複業時代到来!複数の名刺をもつ生き方~安藤美冬さんと考える複業の時代~
2枚目の名刺ってなんだ?複業、パラレルワーク
8月22日(土)、文化の発信地・代官山蔦屋書店で開催された、トークセッションの様子をご紹介します。テーマは『”複業”時代の到来 2枚目の名刺を持つ生き方とは?』。
これまでの『ひとつの会社でひとつの職に携わる』という働き方から、『複数の仕事を手がける複業』という選択が可能になった現代。メデイアでは、「複業時代の到来」と紹介されることが増えてきました。
どのような背景で複業という選択が可能になったのか。複業とはどのような働き方なのか。ノマドワーカーとして注目される、安藤美冬さんをゲストに『複業時代の到来』についてトークセッションを行ないました。
※トークセッションの全容を書き起こしでお届けします。
テーマ:『“複業”時代の到来 2枚目の名刺を持つ生き方とは?』 代官山蔦屋書店トークセッション |
---|
■ パネラー ・株式会社スプリー 代表取締役 安藤 美冬 ■ モデレーター ・ランサーズ株式会社 代表取締役 秋好陽介 |
複業の実践者。安藤美冬さんにその働き方を聞く。
秋好:トークセッションのモデレーターを勤めさせていただきます、ランサーズの秋好です。
本日、行なうトークセッションのテーマは『”複業”時代の到来 2枚目の名刺を持つ生き方とは?』。1つの会社で1つの仕事をするのではなく、異なる様々な仕事をしながら生活をする。
そんな複業が昨今、注目を集めています。そこで、ノマドワーカーとして一躍注目を集めたフリーランスの安藤美冬さんをお招きし、今話題の複業についてトークセッションを行ないたいと思います。
まず、安藤さんの最近のお仕事について伺いましょう。
安藤:去年までの私は大学(多摩大学)で専任の仕事をしていたので、土日含めると週5日間は大学に行っていたんです。かなり多忙なスケジュールで仕事量も多かった。
そこで、今年はスケジュールをちょっと緩めました。ずっと前からやりたかった働き方というのが、日本各地だけではなくて、海外と東京を行き来しながら仕事をやること。
10代の頃からの自分の目標であり、夢だったんですね。ただ、今まで私には文章を書いたり、発信すること以外に英語ができるわけでもなく、それがすぐにお金になる仕事とは思えませんでした。
なので、3年間はまず国内で実績を出して、フリーランス4年目から海外に出て行く準備をしていこうということで…..今、2年目になります。去年はジャカルタとかシンガポールとかあちこちに自腹をきって行ってきました。
秋好:何をしに行っていたんですか?旅行?
安藤:それはね。本当に旅行。全然、視察とかいうわけではなくて、海外で起業している友人を訪ねたり、現地で流行っている文章を見たりとかそんな感じ。でも、その様子をFacebookとかブログで発信していくうちに、雑誌とかWebの連載枠をいただくようになったんです。
さらにその連載枠で紹介してもらえれば海外にご招待しますよというお声もあって。アメリカのGoPro社とか、7月にはハワイに行ったりしました。アメリカのGoPro社はカメラメーカーで、日本・韓国・中国のメディア内の日本のインフルエンサー代表というかたちでアメリカに行かせていただきました。
ちなみに、GoProの操作が私には難しくて、未だに使い方が分かっていません。
その他だと旅行代理店とのコラボ企画で、ブータンにツアーして連載として掲載していきます。テーマは「ブータンの幸せを考えよう」というもので、来週くらいには掲載される予定です。
来年は内閣府から依頼をいただいて、全部英語でやる仕事に挑戦します。もう、今は休みさえあればずっと英語の勉強。
ちょっと大変ではあるんですけれど、海外で自分の名前で仕事をするっていうことが少しずつ掴めてきたかなといった感じではあります。最近、英語の名刺も作りましたし。
秋好:Mifuyu Andou?
安藤:そうですね。肩書きはライターとかスピーカーって書いています。
秋好:まさに今日のテーマが、複数の名刺を持ち、いろいろな仕事をするということ。今の安藤さんのお話であったように海外に行ったり、大学の仕事をしていたり、内閣府からの仕事があったりという風にです。そこで、安藤さんに質問なのですが、簡単にいうとどんな括りの仕事をしているんですか?
安藤:すごく簡単に説明すると、「知的生産系」の仕事ですね。
秋好:もう少し、具体的に説明すると?
安藤:「知的生産」という言葉はもともと存在する言葉ですが、文章を書くとかコンサルティングをするなど、頭の中にあるアイデアをお金に変えていく仕事です。
毎月契約をしているものだと、国土交通省さんや内閣府さん、女性美容系メーカーやヘルスケアメーカーさんなどです。商品開発の前段階で、トレンドとかマーケット調査をするために、有識者の一人として「最近ではこういうものが流行ってる」とか「生活スタイルはこのように変化すると思います」などのアドバイスをしています。いわゆる、コンサルティングのお仕事ですね。それが、全体の20%くらいを占めます。
割合を一番多く占めるのは、文章を書く仕事です。ただいまで単著の書籍が4冊、共著が1冊、コラムが6つ。これが全体の40%くらいを占めます。あとは、去年の話ですが大学の専任講師をやっていたり、ブランドさんと一緒に商品開発をしたり、イベントや広告に出たりですね。最近ではイタリアのFIATという車の広告に出たりなど。
秋好:広告に安藤さんが出たんですか?
安藤:はい。自分で出ることが多いです。あとは広告を作るというオファーもあったり、今は本当にいろいろなことに取り組んでいます。
秋好:テレビの仕事もやっていますよね?
安藤:テレビ(地上波)はずっと出ていなくて、BSテレビだけでした。なので、BSテレビに限定してトーク番組や報道番組に出ていました。
秋好:それはあえてBSに絞ったんですか?
安藤:そうですね。もう、私が地上波で言うことは無くなっちゃったなと思って。で、ずっと断っていたんですが、来月、ある民法の特番は久しぶりに出ます。
芸人の友近さんと一緒に。芸能人の方たちと一緒に出演する番組なので、大丈夫かなと不安もありますが。
秋好:地上波に出るってのは、どんな心変わりがあったんですか?
安藤:心変わりというわけじゃなく、テレビ局のお誘いいただいた方が、昔からお世話になっている方だったので。
秋好:なるほど。ご縁があってということですね。それは番組が楽しみですね。
会社の寿命が人の寿命より短命になる社会 | 複業の波は徐々に広がっている
秋好:今日のトークセッションのテーマは「複業」ですが、いわゆる一般的な「副業」ではなく、「複業」の意味でトークセッションをするのは日本初なんじゃないかなと思います。
安藤:本当ですか?
秋好:僕はエンジニア出身で”ググり力”があるので、多分本当だと思います。
さて、本題に戻りますと、今までは多くの企業の間で複業が禁止されていました。ですが、最近になり複業を認める会社が多くなり、空気感は変化しています。例えば、サイボウズさんでは複業は認められています。
今までは正社員だったらできなかったことが、複業が認められることによって、新しい夢にチャレンジができるのです。さらに逆の例でいうと、専業禁止の会社も生まれてきました。「自分の会社の仕事だけしていたら雇わないよ」といった感じで複業にすることで、社外の情報・ノウハウが手に入るメリットがあるのだとか。まあ、極端な例ではありますが。
安藤:すごく「今さら!?」って感じですね。私は5年前からずっと言ってきたことなので、ようやくこういう時代になったんだなと感慨深く思います。
秋好:安藤さんがフリーランスになる前の会社って複業禁止でしたよね。
安藤:禁止でした。その代わり、会社を辞めてフリーランスになった時は「2つ以上の仕事、2つ以上の肩書きを持とう」と決めました。こういう時代がいずれ来ると思っていたので。
私の場合は「複業」という言葉よりも「パラレルキャリア」っていう言葉を現代経営学の父「ピーター・ドラッカー」の著書を読んで知ったんです。著書の中でドラッカーは、「会社の寿命が人間の寿命より短命になっていく」と。同じ会社に一生しがみつくとか、1つの会社で働き続けるということは、本人が望もうとも望まざるとも難しいよと。
秋好:いずれ世の中はそうなると?
安藤:これをきっかけに「パラレルキャリア」という言葉を知って、ピンときたんです。
秋好:まさにその話ではないですけども、今の赤ちゃんの半分以上は今存在しない仕事に就くって言われてますもんね。僕らが望もうが望ままいが、世の中はドラッカーが言うような変化を見せていますもんね。
安藤:先ほどの仕事の話は大事なので補足しますね。確か、アメリカのデューク大学で、今のアメリカの小学生が大学を卒業する時には、全体の65%の子が今はない仕事に就いているという研究結果が報告されていました。
秋好:確かにエンジニアの話でいうと、スマホアプリを作る時に0bjective-Cのエンジニアってのがいるんですけど、7年前はそういうエンジニアって存在しなかったですしね。
複業は企業にも良い効果をもたらす | 海外企業の事例から見えてきた複業のメリット
秋好:先ほどは複業時代の到来が遅いとのお話がありましたが、実際にパラレルキャリアを実践する人はいますか? そういう流れって来ているんでしょうか?
安藤:私の結論は確実に来ている。そもそも、「パラレルキャリア」という言葉が生まれる以前から、複業的な働き方をする人は一定数いただろうし、ただ特段メディアに注目されていなかっただけだと思いますよ。
例えば、地元の商店街に外見は布団屋さんなんだけど、名前は◯◯商店で、奥のほうに行ったら文房具も売っていたりするお店がある。そのお店ってメインは布団かもしれないですけど、布団だけじゃないので、村山商店だと思うんですよ。村山さんがやっているので。
そういった意味では私は「安藤商店」なんだと思います。今までメディアに注目されてきていなかっただけで、このように存在はしていたわけで、企業が複業を積極的に認めだしたのは、すごくいい傾向だなと思います。
秋好:今までと何が変わったのでしょうか?
安藤:会社の都合もあったのではないですかね。複業禁止にしないほうが、会社にとって都合がいいこともあるのだと思います。この頃、よく言われる3M社とプログレの15%ルールや20%ルールとか注目されてますし。
実際に15%ルールで生まれたのが、スリーエムの「ポスト・イット」。20%ルールだとgoogleのGmailなどです。
だから、自分の研究領域の狭さから一歩外に飛び出していった時に、今まで生まれなかった新しいアイデアや実績が出てきて。それで、会社も「まあ、やってみようか」と思い始めているんじゃないでしょうか。
既存の働き方にメスを入れる。複業で広がる個人の可能性。
秋好:この複業、パラレルキャリアだとコンサルティングをしたり、記事を執筆したり、テレビに出演したりと複数の違った仕事をすると思うのですが、この働き方の良さは何がありますか?
安藤:やっぱり、まず楽しいですよね。それが割と大事なことだと思うんですけど、1つのことを極め続けるのは職人気質の人だったらともかく、私のような飽きっぽくて、こらえ性のない人間にとっては日々、3つ4つの仕事があるのってやっぱり楽しいんですよね。
しかも全て1人で完結するわけじゃない。これは、ランサーズさんも同じだと思うんですけども、「自分できないことはチームを組んで解決する」。これを私は「ルパン三世式ワークスタイル」と呼んでいます。
秋好:ルパン三世?
安藤:そう。プロジェクトごとに集まって終了したら解散する。割と楽しいですよね。さらにいうと、先ほども言ったようにアイデアが生まれる。あの人がこんなことを言ってたけど、それを応用したら面白いことができるんじゃないかといった感じで。
で、もう1個は、複業によって他の可能性に目覚めることができるというのは大きいと思います。私がフリーランサーとして生きる指針となったフランス人哲学・経済学者のジャック・アタリの『21世紀の歴史』という本があるんですが、本の中でこれからの経済とか国の栄枯盛衰とか、ビジネスなどいろんなことを予測しているんですよ。
彼が指摘しているのは、「人間の幸せは、自分がまだ気づいていない才能を目覚めさせること」ということ。みなさんの中にも1つの仕事や複業をされている方もいらっしゃると思いますが、いつもアタリの指摘を思うんですよ。
たまたま、秋好さんはランサーズの創業者であり、皆さんはそれぞれの仕事であったり、学生だったりしていますが、別の環境に身を置いた時に、全く違う才能がもしかしたら目覚めるかもしれないと。環境要因が人に与える影響ってすごく大きいと思いますよ。
私も今までテレビのコメンテーターをやって「ソーシャルメディア」を「ショーシャルメディア」と間違えて全国で恥をかいたり、いっぱい失敗をしてきました。でも、いろいろなことをやっていくうちに自分の才能が開花してくる部分もあるのかなって。これも複業ならではの幸せだと思います。
秋好:つまり、1つの仕事だったら1回のバッターボックスしか立てないけれど、複業を行なうことでバッターボックスに何回も立って、才能を開花させることができるかもしれないということですね。
安藤:はい。で、もう少し言うと、私は複業において「キャリアアップ」っていう言葉がピンと来ないんですよ。私はキャリアアップって仕事のスキルを高めていくとか、より高いポジションとか、高い報酬とか、そのようなことを多面的に言い表した言葉だと思うんです。そこで、私は自分のキャリアを「キャリアスライディング」と名付けています。
キャリアアップにおける「アップ」とは、山登りに例えると頂上を目指して勝負すること。一方、キャリアスライディングとは、別に山の頂上を目指しているわけではないんです。途中ですごい寄り道をしたりとか、こっち面白そうだなと思って、別の山に登ってみちゃうとか。
横にスライドすることを目的としているので、高度の高い低いは目指していないんです。そのほうが、今自分が興味があることとか、環境の変化によって、もっと柔軟に仕事自体を変えていく生き方に繋がっていくと思う。すごい自分の職を極めるというよりも、ライフステージに合わせて、いろんな仕事をやるという。
秋好:スライディング?
安藤:スライディング。山を登んないという。少なくとも私はキャリアアップは目指していないです。一生、素人でいいと思ってます。
複業の良い部分、そして乗り越えていかなければいけない課題
秋好:魅力溢れる複業ですけど、じゃあ誰にもなれるわけではないと思うんですね。怖くてあと一歩踏み出せなかったりとかあるじゃないですか? では、なんで安藤さんは「海外行ってみよう」「私の人生もう一度チャレンジしてみよう」って思えるんですか?
安藤:私には私のやり方があるんですけど….実は昨日、母親に電話をして。
秋好:お母さんに?
安藤:「お母さん、私は海外に出るよ!」って宣言をしたんですよ。私、もう一段階行くわって。そしたら、お母さんはちょっと黙って、「みいちゃんらしいわね」って言われました。
秋好:つまり、宣言するってことなんですかね。
安藤:宣言はしますね。腹をくくるというか。私もだいぶ大人になったので、そろそろ落ち着いたほうがいいんじゃないかなという声もあるんですけど、「落ち着いてたまるか!バカヤロー!」みたいな気持ちになって。
去年までは気持ちはざわざわしていて、しんどかったですよね。忙しくもありますし、それ以上に周りと比べてしまったり、いろんな失敗に結構くよくよして、今日は仕事したくないなって日もありました。
楽しみにはしていたけど、本当はやりたくないっていう仕事が結構多かったんですよ。で、今年になって東京だけじゃないヨーロッパとかオーストラリアとか東南アジア、アメリカと移動していくと東京の周囲の声があまり気にならなくなったんです。
秋好:気にしなくなった?
安藤:はい。だからこそ、もう一度、新しいことというかもっと大きなことをやってみたいなと素直に感じるようになったんだと思います。
秋好:それは海外に行ったから、スタンスが変化したんですか?
安藤:私の場合はあると思います。複業にはいいことがたくさんある。まず、楽しいし、経済的にもリスクヘッジが取れるし。一つに依存しないということは安心感にも繋がっていくし、たくさん友達もできます。ただ、不安もそれなりにあって。
秋好:どんなものですか?
安藤:まず、1つのことに集中する以上に、いろいろなことを考えなきゃいけない。私の場合は官公庁というお堅いところから、ファッション系の割とクリエイティブなところまで。
加えて、去年は大学の専任講師をやっていたので、あちらでは筋が通せてもこちらでは筋が通せないというようなことがよくありました。だから、すごくストレスもあったし、メディアで発信することも多いので、人に怒られることもありますしね。
なので、割と複業って気をつかうなって思います。やっぱり、「何でも中途半端にやるからダメなんだよ」って言われがちですしね。
かつて複業の人たちが怪しく見えた原因って多分、その部分が理由だと思います。1つのものだと稼げないから、2つも3つもやっているのかなって。でも、実際そういう人はたくさんいますし、私もかつては同じでした。なので、仕事に集中する以上に、周囲の疑いの目には答え続けていかないと周りの人は納得しないと思います。
近い将来、僕たちの働き方はより自由に変化していく
秋好:複業のデメリットでいうと時間がなくなる、追われる、コントロールできなくなるという印象がありますが、いかがですか?
安藤:秋好さんは時間ありますか?
秋好:僕ですか? あんまりないですね。会社経営なのでいろいろとやることは多いんですが、とはいえ、1つだけ。安藤さんの場合、いろいろとやられているじゃないですか。脳の切り替えがすごくうまく出来ているのかなと。
安藤:うまくできていないと思います。でも仕事がないほうが不安ですけどね。まあ、忙しすぎてもいけないので、今年はちょっと仕事をゆるくしているつもりです。
秋好:仕事の数を減らしてというのは、海外にチャレンジするために?
安藤:はい。新しいこともそうだけれど、別のことで忙しかった。私の仕事、つまり知的生産の場合、1つ何かを書くにも、対談をするのにも、何冊も何冊も本を読んだりとか勉強をすることが必要じゃないですか。
その時に時間がないんですよね。去年までは時間の使い方が下手だったこともあり、忙しくなったので、今年は休みたいなと。
秋好:なるほど。でも、その休み自体も知的生産活動のためになるということもありませんか?
安藤:それはありますね。
秋好:最後に今回の安藤さんのトークセッションをお聞きしている方の中で、複業に興味がある、やってみたいなと思っている人も多いと思います。その方達に何か一言アドバイスするとしたら何かありますか?
安藤:じゃあ、私の言葉ではないですが、ぜひ読んでほしい本があるのでご紹介します。リンバー・フラットマンの『ワークシフト』という本です。すごい名著なのでぜひ読んでください。
「2025年にもっと人が自由になる。孤独と貧困から自由になる働き方を」という副題がついていて、簡単に説明するとマイクロ起業という一つの生き方・働き方について紹介されていました。今後の私たちの未来は、本に書いてある方向に進んでいくと思います。
次の未来の働き方のヒントがたくさん散りばめられていますので、ぜひ皆さんご拝読ください。