怖がり過ぎな時代を壊せ! 突破クリエイティブアワード2015

怖がり過ぎな時代を壊せ! 突破クリエイティブアワード2015
SNSの普及によって、「おもしろい」コンテンツは性別や世代、属性を問わずに拡散するようになった。ネットで高い評価を受けるクリエイティブは、多くのネットユーザーに届くコンテンツのヒントになるだろう。だが、いざ作り手側に回ろうとすると「おもしろい」コンテンツを作り上げるのは一筋縄ではいかない。「おもしろい」コンテンツとは一体どういうものなのだろうか。「おもしろくない」コンテンツとは何がどう違うのか。

「えっ、それ、どうやって通したの!?」と唸るコンテンツを表彰するアワード

そんな疑問にひとつの道筋を示すのが、ユニークなコンテンツ制作のトップランナーとして知られる面白法人カヤックとバーグハンバーグバーグが共同開催した『突破クリエイティブアワード』だ。「えっ、それ、どうやって通したの!?」と唸るコンテンツを表彰するアワードの一部始終をレポートしよう。

バーグハンバーグバーグ・シモダ氏と面白法人カヤック・みよし氏に聞く、突破クリエイティブアワードの裏側も公開中

審査基準は「それは突破しているか」 審査員の議論も白熱

突破クリエイティブアワード2015

12月3日、会場のTHE ROOM DAIKANYAMAはひと目でクリエイター、広告関係者とわかる観覧者で混雑していた。抽選に漏れた観覧希望者が150人もいたことからも、注目の高さがうかがえる。応募された作品数は150以上で、その中からグランプリ、金賞、銀賞、銅賞、審査員特別賞を選出する。授賞式にノミネートされたのは全12作品だった。

審査員は、主催2社の代表である柳澤大輔氏(面白法人カヤック)、シモダテツヤ氏(株式会社バーグハンバーグバーグ)に加え、エステー株式会社執行役の鹿毛康司氏、週刊少年マガジン編集部の川窪慎太郎氏、LIFE VIDEO株式会社代表の土屋敏男氏の5名。メーカー、出版、テレビなど、各業界から幅広く集められた。

審査基準は、「クライアントからの承認、上司の説得、炎上リスク、法律による規制など、さまざまな困難が予想でき、それらを突破できているか」、「アイデア、クリエイティブで突き抜けているか」。白熱した審査は開催の直前まで続いたという。

グランプリは、クリエイティブの力を最大限発揮したあの……

突破クリエイティブアワード2015

司会進行は電通ブルーの中川真仁氏。まずは中川氏が、ノミネート作品の説明と突破コメントを読み上げていく。例えばSPACE SHOWER TVのコンテンツ『Rock ‘n’ Roll Panty』であれば、突破コメントは以下のようなものだ。

Rock ‘n’ Roll Panty

プレゼン時に「パンティってロックですよね」と言い続け、クライアントを洗脳。その段階では、まだ実際に音圧でスカートがめくれる確証はなかったものの、長時間の検証を経てついに実現しました!

パンティはロックだろうか。そう言われてみれば、そうかもしれない。「音圧でスカートをめくる」という最新技術を駆使したコンテンツを制作する苦労がしのばれる。このように、ノミネートされたのはやはりどれも「突破」を感じさせる作品ばかりだった。そんな全12作品から選出された受賞作品をご紹介したい。

審査員特別賞(3作品)

(1) ねほりんはほりん
突破クリエイティブアワード2015

公共放送のNHKが「『プロ彼女』が男を落とした赤裸々なテクニック」などの下世話なぶっちゃけトークを、お得意のかわいい人形劇の形式でお届けするトークバラエティ。担当者は「みんなが本当に知りたいことにこそ公共性がある」というロジックで突破したことを明かした。

1/3には第二弾が放送されている。ちなみに、この番組の詳細については、NHK上層部にちゃんと説明していないらしい。

(2) ハトに困ったら雨宮

ハトに困ったら雨宮

クリエイターの精神状態が心配になる怪作。「ハトに困ったら雨宮」のワンフレーズを認知させる圧倒的なパワーを秘めている。CM以外にも、ハトの糞まみれになったサラリーマンのオブジェを街中に座らせ、傍らにQRコードを置き、特設サイトに誘引する手法を展開したという。

「この会社は自由だな、というイメージが広がり、中途採用志望者が増えた」とは、担当者の弁。株式会社雨宮の社長も喜んでいたそうだ。会場で動画を再生したところ、爆笑する参加者と真顔のまま固まる参加者にはっきりと分かれていた。

(3) シャープ株式会社、゜の消失

突破クリエイティブアワード2015
あり得そうであり得ないウソ記事をインターネットに公開する「虚構新聞」が、経営不振のシャープを風刺した『シャープが社名の半濁点(゜)を売却』を公開した。これを受け、シャープのTwitter公式アカウントが、アカウント名を『シャーフ』に変更。これがネットで大ウケし、テレビに取り上げられるほど大きな話題になった。

アワードにはなんと、シャープ公式アカウントの「中の人」が登場。穏やかな印象の男性社員から、「クビになる覚悟はしていた」という決意だったコメントが飛び出すと、会場からは大きな拍手が巻き起こった。

銅賞 ロマンシング佐賀2

スクウェア・エニックスの名作ゲーム『ロマンシング・サガ』と佐賀県のコラボ企画。公式サイトでは、懐かしい操作感で佐賀県を舞台に冒険するコンテンツも用意され、「知事が倒れる」という演出でも話題になった。

企画立案をした担当者は、なんとこのゲームを36回クリアするほどやりこんだ「原作ファン」だったという。

銀賞 Canon with Body Builders

Canon with Body Builders

マッチョなボディビルダーたちがキャッキャウフフとCanonのカメラで写真を取り合う、ただそれだけでありながら、何とも微笑ましい作品。ボディビルダーたちに特に演技をしてもらうことはなく、ただ彼らにデジカメを渡しただけでこのような作品が出来上がったそうだ。

キヤノン株式会社の広報担当者は「うちの会社は真面目な会社でして、企画を通すのは至難の業だったんですけど、当惑する上役には『今回の対象は18歳から34歳、かつグローバル広告。あなたたち(社内)がターゲットじゃないんです』と言い張りました」と語った。

金賞 シンフロ

シンフロ

大分県を「おんせん県」としてPRするために、元日本代表選手が率いるプロのシンクロチームが、温泉内でシンクロを披露した動画。入浴方法のマナーからすればタブーではあるが、「絶対に真似できないくらいスゴイものを制作し、エンターテイメントの域まで昇華する」とプレゼンした結果、「突破」できたという。

大分県は過去にプロモーションが炎上したことがあり、県の担当者自ら、「炎上時のノウハウはある」と言い切る一幕もあった。

グランプリ ンダモシタン小林

ンダモシタン小林

「もう一度観たくなるCM」として大きな話題になった宮崎県小林市の移住促進PRムービー『ンダモシタン小林』が、突破クリエイティブアワード第1回グランプリに輝いた。

巧妙な仕掛けによって、最後までミスリードに気づかせない展開は秀逸の一言。審査員からは、クリエイティブの力で小さな地方都市を一躍有名にしたことが評価された。

しかし、グランプリを受賞した『ンダモシタン小林』は関係者がひとりも会場にいないというハプニングが発生。

突破クリエイティブアワード2015

結局、受賞者は電話で登場し、トロフィーの代わりに会場から大きな拍手が贈られた。電話で語られた突破のポイントは、「とにかく市長と飲んだ。『市長サイコー!』って言った」だった。

突破クリエイティブアワード2015

今回、惜しくも受賞を逃した作品も、心から「その企画、よく通したな!」と思うものばかりだった。詳細は公式サイトにて、ぜひご確認いただきたい。

座談会では「突破」コンテンツに必要な条件についての議論も

突破クリエイティブアワード2015

グランプリの表彰に引き続き、5人の審査員による対談が行われた。このアワードで表彰されるような斜め上の企画は、どのように実現されるのか。

『電波少年』に代表されるように、数々の人気テレビ番組を制作してきた土屋氏は、斜め上の企画を実現するために、何よりもまず突破しなければいけないのは「自分」であると指摘する。

「『突破する』というのは、めんどくさいんです。『ああ、あいつがこんなことを言うかもしれない』『あの人に断っておこう』なんて悩むくらいなら、最初から突破しないほうがラク。ラクをしようとする自分と、もっとおもしろいことがやりたいんだっていう自分との戦いじゃないですか。そこで勝ったヤツが第一歩を踏み出せる」 (土屋氏)

ユニークな企画に前例はない。前例があるものに似せれば、その企画はクライアントに通りやすくなるだろう。しかし、それは「突破」したのではなく、当初思いついた企画よりもインパクトが薄いものになってしまっただけである。

「面白い企画にクライアントが『GOを出す』というと共犯っぽく聞こえますが、実は主犯なんです。クリエイター側が共犯でね。主犯と共犯が一緒に、楽しい犯罪を犯している。いや、実際は犯罪じゃないんだけど(笑)。だから、クリエイターの自己満足ではなく、クライアントの商売を上手く宣伝できている企画というのは、この共犯関係が成立していると言えます」(鹿毛氏)

突破クリエイティブアワード2015

「本当は納得していなくても、それらしい大義名分に騙されたフリをしてくれる共犯関係は素敵ですよね。道を一緒に作りながら、『危ない、逃げろ!』『よし、ここはバレないように動かすからコッソリ通れ』みたいに、クライアントと阿吽の呼吸ができると突破しやすくなります」(シモダ氏)

この共犯関係を成立させるためには、クリエイター側にも入念な準備が必要だ。バーグハンバーグでコンテンツ制作をするときには、「事前に逃げ道を確保しておく」そうだ。

「上司だったり世間の目だったりに対して、あらかじめ逃げ道を用意して相手を安心させてあげられるかどうかも大切です。『こんなことを言われるのは想定していますよ。でも、それはこうかわしましょうね』と。バーグがモノを作るときには、そこをよく考えながらアイデアを出して、それから提案するようにしています」(シモダ氏)

突破クリエイティブアワード2015

『進撃の巨人』など有名作品の担当である川窪氏は、突破するかしないかの最後のひと押しになるものは「愛」だと断言した。

「すごく月並な言葉になってしまうけど、『愛』という要素はかなり大きいと思っていて。僕は仕事柄、プレゼンする側、される側どっちの立場になることもあります。やっぱり、商材や企画への愛を感じれば、どんなに斜め上のアイデアでも、一緒になって実現したいと思えるので」(川窪氏)

その上で、川窪氏は「『おもしろい』を思いつくまでは、実はそれほど難しくないんです。それを実現させるためにどれだけ努力できるかが重要」とも語った。

「突破」を実現するまでの道のりは平坦ではない。数々の困難を乗り越えるまで、クリエイターはそのモチベーションをどう保てばいいのだろうか。

「突破して大成功することもあれば、大失敗して意気消沈することもある。でも、少なくとも突破した人にしか見えない世界がある。だから人間は突破をしたくなるのだと思います」(柳澤氏)

面白法人カヤックが掲げるのは「日本的面白コンテンツ事業」。どこまでも主観で明確な基準がない「おもしろい」の評価と、有言実行のスタンスで向き合い続ける理由を垣間見ることができるコメントではないだろうか。

突破クリエイティブアワードがウェブにもたらす未来とは

授賞式の閉会挨拶で、バーグハンバーグバーグ代表のシモダ氏は「この賞をずっと、10年くらい続けていきたい」と語った。

「この突破クリエイティブアワードを言い訳にしてほしいんです。今って、何でも炎上、炎上って、怖がり過ぎな時代になってしまっているでしょ。そのせいで、上司やクライアント、放送コードや社会常識を突破しにくいと感じるし、それ突破しようとする勇気も出なくて、考える前に諦めてしまう。これって、おもしろいコンテンツが世の中に出て行くチャンスを逃している気がしますよね」

突破クリエイティブアワード2015

「そうやって悩んだときや、逆に『尖りすぎてヤフークリエティブアワードを獲れないんじゃないか』って思ったときでもいいんですけど(笑)、突破クリエイティブアワードなら獲れるんじゃないかと思ってほしい。企画を提案するときに、『アレなら獲れますよ! だから、もうちょっとだけふざけてみませんか』ってアクセル踏めるように、言い訳というか、勇気出してもらえるような賞になればうれしいです」

突破クリエイティブアワード2015

斜め上のコンテンツを制作するための「言い訳」というアクセル。シモダ氏は「そのためには、もっともっとこの賞が権威になっていくといい」と続けた。

「バーグハンバーグバーグって、ギリギリなコンテンツを作ることが多いんですけど、未だに何の賞も獲ったことがない。だから、突破クリエイティブアワードは『こんな賞あったらいいのに』って、自分たちが一番獲りたいと思う賞なんです。それくらい思い入れのある賞で、本当にこの賞が、世のクリエイティブをもっとおもしろくするようなきっかけになったらいいなと思ったりしています」

数多くのハイレベルな突破クリエイティブ作品、そしてその制作過程を見聞きしてわかったのは、抜きん出て「おもしろい」ものは本当にユニークで、再現できないということだ。ただし、数々の関門を突破してきたこれらの手法は、後に続くクリエイターたちがオリジナルの「斜め上」のアイデアを思い付いたときに、それを世に出す強力な後押しとなるだろう。

未来の『突破クリエイティブアワード』では、どんなアイデアが上司やクライアントを突破し、人々の想像の斜め上を行き、たくさんの「おもしろい」を生み出しているのだろうか。早くも水面下で来年の受賞を狙った企画が動き始めることに期待しつつ、2016年の同アワードを楽しみに待ちたい。

(取材・文)朽木誠一郎/ノオト


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