103万円から150万円の壁に?税理士さんに聞く配偶者控除の話

103万円から150万円の壁に?税理士さんに聞く配偶者控除の話
平成30年度から配偶者控除の103万円の壁を150万円の壁に引き上げる税制案が出されました。最近出現した社会保険の106万の壁など、色々な制度がある中で結局まとめるとどうなるのでしょうか。フリーランスや在宅ワーカーでも知らないと損する税金の話を、現役税理士さんに解説してもらいました。
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103万円の壁が150万円の壁に引き上げ

税理士:黒田悠介
税理士資格取得後、税理士法人山田&パートナーズで主に資産税、事業承継業務に従事。三井住友銀行への出向の後、M&Aアドバイザリー業務を中心とするTrusteesを経て、税理士法人Bridge 東京事務所所長に就任。スタートアップ企業の内部構築・資金調達から大規模M&Aアドバイザリー、資産関連コンサルティングを得意としています。

12月8日に平成29年度与党税制改正大綱が公表されました。そこで目玉とされていた「配偶者控除・配偶者特別控除の改正」についてまとめていきます。

「配偶者控除の150万円の壁」と「社会保険加入の106万円の壁」についてと、これらが生活にどう影響するのか解説します。

壁が高くなる!?拡大される配偶者控除 高所得者世帯は増税へ

それではまず、「配偶者控除・配偶者特別控除の改正」について解説します。

現行では、妻の年収が103万円以下であれば、夫は「配偶者控除38万円(地方税は33万円)」という所得控除が受けられ、妻の年収が103万円を超えると「配偶者特別控除」により141万円まで逓減的(ていげんてき:次第に減っていくこと)に所得控除を受けることができました。

税金の軽減額は夫の税率を乗じたものとなるため、実際には数千円~20万円程となります。

※103万円を上限として受けられる配偶者控除は、給与所得を得ている場合を対象としています。配偶者がフリーランスなど「給与以外の収入」である場合は、給与所得控除に該当しないため、38万円(基礎控除額)が配偶者控除を受けられる所得の上限となります。

さて、これがどう変わるのでしょう。

平成29年度の税制改正大綱では、平成30年度から38万円の控除が受けられる妻の年収制限を150万円(フリーランスなどの場合は85万円)以下に引き上げ。年収が150万円を超えると、201万円まで逓減的に控除が受けられるよう適用対象範囲が拡大されると記載されています。

従って、従来の「103万円の壁」が「150万円の壁」へと姿を変えることになりそうです。
配偶者控除の年収が150万円の壁に引き上げ

※夫の年収が1120万円(所得900万円)以下の場合

また、新制度からは夫の年収が1,220万円(所得が1,000万円)を超えると配偶者控除が適用できなくなるため、高所得者世帯はますます負担が重くなります。夫の年収が1,130万円(所得が900万円超)から1,220万円(所得が1,000万円)の間は控除額が38万円よりも少なく段階的になります。

なお、税制改正大綱は与党がまとめた方針であり、例年翌年1月に予定されている通常国会での可決をもって確定となることを申し添えます。

(参考)配偶者控除
(参考)配偶者特別控除
(参考)平成29年度税制改正大綱

社会保険の106万円の壁とは異なります!

続いて106万円の壁「社会保険の加入条件」について解説します。

配偶者控除の見直しと同じように話題を呼んでいたのが、社会保険(健康保険・厚生年金)の新たな「106万円の壁」。これは法改正によって2016年10月から新たに社会保険の加入対象となった、短時間労働者の年収額となります。

いままでは「130万円の壁」とされていた社会保険の加入条件がありました。これは妻の年収が130万円以上だと夫の扶養から外れ、ご自身で社会保険を負担することになります。それが2016年10月から、短時間労働者として以下の条件を満たす方は年収106万円以上で新たに社会保険への加入義務が発生することになりました。

以下の条件を満たす短時間労働者は「130万円の壁」が「106万円の壁」に引き下げられたのです。

短時間労働者の定義
  • 従業員が501人以上である「特定適用事業所」で働いている
  • 週の所定労働時間が「20時間」以上
  • 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)
  • 雇用期間が「1年」以上見込まれる
  • 「学生」ではない

配偶者控除は「103万円の壁」から「150万円の壁」へと適用対象範囲を拡大し世帯の手取り増加を図っているのに対して、社会保険の加入対象範囲が広がったことで、妻が上場企業に勤めている共働き世帯など負担が増えるケースもあります。

フリーランスの方は短時間労働者に該当せず、今回の社会保険の改正の対象には該当しないことになります。

社会保険の適用対象範囲の拡大についてはここまでとします。それでは次で妻が従業員500人以下の企業で勤める場合やフリーランスの場合に、夫婦合計の世帯手取りがどうなるか具体的に見ていきましょう。

(参考)厚生労働者 社会保険の適用拡大

150万円の壁になった時の、金額別の考慮するべきポイント

150万円の壁になった時の世帯手取り額

夫:年収500万円 妻:130万円から社会保険加入の500人以下企業勤務もしくはフリーランスの場合の図です。
青色は現行制度での世帯の手取り額の合計、赤色は新制度での世帯の手取り額の合計です。
夫年収500万円、妻年収129万円の場合は、世帯手取り合計額は現行制度は520.2万円、新制度は524.7万円になります。

上図は妻の年収別による夫婦合計の世帯手取り額となります。

妻の収入が129万円までは社会保険加入対象外なので、妻の収入増加にあわせて世帯手取り額が増加します。妻の収入が130万円を超えたとたんに、社会保険加入による負担が発生し、世帯手取り額は、妻の収入が100万円のときとさほど変わらなくなってしまいます。

試算上、129万円のとき以上の手取りにするためには妻が160万円収入を得なければいけなくなりました。

配偶者控除の「103万円の壁」が「150万円の壁」へ移行しても、その間には社会保険の「130万円の壁」(社会保険の改正に該当する短時間労働者は「106万円の壁」)が立ちはだかるからです。

夫の税金負担が軽減されても、妻が新たに社会保険に加入し、夫婦合計の世帯手取りが減少してしまっては意味がありません。

今回の配偶者控除の改正で妻の働く時間を増やそうと考えている世帯は「150万円の壁」をあまり意識する必要はなく、妻の収入が130万円を超えるなら160万円以上を目指した方がいいといえるでしょう。

今回の配偶者控除・配偶者特別控除の改正により、今まで妻の年収が104万円~201万円だった世帯は現状維持でも手取りは増えますが、それは数千円~数万円(多い方で8万円程)にとどまります

日本経済全体で人手不足が強まっていく中、主にパート労働者が就業調整を意識しなくて済む仕組み作りのために導入された今回の改正ですが、税制面の改革だけではまだまだ十分なものとは言えそうにありません。

与党は税制改正大綱のなかで「個人所得課税改革の第一弾であり、今後も改革を継続していく」と述べています。

今後の改正動向に着目していく必要がありますが、まずは「130万円を超えるなら160万円以上」と覚えておく必要がありそうです。



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