Webライターの生存戦略

長谷川:ウェブライターのメインはもちろん書く仕事であり、それは間違ってはいないけれど、最近では編集者の範疇にあった企画立案や、写真撮影の能力まで必要ということですよね。

そこで最初のトピックは「原稿の校正・校閲」について、これはなぜ重要なのでしょうか。

武者:校正・校閲、これは本当に重要です。特にオウンドメディアだと、一度ミスったことを二度三度とミスると、次から仕事が来なくなります。

長谷川:厳しいようですが、本来は当然ですよね。

武者:はい。ですので、まずはウェブ上で、校正・校閲ができるサービスを利用してみるのがいいでしょう。

常山:あとは市販の『Just Right!』という校正・校閲ソフトがおすすめです。5万円くらいでやや高いのですが、投資する価値はあります。

武者:校正・校閲って、本来はダブルチェックじゃないですか。ウェブライティングの現場だと、現実的には無理だと思うんですよね。コスト的に1人でしかチェックできない。それでもミスらないようになんとかするためには、やっぱりテクノロジーに頼るといいますか、他にもクラウドソーシングのサービスの力を借りるとか、試してみてもいいのでは、と。

長谷川:ウェブライターとしては、まず共同通信社の『記者ハンドブック』や講談社校閲局の『日本語の正しい表記と用語の辞典』に準拠しつつ、それでもミスはあり得るということを前提に、ツールやソフトの力を借りましょう、と。まず自分でダブルチェックをしてから提出すれば、ミスの少ないウェブライターとして重宝されることはあり得ますよね。

武者:重宝されるウェブライターになるために、他にあるといいのが、メディアごとの書き分けの技術です。例えば「この商品を取り上げてください」という依頼が来たときに、考えられる文体は1つじゃないですよね。それぞれの読者層に合わせて、一番わかりやすい文体や形式で届けるのが、本来のライターの技術力だと思うんです。

最近は「◯◯です」という自己紹介から始まる文章が多いですが、それに慣れてしまうと導入部分の詰めが甘くなるので、気をつけるべきだと思います。僕たちライターの仕事というのは、自分の名前を覚えてもらうことではなく、クライアントのためになること、つまり、原稿料以上の価値を出すことなので。

「単価1本数千円」「署名なし」記事を書く意外なメリット

Webライターの生存戦略

常山:それができると、名前が出ない原稿でも次の仕事につながるということですよね。

長谷川:名前が出ないというのは、どういうことですか?

常山:対外的に、ということです。「自分が書いた」と明示しなくても仕事が来る。

長谷川:なるほど。署名記事じゃなくても、「このライターさんはいい原稿を書けるんだ」と評判が上がり、仕事が来るということですね。

一方で、ライターという仕事は自己顕示欲がモチベーションになることもあって、やっぱり署名で自分の記事を書きたいという気持ちもあると思います。そこはどうやって折り合いをつけていけばいいのでしょうか。

武者:これは極論ですが、僕はどんなに記事単価が安くても、署名記事であれば自分の名前が出せるチャンス、導線が増やせるチャンスだと捉えています。とは言え、SEO対策的な記事や、まとめ記事などをやりたいわけではなくて、自分の好きなジャンルで、自分の名前を出せるものだったら、採算を度外視して引き受けることもある、という意味です。

長谷川:「得意ジャンルの記事を書けるライター」としての実績がセールスツールになるからやるべき、ということですよね。それは一理あります。

常山:今は自己顕示欲がなくなりましたね。読者や仕事相手が喜んでくれれば、それでいいというスタンスで。

自分が書きたいことは、例えばブログとか、TwitterやFacebook、noteとか、メディア以外にも書けるところは増えてますし。

長谷川:常山さんは猫がお好きなことから『猫ジャーナル』というブログを運営されています。やっぱり猫というのは需要があり、個人運営ながらantennaなどのキュレーションメディアにも配信しているので、その猫記事を必ずしも会社が運営するメディアで執筆する必要はない、ということですね。

常山:そうですね。

長谷川:ここまでトークをしてみて、武者さんは「武者良太」として仕事をしたいライター、一方で常山さんはそういう欲はあまりないライターという印象ですが、詰まるところは「自分がどういう人間でありたいか」だと感じました。それによって戦略は変化するし、何より生活のためにやっているというのも当然あるでしょうけど。

武者:生活は大事ですよ。

宮脇:署名のことで1つだけ言うと、ノオトに来る仕事には、企業のオウンドメディアであっても「署名を入れさせてほしい」と言っているんです。

これはまず、ライターのためになるから。でも、それだけではなくて、例えばそのライターさんがSNSで「書きました」と投稿してくれたら、その友だちが見てくれるわけですよね。クライアントもそういう効果は無視するべきでないと思うので、自己顕示欲にちょっと近いかもしれませんが、これは署名記事であるメリットですよね。

一方で、名前は出ないけど「いい仕事をしてくれる裏方」として業界内評判を積み上げるというのも戦略なので、どちらによりウエイトを置くか、ということだと思います。

営業努力は「必要」! 売り込みからNAVERまとめ作成まで

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長谷川:ちょっと思い出したのは、武者さんはポートフォリオをNAVERまとめで作っていますよね。『武者良太の執筆記事一覧』みたいな。

武者:あれはノオトの朽木さんの真似です(笑)。

参考:フリーライター・武者良太 制作実績まとめ
参考:朽木誠一郎/活動報告まとめ【2016】

長谷川:これはインバウンド営業的な効果もありそうですね。ここで、「そもそも仕事をどうもらえばいいのか」というトピックに移りたいと思います。

仕事をもらうための方法として、1つは「クライアントを見つけるにはどうしたらいいのか」、もう1つは「(クライアントや編集者に)自分を見つけてもらうにはどうしたらいいのか」がありますよね。武者さんはそれぞれどのように取り組んでいますか?

武者:80年、90年代は“ライター募集”みたいな記事を見つけたらすぐその会社に行っていました。全くつながりのない媒体への持ち込みも何度もあります。以前、日経の編集さんが言っていたのが、「日経はライター募集の広告なんか出さないけど、出さないからこそ提案しに来てほしい」ということ。怖がらず売り込む、という姿勢が必要だと思います。

常山:昔の就活ってそういう感じもありましたよね。募集告知の出していない会社へ取りあえず行って、面接してもらうとか。

長谷川:それ、今だとインターネットでできるかもしれませんね。SNSがある種の窓口になって、「自分が書いている記事を見てほしいです」みたいに自薦するような展開があってもいいと思うので。実際にその方法で仕事を得ているライターさんも知り合いにいますし。

僕もメディア運営をしている中で「ライターをやりたいです」と売り込みをいただくこともあるのですが、提案された事例や企画を見ると、明らかに僕のいるメディアを読んでないとわかるんです。あるいは、「このライターさんはどんな原稿を書けるんだろう」という肝心な部分がイメージしにくいケースもある。相手が自分をどう見るかという部分に気を遣うだけでも、評判や信頼関係は構築しやすくなると思うのですが。

宮脇:最低限のところはしっかりしてほしいですね。

長谷川:一方で、これだけライターや編集者がいると「埋もれてしまう」という危機感も生まれてきます。「見つけてもらう」ために必要なのは何だと思いますか?

武者:ソーシャルでの発信ではないでしょうか。今更感はありますが、それでも最低限、TwitterやFacebookを使っているのは重要だと思います。

長谷川:「フォロワーがめちゃくちゃ多い」とか、必要でしょうか?

武者:うーん、マス向けの仕事をするのであればフォロワーが多い方がいいかなと思いますが、どんな仕事をしたいかによるかな、と。量より質が重要な場面もありますし。

長谷川:なるほど。ここまでを一度まとめると、クライアントを見つけるにはひと昔前の就活のように、「このメディアで書きたいんです!」という熱意を伝えるのが一手。見つけてもらうにはフックになるもの、NAVERまとめかもしれないし、SNSかもしれないですが、何かしらを自分で用意しておいて、チャンスがあったときにマッチングできるように工夫しておく、ということでしょうか。

常山:僕の場合はどちらかと言うと、人の紹介で仕事をつないで、今まで書き続けていられているんです。特別、営業のようなことをせずここまで来ているので、運がいいと思います。そういう意味では、目の前の仕事を淡々とこなしていく、そうすると周囲に評価されて、知り合いから知り合いにつながる、という流れはあると思います。

「飲み会」そして「年賀状」!? 先輩ウェブライターの仕事の見つけ方

Webライターの生存戦略

長谷川:その話は、人脈の作り方というトピックにつながりますよね。具体的にはどのように作るのでしょうか。武者さんはよく飲み会をしているイメージですが。

武者:飲んで、飲んで(笑)。僕は一時期、埼玉に住んでいたのですが、そのときに仕事がごっそり減ったんです。それでまた渋谷に事務所を構えたら、また仕事が戻ってきましたから。フットワークは大事ですよ。

当時は編集者さんが若い人たちばっかりだったので、そうすると普段からどれだけコミュニケーションをとっているかが、かなり効いてくることがわかりましたね。

宮脇:人脈を作るという意味では、飲み会がいいというのは私も経験的に思います。時代が違うので参考にはしづらいですが、20年くらい前に『サイゾー』の飲み会で『ダ・ヴィンチ』の編集者と知り合って、それで仕事をさせてもらうことになったんですよ。

ダ・ヴィンチはメディアファクトリー、当時はリクルート系のメディアですが、その人がリクルートに戻り、のちにR25の編集長になったご縁で、私はR25に創刊前から携わらせてもらいました。昨年の秋、紙版が休刊になったあとも、弊社はずっと一緒にR25さんと仕事をさせていただいています。若いころ、この人いいなと思う人と良好な関係を築いておくのをあちこちでやっておくと、10年後にはみんなそれなりに偉くなっていくので(笑)、コバンザメ的な戦略がとれる、というのはあるかもしれないですね。

常山:誰彼構わず媚びを売るのではなくて、馬が合う人としっかり関係を培っていくって、大事ですよね。

宮脇:いい編集者は、そうやっていろんなライターを持っていますよね。ザ・編集者っていう人は、「この企画だったらあのライターさん」という引き出しがたくさんある。編集者がライターに「あの記事を書いていましたよね。読みましたよ」って一声かけられたら、ライターさんはうれしいじゃないですか。いい編集者はそういう気配りができるものだと思います。あとは、そういう良好な関係の中で、やっぱり打順が回ってきたときにライターがちゃんと打ち返せるかは重要ですよね。

常山:僕は飲み会にはあまり行かない方ですが、仕事のつながりで名刺交換をしたりとか、一緒に仕事したりとか、そういう方と他の仕事でも継続的にお付き合いすることが多いです。年に一度、年賀状をやりとりするだけの方もいますが、年賀状を送ったあと「最近どうですか?」と連絡をいただいて、仕事につながることも結構ありますよ。

長谷川:面白いですね。仕事を見つけるのも、自分を見つけてもらうのも、どっちもデジタルでできるのに、実際に仕事をする段になると、アナログのコミュニケーションがめっぽう強いという。飲み会はともかく、年賀状が効くなんて、たぶんなかなか思いつかないのではないでしょうか。

常山:年末は「年賀状を作るのも、仕事」みたいな感覚があります。作るのが好きなんで。

「ギャラの交渉」はあり?なし? ウェブライターの処世術

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長谷川:オウンドメディアというものがここ1〜2年ぐらいで急激に流行して、新興メディアが勢いを増しています。片やインディペンデントな存在として、『ギズモード・ジャパン』『WIRED』のようにブランドが広く認知されているメディアも登場している。

加えて、その中間くらいのメディアも山のようにあって、こうなると「ライターはどのメディアで書くべきか」というのがわかりにくくなっていると思うのですが、フリーライターとしてキャリアの長い武者さんはどうですか?

武者:僕の場合は、ウェブだからこそ自分の名前を売っていくことにしたのですが、そうすると「できるだけPVの大きいところで書く」というのが戦略になります。僕はこれまでギズモードで書き続けてきたので、ギズモードのライターとして認知していただいている部分もあるかと思いますが、他のメディアでより硬い文章を書いていると「こういう文章も書けるんですね」って言われることもあるんです。だから、そうやっていくつか違う顔の見せ方ができるように、複数のメディアで書くのがいいかな、と。

常山:それはありますね。仕事は、仕事によって生まれた縁とか、それまでの人生の積み重ねとかでやって来るものですから。

長谷川:ライターをしている友だちからよく聞く悩みが、ギャラの交渉だったり、単価の低い仕事の上手い断り方だったりするんですが、このあたりをちょっと武者さんにお聞きしてもいいですか?

武者:僕はよく「こんなのやってられるか!」みたいに言って失敗するので、むしろ上手い断り方を勉強させてほしいです。

(会場笑い)

長谷川:ギャラの交渉はしますか?

武者:そうですね……。記事1本を書くのにどれくらい時間がかかるかという観点で自分の時間給を想定して、それに時間数を掛けて見積もりを出すようにしています。

常山:あとは、まず自分の最低ギャラを設定することですよね。それ以下だったら受けない、それ以上だったら受けるかどうか検討する、というラインを持っておく、と。条件が合わなければ「ギャラが安いから」という理由で断るのが一番早いですよね。その上で、もし「どうしてもあなたに書いてほしい」と言ってもらって書くこともあります。

長谷川:僕は以前「これは常山さんにしか書けないな」という仕事をお願いして、はっきり「安いです」とギャラ交渉されたことがありますよね(笑)。こっちも正直ベースで言ってもらった方がありがたいこともあるので。宮脇さんは2人の話に対して、何か思うところはありますか?

宮脇:クライアントや代理店から仕事の依頼が来るけど、そもそも値段を提示されないと相手を信頼していいのか不安になりますね。会社間の取引ですから。打ち合わせしてから条件が合わないことがわかると、お互いに時間を無駄にしてしまうので、お金の話はあらかじめ聞いた方がいいです。とは言え、安くても受ける、受けないは内容にもよるので、誠実に対応してくれた方が結果的にもいいと思うのですが。

企画力のあるライターは「今ではなく、先の一手」を考える

Webライターの生存戦略

長谷川:冒頭からちょこちょこ話題に上っていたライターの企画力について、詳しくお聞きしていきましょう。常山さんは、企画を立てるときに気をつけていることはありますか?

常山:僕の場合はまさに広告仕事で企画をすることが多いのですが、クライアントからお題が来て、それを打ち返す場合がほとんどです。だから、クライアントが本当は何を求めているのか、理解することが重要だと思っています。というのも、クライアントの言うことがすべて正しいわけではないんですよね。

長谷川:クライアントが「こんな企画やりたい」と言っても、その企画が成功しそうになかったらNGを出すということですか?

常山: NGを出すと言うよりは、さっきの企画力の話にも関係しますが、代替案を出すようにしています。「その目的なら、こういう方がいいですよ」と。

長谷川:そうするとやっぱり、ライターは企画力を持つべきなのではないかと思ってしまいますが……。

武者:企画力と言うよりは、もうちょっと簡単に、面白いことを常に考えていよう、ってイメージじゃないかと思います。

長谷川:「面白い」というのは、どのような意味で?

武者:それは自分が所属している媒体によって変わるので、媒体のカラーに合った企画を常に考え続けるということです。

長谷川:例えばギズモード・ジャパンであれば、「最新のガジェットに詳しくなった方がいい」ということでしょうか?

武者:うーん、今のことじゃなくて、次のこと。何をどうお客さんに見てもらったらPVが増えるだろうか、とか。先の一手を考えます。

長谷川:ぜひ、具体的に1つ教えてください。

武者:最近だとテクノロジー方面はファッションに寄ってきていて、その境界が重なりつつあるんです。そういうニュースは今後来るだろうから、あらかじめちょっと調べておこうとか。東京ビッグサイトなどで開催されている展示会などのイベントに参加して、情報収集とかをしています。

長谷川:自分で先の一手を予想しておいて、メディアがそれを取り上げたくなったときに、「俺、それ知ってるよ」って言えたら当然、武者さんに仕事が来ますよね。

武者:まあ、そこまでガチガチに戦略を立てているわけではないのですが(笑)。

長谷川:宮脇さんはいかがでしょうか?

宮脇:私個人は、企画を立てるのは、基本的に編集者の仕事だと思っているんです。「編集者ってどんな仕事ですか?」と聞かれて、届いた原稿を校正・校閲するのも大事な編集の仕事なのですが、とにかくまず企画を立てられると、いい編集者になれると思うんです。仕事ができない編集者って、企画が全然出てこないんです。一方、企画を立てられる編集者には、それを理解してくれるライターが集まり、いい循環が生まれます。

長谷川:関連して、あちこちでライター不足と言われていますが、本当にライターは不足しているのでしょうか。武者さんはどう考えていますか?

武者:ライターが不足していると言うよりは、それぞれのメディアのカラーや属性に合わせて書けるライターが圧倒的に少ないのだと思います。ライター側も、媒体の研究ができていないのではないでしょうか。書き分けの技術にもつながりますが、媒体に対して適切な記事が書ければ、必ず次の仕事が来ます。その繰り返しで、結局書き分けができるライターさんに仕事が集中する、と。

長谷川:編集者にも余裕がないのかもしれないですね。ウェブメディアの多くは、少ない人数で運営しているようですから。

宮脇:ライター不足というのは私たちも感じてはいたのですが、以前Facebookでその手の話題をシェアしたところに鋭い指摘があったんです。それというのも、今までは紙媒体で編集者が教育されてきたのが、今はそういう機会がないまま編集者をしている人が結構いるはずで、そういう編集者はどうしても知見が足りないので、結果としてライターの記事も薄くなる、という。

でも、誰に何を教えられたわけではなくても、『オモコロ』のように、ときどき無茶苦茶に面白い人たちが集まってものすごく濃い集団を形成することもあるんですよね。そういった人材が集まるような「場」をどう作っていくのかが、この先のライターや編集者にとっての課題になっていくのだろうと思います。

「ライター任せ」の現状で、ライターが身につけるべきスキルとは

Webライターの生存戦略

長谷川:ちょっと話は変わりますが、ウェブメディアは写真が大事だという話を最近よくします。僕もウェブ編集者として仕事をする中で、写真が撮れる、動画が撮れるライターさんはすごく重宝するので、逆に撮れないライターさんには任せられない仕事も出てき始めた。それらの「書く以外の仕事」について、みなさんがどう感じているのかをお聞きしたいです。

武者:「本当に文章を書くだけ」という純粋な職人さんは、今までの人たちで椅子取りゲームの椅子がもう埋まっているのではないか、と思います。今はネットの時代になって、写真も動画も大体が縦にズラッと並ぶ形式なので、そうするとライターにあれもこれもと依頼されてしまうのも仕方ないのかもしれません。

長谷川:良し悪しはさておき「現場がすべてライター任せ」っていう状況はリアルに見聞きします。そもそもウェブメディアで儲かっているところがあまりない。そうすると人件費も制作費も使えなくて、ライターはおろか1メディアに編集者が4人いれば良い方、という編集部も実情として多いのではないか、と。

そうすると武者さんのようにカメラマンまでできると費用が浮くことにもなるし、仕事は来ますよね。

武者:そういう場合は、ギャランティもちゃんと高いんですよ。

常山:ギャラ交渉にも使える、と。

武者:せっかくなので、この画像(参考:なんでもそろっているグランピングを笑顔MAXにするタブレットとは?)を説明させてください。これは夕方撮影したような写真に見えると思いますが、実は真っ昼間に撮りました。時間がなくて。

長谷川:すごい。これ、パソコンの記事広告ですか?

武者:はい。空の色を変えて、テントの中は光って見せて……と、このように多少レタッチができることで仕事をいただいている部分もあります。

屋外で撮影すると、パソコンの画面なんて本当はくっきり出てこないんです。そこでこのフォトショップ力といいますか、文章を書く以外のポイントでも自分をアピールすることができます。

常山:武者さんはそのフォトショップ力をどこで身につけたんですか?

武者:以前、ちょっと書籍のデザインを請け負っていたことがあるんです。イラストレーター、フォトショップあたりはそこでひと通り理解できたと思います。

長谷川:僕が今携わっている『北欧、暮らしの道具店』というECサイトも、写真がキレイだとみなさんにお褒めいただくのですが、カメラはもとより、編集経験もほぼゼロでスタートしている人が多いんです。でも、「写真のスキルはないけれど、センスはめちゃくちゃいい」という人であれば、コツをつかめばどんどん上達する。とはいえセンス以前に、「建物を撮るときは垂直のラインを意識する」とか「背景の写り込みに気を払う」とかのルールを守るだけでもある程度の使える写真は撮れる。

常山:ちゃんとした写真を撮影している媒体を真似することから練習を始めるといいですね。

宮脇:最近は動画のニーズもありますよね。実際、例えば武者さんに動画をお願いできるものなんですか?

武者:最近、動画のコンテンツの依頼が多いんですよ。動画メディアを見渡してみても、文章を全く使わず、動画で端的にまとめるコンテンツというものに、編集者も注目しているのを感じます。

長谷川:僕も最近は動画を撮ることがあります。例えば家具の組み立てであれば、写真を並べるよりも、動画だと流れがわかりやすいじゃないですか。こんな風に、動画の活用ポイントはこれからも増え続けるとわかっている以上、動画撮影もできた方が将来の食い扶持はあるんじゃないか、と思います。

「2,000円の原稿」で「2,000円以上の仕事」をすると、どうなる?

Webライターの生存戦略

長谷川:最後は「ライターとして食っていく」ためのポイントです。今回のトークイベントには“2,000円からのシフトチェンジ”というコピーがついています。現状ひと記事数千円の仕事をしているライターはこのままその仕事を続けてもいいのか、また、どうやって単価を上げていくべきかについて、話を伺いたいと思います。

武者:これまでのトークの内容に全部つながっていくと思うんですけど、まず企画力や書き分けの技術を身につけるというのがありますよね。

ただし、原稿料の単価はメディアごとに決まっているものなので、もともと安いメディアの中で大きく上げるというのは基本的に不可能なんです。だから、「単価の高い現場にどう入り込むか」が重要になってくるかもしれない。「こんな仕事もやっています」とアピールした上で、「この仕事だったらいくらでできます」という自分の中の適正価格をしっかり伝えるようにするのがいいと思います。

常山:自分は以前、サラリーマンをやっていて、そこからフリーになったのですが、見積もりって最初は悩みますよね。ライティングを仮に会社員として請け負うとしたら、業務に付随する請求書の発行とか、経理業務は経理部がやってくれます。でもフリーでやる場合は、それらもすべて1人でやることになるので、その分も含めて計算すべきじゃないか、と。

仮に1本2,000円だとして、原稿を書く仕事に加えて、経理もやっていると考えると、原稿に対する報酬は相対的に下がってくるんです。 そうなると「2,000円はこの仕事に対して適正なのか?」という発想が、フリーランスには必要だと思いますね。

武者:僕はそれでも、「ここで署名を出したい」と思えるメディアでは、ひと記事数千円の仕事を続けるメリットがあると思っています。

「2,000円だからこの程度で」という姿勢で仕事をしてしまった瞬間に、成長は止まってしまうじゃないですか。2,000円だけど自分の好きなジャンルで、面白いと思えるネタだったらどんどん突っ込んでいかないと。それがPVとか周囲の評価につながれば、それは自分の実力になるはずなんです。その意味ではひと記事数千円の仕事というのは、いろいろなチャレンジができる現場だと僕は思っています。

長谷川:つまり、2,000円の記事を書くときに、2,000円の仕事をしてはいけない。

武者:それをしちゃうともったいないと思います。自分の実力を高めることは、どんな環境でもできるはずなので。もちろん、実際にいくらでやっているか言う必要はないです。自分のキラーコンテンツを準備しておこう、と。

長谷川:編集者側の見解として思うのは、3,000円の仕事をお願いしたときに上がってくる仕事の中身は、その先で30,000円の仕事を任せるかどうかの判断材料になりますよね。「以前いい記事を上げてくれたから、記事広告の依頼が来たら任せよう」という流れは当然あり得るので。

宮脇さんは編プロとしてより大きなお金を動かしていると思いますが、ライターの単価についてはどう考えていますか?

宮脇:やっぱり、ちゃんとお金をとれる仕事に関しては、ライターにもちゃんと払わないと、いいライターを確保できないし、いいライターの奪い合いになってしまうと思います。

ただし、単価はあまり急には上がらないと思った方がいいかもしれないです。私はフリー時代に雑誌の仕事を中心に5年半ほど下積みをしましたが、最初は年商200万とか、そんなものでした。価値的にちょっと上の仕事をもらっていく、その積み重ねしかないと思います。ウェブの時代でもそこは同じなのではないでしょうか。

長谷川:ありがとうございます。そろそろ時間なので、みなさん最後に言いたいことがあれば。

宮脇:あ、では私から。冒頭で「ひと記事数千円で何本書いても力はつかない」というフレーズがありましたが、以前ここで開催したイベントでそういう話題になったんです。でもそれは「取材も調査もしない原稿をいくら書いても力にならない」というニュアンスなので、2,000円の原稿でも電話でコメントをもらったり、しっかり調査したりを繰り返すことで実力は身につきます。そこだけは誤解なきよう強調しておきたいな、と。

武者:僕からも1ついいでしょうか。ノオトさんのような編集プロダクションがイオン、クラウドソーシングが100円ショップだとすれば、フリーのライターは個人商店です。どのように価値を提供していくかは、自分で考えなければいけない。専門的な知識を習得してセレクトショップになっていくのか、それとも町の普通の個人商店のままなのか。

そうやって努力した分は、最初の単価が2,000円だったとしても、次第に5,000円とか10,000円とか、自信を持って請求していくべきだと思います。単価が低いまま時間あたりの生産性を上げようとすると、失敗したときにリカバリーができないので。

常山:僕なんかは、その観点から言えばコンビニですかね。

武者:そうですね、コンビニ。こだわりシェフとか頑固な店主とかではなく、いろんな編集者さんに使ってもらいやすい存在でいるというのは、ライターとして最強の生存戦略かもしれない。

常山:編集者としては、ある程度のことは自分たちでやってしまいますからね。もちろん、ちょっと早めに原稿を上げてくれれば。締め切りを過ぎちゃうとどうしようもないですけど。

武者:申し訳ございません。

(会場笑い)

ウェブライターの生存戦略2016まとめ

冒頭の長谷川さんの発言のように、ひと口にライターと言っても、いろいろなやり方があっていいはずだ。今回のイベントは、登壇者それぞれのスタンスが色濃く反映されており、幅広いタイプのライターに対して参考になる内容だったのではないだろうか。

ライターとして仕事をしていく以上、どこかで自分なりの方法論を確立する必要に迫られる。そんなときは、1人で悩むのではなく、同業の仲間と酒を酌み交わしながら、相談するのもいいかもしれない。そう思わされるイベントだった。

(朽木誠一郎/ノオト)