業務委託契約の契約書で注意すること

業務委託契約の契約書で注意すること
契約書に判をつく、ということは、その内容を完全に理解して、合意した、とみなされます。後になってから勘違いに気づいて、「そんなつもりじゃなかった!」といっても、簡単には取り消せません。ここでは、契約締結について、気を付けるべき点を押さえておきましょう。
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契約書は1通?それとも2通?

契約書は、その契約の内容によって、1通で差し支えない場合と、本来的には2通作って、両者が1通ずつ持つ方が良い場合があります。※「業務委託契約とは何か」参照

「一方的に何かをしてあげる」という内容な場合は、「してあげる側から、してもらう側に1通契約書を差し入れる」という方法で事足ります。

この場合は、一方的にしてもらう側が、約束を守ってもらえなかったときに、書面を相手に提示して請求できれば良いからです。こういう書面を「差し入れ式」などと呼んだりもします。

PTA会議の委任状も、広い意味では差し入れ式の契約書ですし、フリーランスの場合は、著作権譲渡契約書や、「再利用をしません」と記載した「念書」などもこれに当たります。

他方、「両方がそれぞれ異なる義務と権利を持つ」という契約では、契約書が1通では不公平です。これでは、当事者の片方だけが、自身の権利を主張できる証拠を持ち、もう片方はナシ、という状況になってしまいます。

例えば依頼人と、ランサーの間に業務委託契約が結ばれて、納期や支払方法、著作権譲渡、万一不払いが生じた場合の特約などが記載された契約書が作られたとします。

これに、両者の住所氏名が印刷されていたとしても、自筆署名と捺印をしたのが、ランサーだけだったとしたら、依頼人は、「契約書に合意した事実がない」ということになってしまいます。

万一、報酬の不払いや、一方的な条件変更などが発生して、ランサーが依頼人に「契約書と違う!」と訴えたにしても、「そんな契約書に署名はしていない!」と言われてしまうと、依頼人には逃げ道がありません。

反対に、ランサーが、依頼人との契約をたがえたときは、依頼人はすぐさま「契約と違う!」と苦情を述べ、改善がされないときは、契約書を盾に、一方的に支払を止めることも出来てしまいます。

著作権譲渡の特約をつけていたら、問答無用で、著作権はランサーから依頼人に譲渡されます。そのほか、契約書を盾にとって、事実上の雇用契約を請負契約に見せかけて、労働基準法違反の雇用をしたり、実質的には違法な人材派遣にあたるものを誤魔化したり、という事例もあります。

請負の内容が含まれた業務委託契約ならば、双方が署名捺印をした契約書を1通ずつ持つべきでしょう。やむを得ない場合は、契約を交わした後日に証明できるように、メールなどをプリントアウトして保存しておくとよいでしょう。

また、実務では、契約書が複数にわたるときは、各ページの上部に両者の割り印をして、ページが連なっている一体のものであることをわかるようにします。

契約書を2通作成するもう一つの意味は、「勝手に加筆訂正をされないように」という点もあります。もし、一方が自分の書字する契約書に勝手な加筆訂正を行っても、もう一方が訂正されていなければ、勝手に書いたものだと証明できます。

差し入れ式の書面で注意すること

フリーランスで仕事をして、成果物を提出したときに、よく「同意書をお願いします」などの話がされることは多いと思われます。

書面の表題は、いろいろなものが使われていても、これらは基本的に「差し入れ式の書面」であることには違いありません。

つまり、当事者の一方が、相手に対して一方的に何かをしてあげることを定めた約束ということになります。成果物の使いまわしを禁止する条項や、著作権を委譲する契約であることが多いようです。

このような差し入れ式の書面では、「一方的に何かをしてあげる」ということを念頭に置いて、自分にとって不条理な納得できないような内容が入っていないか、十分に精査してから署名捺印をしましょう。

いったん署名捺印してしまうと、取り下げることが難しい可能性があります。もちろん、業務委託契約に限らず、白紙委任状などは、絶対に控えるべきです。

「捨印」「白紙委任状」に注意!

契約書の捺印をするときに、最も注意すべきは「捨印」です。契約書類の上部や側部の余白に、何も書いていないところへ押す捺印のことで、不動産契約書や登記申請書、委任状などでも、稀に見かけます。

これは、本来的には、契約書面に訂正や加筆が必要になったときに、訂正印として押すものです。捨印にかかるように「○文字訂正」などの書き込みをし、訂正・加筆が行われた部分を双方が確認して、それから捺印するのが本来の方法でした。

しかし、委任状を出して、司法書士や行政書士など「士業」の方に契約書面の作成をお願いする場合などは、軽微な誤字脱字程度の訂正が発生したときに、その都度ご本人に印をついてもらうのでは、業務の進行に支障が出る心配があります。

何より、資格者として委任状を受け取っているわけですから、その範囲で訂正を代行できる権限があります。そこで、実務上は訂正が発生した時に備えて、捨印を押しておく、という方法がとられています。

つまり、捨印は、委任状を出した相手に対する信頼関係が基礎にあるから、押しておいても安心なのです。加筆や訂正をされたくないのであれば、捨印は絶対に押しておいてはいけない、ということです。

特に、差し入れ式の書面や、白紙委任状に捨印や署名捺印をすることはやめましょう。勝手に何を書かれても確認できませんし、印が付いている以上、他人が勝手に書き込んだ内容であっても、法律上は有効とみなされてしまうからです。

フリーランスになったら、様々な「書面」に押す印は、相応の責任が伴ったもの、と意識して理解を深める必要があるといえます。

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