サイゾーとジモコロの編集長対談|編集者とライターとの関係・ウェブ時代の編集者のキャリアアップ

サイゾーとジモコロの編集長対談|編集者とライターとの関係・ウェブ時代の編集者のキャリアアップ
東京・五反田のコワーキングスペースCONTENTZで1月23日、「上を目指したい」ライターや編集者を対象としたイベント『サイゾーとジモコロの編集長が考える「這い上がるために必要なこと」が開催された。今回は『編集者とライターとの関係』『ウェブ時代の編集者のキャリアアップ』などについて意見交換したトークイベント後編。

『サイゾー』『ジモコロ』両編集長に聞く、ライター・編集者のキャリアアップ

ライティング力や編集力を伸ばすにはどうすればいいのか? しっかりとした生活基盤を作っていくために必要なことは? ウェブや紙のメディアを取り巻く環境が急速に変化する中で、ライター・編集者として「上を目指す」ためには何が必要なのだろうか?

登壇者は、1999年の創刊以来厳しい出版不況を乗り越えてきた月刊誌『サイゾー』の岩崎貴久編集長、SNSで時に万単位の反響を引き起こすオウンドメディア『ジモコロ』の徳谷柿次郎編集長のお二人。それぞれが歩んできた編集人生をベースに、ライターや編集者の未来を語ってもらった。

※前編は こちら から

【登壇者プロフィール】

「匿名で紙に書き出して審査」 雑誌によって雰囲気の違う編集会議

ジモコロとサイゾーの対談イベント

宮脇:ジモコロを見ていて気になったのが、企画の偶然性が高いと言うか、とりあえず行ってみたらネタになったって展開がよくあることでした。フェラーリおじさんの記事とか。

柿次郎:クワガタとたけのこでフェラーリ買ったおじさんですね。

参考:【伝説】クワガタとタケノコで大稼ぎ! 謎の農家「風岡直宏」はなぜフェラーリを買えたのか?

宮脇:別の取材先で、たまたま見つけたわけですよね?

柿次郎:そうです。同僚で友人のまきのくんと、朝からホーストレッキングしてパラグライダーしてカヤックして……という、一日にアクティビティを詰め込む企画があって、その取材が終わった帰り道で、よくわからない看板を見つけたので、「これは変な匂いがするぞ」と思って。

その場では取材と言わずにとりあえず話を聞いて、聞いてから「記事にしていいですか?」とお願いしたら、「もちろん!」と。話が早かったです、そのおじさんもいつメディアに取り上げられてもいいように仕上がっていたので(笑)。見つけてもらいたかったというか、「俺を見つけにきたのか、お前らは」みたいな。

宮脇:偶然取材した記事が、大ヒットしたんですね。

柿次郎:そうですね。こういう探偵ナイトスクープ感、決まりきってない感じは大事にしています。ちょっとこう、疾走感みたいなものが記事に生まれるんです。だから、あえて「偶然見つけて」という表現を記事に入れ込んだりしていますね。

宮脇:柿次郎は7割くらい自分で企画を立てると言っていましたが、岩崎さんはどうですか?

岩崎:企画はだいたい編集会議で立てて、そこからライターさんと相談して詰めていくことが一番多いんじゃないでしょうか。もちろん、宗教に詳しいとか、ファッションに詳しいとか、そういう人にはネタ出しから任せることもあります。ケースバイケースです。

ただ、無茶振りも多い。例えば、指定暴力団分裂の特集をやったときに、ちょうど五輪エンブレムの問題があって。で、分裂した暴力団2団体が同じ代紋を使っている。じゃ、それは誰に著作権があるのか、というのを記事にしたいと思ったんです。著作権に詳しい弁護士に当たっても、まあ、答えてくれない(苦笑)。ライターも「たぶん、弁護士はだれも答えてくれないですよ」って。今回は懇意にしている弁護士に匿名で答えてもらったのですが。

宮脇:サイゾーさんは、企画の持ち込みはアリなんですか?

岩崎:アリですよ。

宮脇:編集会議の作法は雑誌によって違うかもしれませんね。

柿次郎:僕はノオト時代に『R25』の編集会議に参加していましたが、それしか知らないです。

宮脇:R25は昨年の秋に紙版が休刊になってしまったのですが、私は2004年のプレ創刊号からずっと担当させてもらっていました。編集会議がちょっと特殊だったんですよね。創刊準備号の段階で編集者はリクルートの藤井大輔さんしかいなくて、もう一人アシスタントの女性がいただけ。それ以外に内部編集者が誰もいなかった。だから外部の編集者やライターを10人くらい招集していたんです。

編集会議では、あらかじめ1人10本くらいネタを出して、全部A4の紙に印刷して、匿名の状態ですべての企画を30分くらい読み込んで、面白そうな企画に○をしたり、膨らましたりしていました。最初は3時間で終わったんですけど、だんだん長くなってきて5時間くらいやっていた時代もありました。

柿次郎:いやー、長かったですね。

宮脇:おそらく、サイゾーさんの編集会議とはまったく毛色が違うのではないかと。

岩崎:うちの場合はもっと編集者の色が出る感じですね。リクルートさんのやり方は非常に合理的かつ、いわゆるマスを対象とした企画が求められているんでしょう。ウチはそうではなくて、ライターとか編集者とかの個性がもろに出るような企画が多いですから。

大事なのは「初稿に覚悟が宿っているか」 編集者とライターとの関係

ジモコロとサイゾーの対談イベント

宮脇:柿次郎はライターさんの取材に同行して、カメラで撮影もして〜と密な関係を築いているようですけど、ライターさんとの関係性はどうですか? フラットなのか、紙媒体のように編集長に権限があるのか、そのあたりは。

柿次郎:上とか下とかは考えたことがないのですが、現状はヨッピーさんとかARuFaくんのような、すでにファンがいるライターに関してはほぼ任せても大丈夫な状況ですね。

ただ、ライター不足なので、育てるじゃないですけど、職業としてライターという仕事をあまりしていない人にもお願いしているので、「一緒に食いぶちを作ろう」みたいな関係性です。

宮脇:書ける・書けないはちゃんと見ますか?

柿次郎:もちろん、ちゃんとセンスというか、最低限書けるかどうかは見ていますけど、さっき言ったような企画を1人で考えるのには限界があるので、一緒に仕事をするパートナーに近い感覚ですね。

宮脇:岩崎さんは、ライターには何を求めますか?

岩崎:求めるものは3つあって、仕事をお願いするときにネタを持っているか、原稿がとても上手いか、締め切りを守れるか。その3つのうち、2つができているといいですね。

一番いいのはネタを持っているライターなんですよ。ネタっていってもスクープのことだけではなくて、あるジャンルに特別に精通している、という意味でもあります。でも、ネタがなくても、原稿が上手くて締め切りを守れる場合には、こっちでネタを振る場合もありますし。あとはネタが尖っていて原稿が下手なら、締め切りを早めに設定して時間をかけて直すだけですね。3つとも持っているライターには会ったことがありません。週刊誌にはいるんでしょうけどね。

宮脇:締め切りを守らないタイプは多いですか?

岩崎:うーん、ウチの場合、編集者ですら守らないですから(笑)。まあ、締め切りは別にいいんですよ。締め切りを守るのが仕事じゃないので、僕は。

宮脇:(笑) 。

岩崎:内容がよければ、ギリギリまで待ちますよ。われわれの目的は雑誌を作ってそれを収益を上げることなので、そこさえ守れればいいと思っています。印刷所には本当に申し訳ないですけど、雑誌が売れないと、印刷代も払えないですから。とはいえ、限度はありますけどね。

(会場笑)

岩崎:あとは「嘘をつかない人」です。自分はあんまり被害に遭ったことがないんですけど、たまに「やった」って言ってやってないとか。「許可取ってます」って言ったのに取ってないとか。

宮脇:それは最悪ですよね。見破れない。

岩崎:性善説で、信じるしかないという。

宮脇:柿次郎はどうですか、今の話を聞いて。

柿次郎:ほとんど一緒なんですけど、単純に趣味でもいいので、好きなものがはっきりしていて、かつ2個3個とたくさんあると企画を立案しやすいですね。

ウェブの記事なので、個性が立っているとか、言い方は悪いですけど、フォロワーがいるかも重要で。ネットの感覚に長けてる1つの要素でもあるわけじゃないですか。あとは「初稿に覚悟が宿っているか」を見るようにしています。

気合が入っているのを見ると、一番気持ちいいな、と。「こんなもんでいいか」という7割ぐらいの完成度の原稿が上がってきて、「絶対スケジュールに追われて直前に仕上げているでしょ」というのが垣間見えてしまうのは嫌ですね。

岩崎:本当にイラッとするパターンですね。

柿次郎:もちろん締め切りは大事なんですけど、ジモコロで僕は常にストックを作るようにしていて。月に12本の納品だったら、追加で5本くらい動かすようにしています。そうすると、いちいち遅れても、自分にストレスがかからないので。

宮脇:ライターさんに向けて、編集者目線でのアドバイスはありますか?

柿次郎:ライターで個性を出す方法って、いろいろ言われていますが、結局僕は人に会うっていうことが一番だと思っています。1つのコミュニティに凝り固まらないとか、あとは余裕がないとダメだなって、本当に思います。

時間を作って、人と会うとか、本を読むとか、旅に出るとか。そういう習慣を自分の中に持てないと、途中で息切れする人が多いなって。ネタが出ないとか、スランプに陥るとか。

岩崎:ライターで身を崩す人を山ほど見てきたので、これでずっと生活を維持できるかどうかってことには注意してほしいと思います。ある程度の年齢で身を崩すと、本当に人生詰むじゃないですか。

金銭的な精神面の余裕っていうのは、組織に属さないと保障されないと思うんですよ。昔はメディアというか、社会に余裕があったので、家族や知人など、誰かしら手を差し伸べることができたかもしれない。ただ今は、出版社に余裕も金もないし、我々庶民も楽観視できない社会情勢です。厳しいですよね。すごく暗い話になっちゃいましたけど。

ウェブ時代の編集者のキャリアアップに必要なスキルとは

ジモコロとサイゾーの対談イベント

宮脇:ライターには「いい原稿を書けば評価される」という不文律がありますが、編集者のキャリアアップにはそれがあまりないのかな、と。どう思いますか?

柿次郎:さっきの話にもつながるんですが、「人と会うのが重要」という意識が強くなってきています。ジモコロでは、わいわいお酒を飲んでいる中で生まれたヒット企画が多いのですが、このように関わる人数が増えると、仕事の質も変わってくるのを実感します。人を巻き込めるようになれば、評価もついてくるのではないでしょうか。

宮脇:岩崎さんはどうでしょうか。

岩崎:僕の事例は参考にならないというか、会社が独立したのは大きいかもしれません。前の編集長が社長業で忙しくなって、何年か現場を任されて。だからそのタイミングで編集長になっただけで。実は、前の編集長と2人で飲んだこともないですし。

宮脇:結構、ドライな関係なんですね。

岩崎:本当に、よく驚かれます。クライアントや知人が主宰する飲み会は一緒に行ったりしますけど、サシで飲んだ記憶はないです。

宮脇:上の世代と無理に仲良くする必要はないと思いますけど、断絶してしまうのもよくないので、どうバランスを取りつつ、つながっていくかというのは、課題だと思っているんです。柿次郎は下の世代とも上の世代ともつながっているけど、コミュニケーションの秘訣はありますか?

柿次郎:うーん、そうですね。もともとバーグハンバーグバーグは外に出る人が少ない組織で。僕が出て行けば必然的にそこに情報が集まってくるっていうのは意識していました。そこで得られた何かを仕事に取り込んでいったら、社内で評価されて……というサイクルです。

宮脇:なるほど。こうして見ると、やっぱり岩崎さんと柿次郎はちょうど正反対の部分もあって興味深いです。そんな二人に、最後、「編集者の未来」というテーマで考えを聞かせてください。

岩崎:どんな職業でもそうだと思うんですけど、残る人と残らない人がいるので。だから、あんまり考えたことがないんですよね。

この業界の未来が明るいか明るくないかで言うと、紙媒体としては「明るくない」というのが本音です。でも、ウェブメディアは明るいかもしれない。そこは制作物は同じでも、媒体の体裁を問わずコミットできるか否か、人によるのではないでしょうか。たまたまサイゾーは、ウェブ制作に強い版元からスタートしたという出自があるのかもしれませんが。

柿次郎:僕はいわゆるウェブ編集者みたいな新しい肩書を名乗るようにしているのですが、ウェブ編集者がどんな仕事かというと、「いい仕事を作る役割」だと思います。企業とつながりがあり、サイト設計も自分でできて、ソーシャルで拡散できますよ、というのがトータルでできれば、食っていけるんじゃないかなと、僕は思います。

ライター交流会まとめ

ジモコロとサイゾーの対談イベント

「這い上がる」方法はそれぞれの環境や事情によりさまざまだ。しかし、第一線で活躍する2人の編集長と自分とを照らし合わせれば、自分に何が不足しているのかも映し出されるのではないだろうか。

この後、会場では質疑応答が行われ、メディア運営者の切実なお悩み相談から、まるで哲学のような問いかけがなされ、登壇者が真剣に頭を悩ませる場面もあった。その一部を参加者のTwitterから紹介しよう。

出版不況と言われ、紙媒体が苦戦を強いられる一方、ウェブメディアもまた、パクリやステルスマーケティングの問題に揺れている。現状ではやや断絶して見える両者が交流し、相互に知見を取り入れ、共存する……そんな未来も垣間見えた気がするトークイベントだった。

<おわり>

(朽木誠一郎/ノオト)