人気Webライターに訊く、数字を取るノウハウと文章トレーニング術

人気Webライターに訊く、数字を取るノウハウと文章トレーニング術
ひとみしょう氏は人気コラムを多数抱える売れっ子Webライター。作詞家、コピーライターの肩書を持ち、小説も発表するなどマルチに活躍中です。ランサーズを筆頭に、Webライターとして活動を始めてからは「書いたものがすべてヒットした」と振り返る、氏のライティング・テクニック、書き手としての心構えに迫ります。
LANCER SCORE
57
【 より理解を深めるために、過去の記事にも目を通してみてください! 】
人間を描き続ける恋愛コラムニスト

 

インタビューの前にすべて回答!? 人気ライターならではの気配り

現在10本近くの連載を抱えているという、ひとみ氏。中でも小学館の女性向けWebメディア『Menjoy!』では、サイト内最多ランキングのライターに贈られるMVPを年に4度も受賞している。ちなみに同サイトはアクセス数に厳しく、数字の稼げないライターはクビになってしまう時代もあったそう。

取材前、氏に今回の取材の質問項目をTHE LANCER編集部経由で送ったところ、わずか数時間ですべての項目に対し丁寧な回答が送られてきた。実に約3,000字のボリューム。筆者はこれまでも多くのインタビュー相手に質問項目チェックをお願いしてきたが、NGな質問への指摘はあっても、あらかじめすべて文章で回答をいただいたのは初めてだ。

多忙であっても、相手の求める情報を過不足なく、かつスピーディーに伝える‐。氏が人気Webライターとして活躍を続ける理由の一端を見た思いがする。

人気webライターひとみしょう氏が、自身の経験から培った文章力を高めるノウハウについて語ってくれました。

たくさん書き、たくさん直された者が勝つ

Menjoy!表彰状

小学館 『Menjoy!』サイト内で最高アクセスを記録したライターに進呈されるMVP賞をひとみ氏は過去4度も受けている。

‐‐ひとみさんは作詞家、そしてコピーライターとして活動し、2011年にWebライターへ転身されました。常に「書き手」という仕事を選び続けた中で培った、文章力を高めていくノウハウを教えてください。

たくさん書くことはもちろんですが、たくさん直すことの方が大切なんです。

作詞を学んでいた頃や、広告代理店に勤めていた時、書いたものを先生や先輩に読んでいただいて直すという作業を500回も1,000回も繰り返しました。

僕自身がWebメディアの編集者として、若いライターを育成する立場になった時もそうでした。これまで40人ほどのライターを育ててきましたが、文章の欠点をアドバイスした時、素直に何度でも修正に応じてくれる人は伸びます。他人の指摘を嫌う人は自然にライティングの世界から去っていきます。

たくさん勉強することで、自分の強みや武器が自然と見えてくるんです。どんなセンスの持ち主も、数をこなした人には勝てません。僕自身、今も知人の大学教授に小説の添削をお願いしています。40代も半ばになりましたが、学び続けることを止めようとは思いません。

集中力で「雰囲気」を「言葉」に変える

取材中のひとみ氏

‐‐ライター業をスタートさせた直後は月に800記事というハイペースで執筆されていたそうですが、早く書くためのコツはあるのでしょうか?

集中できるタイミングを作ることです。書きたいものの「雰囲気」という微妙な存在を文字に変えていく作業は、集中していなければできません。僕の場合、最も集中できる時間帯は朝4時に起きてからの5時間くらい。朝の訪れを眺めながら仕事するのもいいものですよ(笑)。

4時起きで仕事を始めるには、前日の夕方からスケジュール調整する必要があります。取材を入れないようにしたり、お酒を1滴も飲まないようにしたり。付き合いの席であっても、仕事とあれば断る決意も必要になってきます。

‐‐アクセス数を取るために必要な作業を教えてください。

まず競合サイトのランキングを見ることです。タイトルだけをざっと見れば、だいたい書いてある内容が分かります。

あとはタイトルのキーワードをもとに、切り口やテーマ、メッセージなど、書きたいことの「雰囲気」を出していきます。その「雰囲気」を集中力で言葉に置き換えていくわけです。

Googleのサジェスト機能を最近知ったくらいなので、検索で上位にくる書き方を特別に意識しているわけではありません。SEO対策って結局のところ、人々の素直な思考の流れのことだろうと思っています。この情報が来たら、次に人はどんなことを知りたいか…とか。人々の自然な思考の流れを考えた方が、SEO的にもいい文章になるように思います。

近所の人にも、読者にも愛される書き手へ

指揮者・佐渡裕氏のサイン入りCD

クラシック指揮者・佐渡裕の魅力を「パワーがあふれ、表現したいことがはっきり分かるところが好き」と語るひとみ氏。

‐‐恋愛系のコラムではたくさんの男女のユニークな本音を紹介されています。どうやって取材対象者を見つけるのか、彼らからいかに本音を引き出すのか、ポイントを教えてください。

近所の居酒屋やスナックへ飲みに行くだけで、人の集まる場所を求めて出かけることはありません。人は基本的に自分の話を聞いてほしいのでしょう。普通に人間くさく、飲んで食べてしゃべっていれば、相手の方から本音をバンバン言ってくれます。

‐‐本音を引き出すには、お酒の力だけでなく人の胸襟を開かせる技術も必要ですか?

みんなに愛される人を目指せばいいのではと思います。近所の人にも、読者にも愛されている書き手というのが僕の理想なので。Webに書く以上は「Google先生」にも嫌われるより好かれたほうがいいでしょうし。

‐‐では、意図的に反感を買う文章でアクセス数を稼ぐ、炎上商法のような手法についてどう感じられていますか?

たとえ炎上や読者を煽るスタイルで注目されたとしても、それは一発屋ですよね。「有名になりたい」という書き手の願望ばかりが先に立っていて、気持ちが読者に向かっていない。読み手に伝わるものを作ろうという意識を持って努力していたら、炎上を狙うなんて発想は出てこないと思います。

‐‐書くこと以外に文章力を磨く方法はありますか?

一流と呼ばれるアーティストの作品に触れることでしょうか。

クラシックが好きで、よくコンサートに足を運ぶのですが、2年前、あるオペラを観た時に激しい衝撃を受けました。一流の指揮者、一流の演者による舞台だったからこそ感じられた衝撃でしょう。以来、音楽であれ、絵画であれ、文章であれ、優れたものには一種、神がかったパワーがあると信じるようになりました。

その人のパワーを感じることが自分のエネルギーになりますし、良し悪しを判断するものさしもできあがってくると思っています。

(おわり)

【ひとみしょう】

1975年香川県生まれ。松任谷正隆主宰・マイカミュージックラボラトリー(作詞)卒業。独学で広告プランニング・コピーライティングを学び、大手広告代理店と協業で複数のナショナルクライアントのプロジェクトに従事。2012年、専業文筆業になる。小学館 『Menjoy!』 での連載(13年7月まで/同編集部よりMVP賞4回受賞)を経て、『ANGIE』編集長に就任(2014年7月まで)。現在、『愛カツ!』『街コンジャパン』など多数の連載を抱える。
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