世界規模で起きている、働き方の変化を探る |代官山蔦屋書店トークセッション

世界規模で起きている、働き方の変化を探る |代官山蔦屋書店トークセッション
『1億総クリエイター時代の働き方の未来』をテーマに、代官山蔦屋書店内でトークショーを開催しました。ビジネスシーンにとどまらず、社会全体で”クリエイター”の存在に注目が集まっている現代。クリエイターの働き方をもとに、『世界と地域』『マクロとミクロ』の視点で働き方の変化について考えます。
LANCER SCORE
294

1億総クリエイター時代におけるクリエイターの存在意義とは?

7月25日(土)に流行と文化の発信地・代官山T-SITEで開催された『クラウドソーシングで変わる、新しいクリエイターの横顔。』フェア。関連イベントとして、世界と日本のクリエイターの働き方の変化についてトークセッションが実施されました。世界のクリエイター事情に関しては、雑誌 『WIRED』のエディター/ライター・小谷和也さんに欧米企業のクリエイターの働き方の変化について。日本のクリエイター事情に関しては、サイバー大学教授の勝眞一郎さんに、奄美大島の「フリーランスがもっとも働きやすい島化計画」の内容と紐づけてお話いただきました。

現在は「1億総クリエイター時代」という言葉が生まれるほど、クリエイターへの注目が集まっている時代。いったい、世界と日本で働き方にどのような変化が起きているのでしょうか?

テーマ:『1億総クリエイター時代の働き方の未来』
■ パネラー
・雑誌 『WIRED』エディター,ライター 小谷和也 氏
・サイバー大学教授 / 奄美市情報通信産業インキュベーションマネージャー 勝眞一郎 氏

■ モデレーター
・ランサーズ株式会社 代表取締役 秋好陽介

1億総クリエイター時代の到来を考える

秋好:1億総クリエイターという言葉を聞いたことがある方って、どれぐらいいらっしゃいますか。いわゆるデザインがクリエイターだけでなくてですね、何か新しいものを考える、企画する人のことをクリエイターと定義して、「1億総クリエイター時代の働き方の未来」というテーマでセッションさせていただきます。

まずはパネリストから簡単に自己紹介を。

小谷:WIREDの小谷と申します。WIREDの看板を背負わせていただいていますけども、立場としてはフリーランスです。例えば、『BRUTUS』だったりとか、『GQ』だったりとか、『Pen』だったりとかでも原稿書いているし、編集していますし、ページを作っています。

大学を卒業して、いくつかの出版社で働いていました。そして2009年、ちょうどリーマンショックで一番厳しいときだったんですけど、そのときに追い出されたと言うか、フリーにならざるをえなかったと。何となく生き残ってきたので、この先も大丈夫だろうって。

勝:勝と申します。私もフリーランスと言えばフリーランスで、サイバー大学というインターネットの大学の教授をやっています。そこは1年契約なんですね。毎年、毎年、どういうことをするから幾らもらうというふうにやるんです。

二つ目に、製造業のコンサルティング、業務改革とかもやっています。三つ目が、奄美市の情報通信産業のインキュベーションマネージャーというのをやっています。

秋好:私も簡単に自己紹介させていただくと、クラウドソーシングのランサーズという会社をやっております。最初は鎌倉に本社を置いて、カマコンバレーという団体の立ち上げをやっていたりするぐらい、ライフワークとして地域にかかわっています。

それが功を奏しというか、行き過ぎまして、実は昨日、地域創成ベンチャー連合というものを立ち上げました。ベンチャーの力をもって、地域にイノベーションを起こそうというふうな取り組みを始めた秋好です。

クリエイターが企業を変える、世界を変える

_DSC7502

秋好:セッションに入る前に、今、日本で何が起こっているのか、今後何が起こるのかというのをご紹介できればと思います。

インターネットが出てきてですね、IT革命とか、情報革命って言われますけど、Googleさんで言えば探し方。Amazonなら買い方。Appleさんがアプリというもののサービスのやり方。Facebookさんで言うと、人とのつながり方について、イノベーションを起こしています。

では、働き方に関してはどうか。まだまだこれから、インターネットによって大きくイノベーションが起こる可能性があるんだと思っています。例えば、クラウドソーシングというものが、ITを使って働き方にイノベーションを起こそうとしている。

クラウドソーシングで働いている人って、2008年ぐらいには、1人もいなかったんですよ。ところが今この瞬間、ランサーズ単体だけを見ても、1万人ぐらいが毎月コンスタントに報酬を得ていて。登録する人は今年で100万人になる。それぐらい大きなムーブメントになっています。何が言いたいかというと、たった数年で働き方が変わってきているという状況があるんです。

じゃあ、何で、国は今、地方創生と言っているのか。地域から東京に人口が流出していって、東京に行っても出生率って何と1.15%。人口が減るスパイラルができていってしまっているんですね。そこに対してクラウドソーシングを使って仕事を依頼する企業というのは、半分以上東京です。仕事をする個人の方は、7〜8割が地方の方なんですよね。

つまり、東京の仕事が地方に再分配している、インターネットを使って世の中に起こっている人の流れと真逆のことを起こしているのが、クラウドソーシングの非常に面白い姿なんじゃないかなと思い紹介させていただきました。

では、ここからディスカッションを進めてまいります。まず小谷さん。世界の視点から働き方を考えると、ここ10年くらいでいろんなトレンドが生まれてきましたよね。

小谷:2年前の僕がやった特集で、未来の会社について発表したものがあります。例えば、アメリカとかイギリスで顕著なのが、エンジニアやデザイナーの方がプロジェクトリーダーだったりとか、組織のトップとなっての成功例が増えてきました。

それはなぜかと言うと、ビジネスオンリーな人ではなく、クリエイティブマインドがある人が、組織のトップに立つことによって、プロジェクトがすごい勢いで推進されて、成果が出るということなんですよね。

すぐプロトタイプを作って、すぐサービスを出して、どんどん改修していくといスピードが求められています。それができる体制を作っているような会社だったり、組織だったりっていうのが、立ち上がってきているんじゃないかと思います。

最近ので言うと、airbnbを作ったBrian CheskyというCEOの方はロードアイランドスクールオブデザイン大学出身、つまりデザイナーなんです。デザイナーがビジネスのスキームを作っていくのがすごく実験的で。しかも新しい驚きみたいなものを組み込んだサービスが、世界を変えているという事実があります。

秋好:昔ですと、エンジニアが事業をするというのは、ちょっと考えられなかったですよね。でも、最近増えてきて。とはいえ、クリエイター、デザイナーが社長をしているケースって、エンジニアに比べるとあんまり多くないかなと思うんですけども。

小谷:例えば、ネクサスのプレジデントの方はデザイナーさんだったりします。他にも、自動車メーカーのマツダというのは、すごく格好良いプロダクトを出すようになりました。それは、前田育男さんというデザイナーの執行役員が、すごいぎゅんぎゅん引っ張ってる。そのデザインでドリブンさせているみたいなのは、すごくあるんじゃないかなって思いますね。

日本にそういう企業は多くないですけども、クリエイターが役員になって物をつくるということは、競争優位性になるんですかね。

勝:まさに。私の前職はヤンマーなんですけど、社外取締役に工業デザイナーのKen Okuyamaさんが入ってるんですよ。会社の100周年で社屋をリニューアルした際、クリエイティブディレクターは佐藤可士和さんでしたし。

秋好:じゃあ、日本も変わり始めている、先進企業は取り入れているということなんですね。

上司がいない会社、週4日しか働かない会社で成果を上げる

_DSC7490

小谷:世界で取り入れられている先進的な会社の人事、組織という話ですと、WIREDの特集で出てきたところなんですけども、上司がいない会社というのも出てきています。フリーランスだったら、上司がいないのは当たり前かもしれませんが、会社組織でありながら、管理職がいない。

特集した企業では、一人当たりの利益率が、アップルとかgoogleよりも高いみたいで。50人ぐらいの会社なんですけども、働く時間を絞ることによってむしろ効率が上がるという、それはマネジメントの力もあると思うので。

日本でも取り入れているところがあるのかもしれないんですけども、まだまだ少ないですよね。プロジェクト単位とかで、どんどん小谷さい組織から始めていくと、可能性が広がるんじゃないかなと思います。

やっぱりそれこそ、インターネットになって世界中のことがすぐに知れる状態なので、「あれ、うちの会社、頭、堅くね?」というのは、すぐにわかっちゃいますから。

秋好:管理職を入れない、週4日だけ働くって、「本当かよ?」って感じると思うんですけど。具体的にどういう仕組みになっているかというと、プロジェクトマネージャーはいるけど、その人が評価をするわけじゃないよという。

まさに、勝先生が教授をなさっている高度なプロジェクトマネジメントですね。

勝:そうです。最初に評価軸が決まっているから、誰が評価してもいいわけなんです。必ず上司が評価しなければいけないというのではなくて、評価軸がみんなオープンになっていれば、もう、誰もが評価をできる。

クリエイターの活躍の場を地域に見出す

_DSC7497

秋好:世界規模で見た、先進的な取り組み、働き方について伺いました。次は、世界から地域、とくに奄美というミクロにフォーカスしていくんですけど。

勝:昔は、奄美ってどこですかって、伊豆大島と一緒にされたりしてたんですけど。これもネットのおかげで、だいぶ知られるようになってきました。鹿児島県の本土と沖縄の間ぐらいです。

去年の夏からLCCが飛ぶようになりまして。5000円から一番安いときで1480円。東京駅か成田まで1000円のバスで行って、そこから1480円で飛んで2時間15分。

離島の中でも直行便があるかないかって、すごい経済にインパクトがあるんですね。仕事もすぐ羽田に着いて、成田に着いてできるということで。それが奄美という場所です。

奄美市の産業政策で、観光と農業と情報通信の3本柱で攻めていこうということで、情報通信を盛んにやっているわけです。既に、Iターンとか、Uターンのクリエイターというのも、年々増加しています。

グラフィックデザイナーとか、あとは、Uターンで、アウトドア系の仕事の方だと、特徴的なのが、Patagoniaってショップありますよね。Patagoniaの社員の方が、自分たちの趣味がアウトドアですから、仕事でやってきて。で、辞めて奄美に定住するみたいな。創業者のイヴォン・シュイナードも来られました。

島が魅力的、暮らしが魅力的ということで来る。じゃあ、ここで仕事できるかというと、課題がいくつかあります。

ひとつはネット環境。光が入っているのは、半分ぐらいですね。あとはADSL。

教育機関については高校までしかないので、大学に行くときに、18の春と言いますけども、若者たちが島から出ていきます。

これらの背景があって、行政としては画期的な政策名の「フリーランスが最も働きやすい島化計画」という政策を打ち出しました。フリーランス支援窓口という係ができたのも、多分、日本の行政で初めてですね。

小谷:具体的にはどういう支援をしてくださるんですか。

勝:仕事環境については、ランサーズと提携して、都会の仕事の取り方を教えますという教育機会であるとか。あと、住むところが大切なので、空き家バンクという宅建業会と組み、来た人たちに紹介をしたりとか。

あとは、ライティングの教育とかランディングページの作り方とかも教えていきましょうと。

小谷:僕もちょっと行ってみるかもしれません(笑)。

勝:今日の目的は、小谷家移住計画を立てるということに(笑)。小谷さんの今日の服装、奄美市的には正装ですし。

秋好:どうですか。奄美でWIREDの記事を書いて定住したり。

小谷:働き方としてはちょっといいと思いますし。かなり気分よくなるんじゃないかなと思いますけどね(苦笑)。

勝:既にこういう動きがある、という実例を紹介しますと。フリーでやっている人たちが集まって、Shall we Designという社団法人立ち上げました。地域のガイドマップを作ったり、あとはパッケージングですね。

普通ですと、沖縄でもよくあるアンダーギーを、普通の袋に入れて売るんですよね。パッケージするとお金高いから。それをこのチームがしゃれたパッケージングをして、買っていけるようにと。パッケージ代が倍ぐらいするんですけど、それでもやっぱり、かなり売れていますね。

クリエイターを活かすために行政を動かすプロデューサー

秋好:勝さんは今、奄美だけじゃなくて、東京にもいらっしゃますし、いろんな地域、島にも行かれてますよね。

新しい働き方とか、ITを使ってというときに、うまくいっている地域、例えば神山町のようなところもある一方で、なかなか、うまくいかないところもあるじゃないですか。そこの差って、どこに差があるとお考えですか。

勝:多分、若い人たちを盛り上げようという気があるかどうかで。その取り組みを新聞社とか、テレビ局が取り上げて、「いいよね」という空気感を作っていく。

隠岐の海士町とかでもそうですね。山内町長が、若い人のチームでやらせてみて、自分が盾になるからという感じでやってくれるので。やっぱり、若い人を年配の人が抑えつけるのではなく、持ち上げるような動きがあれば、日本ってまだポテンシャルがあると思っています。

秋好:僕がいろいろ自治体とか行く中で、勝さんのような、熱い思いを持って「奄美変えたいぜ」という、地域のアクセラレーター的な方がいる地域はうまくいっていると思うんですね。行政からすると、ちょっと面倒くさいじゃないですか。何か新しいこと言うし、既存の仕組み変えろと言うし。

勝:やっぱり、行政の文脈ってあるんですよ。こういうふうに進めるとやりやすい、予算はこのときに入れてくれるとやりやすいとか。総務省からこういうのを言ってきているから、これに合わせるとやれるという。

そこの会話に一緒に入っていって、相手方がやりやすいように進めていくと、向こうもハッピーだし、われわれも、若者もやりやすいという感じなので。

小谷:それってデジタルサービスなんかと同じだと思うんです。全く新しいサービスとかを、すごい画期的だよねって作っても、実は売れなかったりとかもするし。

実際受け入れられているものって、今まであったものをちょっとだけよくする、リプレイスメントするものってするじゃないですか。それが、テクノロジーがちょっと助けるもの、今までのビヘイビアを、テクノロジーでちょっと助けてあげるものが、多分、すごく浸透するんだと思うんです。

やっぱり、行政に対して新しいことやりましょうというよりは、彼らとコミュニケーションをとって、お手伝いするようにやっていくというのがすごい重要だし。

アクセラレーターやプロデューサーというのが、すごく重要だし、日本の弱いところだと思います。クリエイターの方はいっぱいいるし、クリエイターに何か発注したいお金持ってる企業もたくさんある。

そこを上手くつなげられていかないし、日本のクリエイティブが世界に出ていくときにも、現地にアクセラレーターとかプロデューサーがいないというところでローカライズできていない。

日本のクリエイティブが、ちょっとどんづまっている1個の理由かなと思うので、先生みたいな…少し煙たがられるようなことを言ったりするって、すごく重要だなと思いますね。

勝:やっぱり、SNSとか大きいですよね。こういうのどうですかって持っていっても、受け入れないときに、周りが『いいね!』『いいね!』ってすることで、「みんながすごいって言っているからすごいんだ」というふうに受け入れられる。

秋好:それは大きいですね。大企業の中で新しいことをするときにも、結構、上司に直接持っていくよりも、メディアが良いと言ってるほうが後押しになる。

小谷:よく使われますよね、そういうメディアに。「WIREDに載っているんだから大丈夫ですよ」みたいに(笑)。

世界、日本で起きている新しい働き方

_DSC7499

秋好:新しい働き方というところを世界の日本、地域という観点で、すごく短い、駆け足でお話いただきました。大変難しい振りをしているのは、重々承知なんですけども、一言、お二方からまとめのような話をいただければなと。

小谷:クラウド違いですけれども、Googleはクラウドコンピューティングというのをやっているじゃないですか。その恩恵に誰があずかれるかと言うと、多分、女性だと思うんですよ。

女性の方って、結婚などの機会があって、優秀な方が仕事を辞めざるを得ないことも多いと思うんです。でもすごくテクノロジーの環境が整っているので、仕事に復帰できる可能性が、ちょっとの時間でもいろいろな貢献ができることも、すごく多くなりました。受け入れ側の体制、感覚を変える必要があると思うんですが、1000万人ぐらいの労働パワーがある。

女性の方が活躍し続ける時代というのは、クラウドソーシングを通じて変わってくるんじゃないかと思います。

勝:なぜ、奄美大島を推しているかと言うと、自分の故郷でもあるんですけども、やはり離島をどうやって活用して行くかという問題を解決したいんですね。

離島、日本にいっぱいあります。日本自体が離島でもあるんですけども、そこの地域の力を活用することで、日本全体の可能性を広げられるだろうなと。

最近の私は、『どこででもできる仕事、ここでしかできない暮らし』というキーワードを連発しているんですけど。こういうテクノロジーによって、どこででもできる仕事が増えているのは素晴らしいですよね。

秋好:ありがとうございます。

今日のセッションで、週4で管理職がいないと聞くと「本当にできるの?」とか「優秀な人がいるだけの会社じゃないの?」って思うかもしれません。

地域で働くというのも「本当にできるの?」という意見もあるとは思うんですけども、間違いなく、ITの登場によって急速に拡大している。これは、未来から見ると普通になっていると思うんですよね。

例えば、2030年のことを考えると、奄美大島にはフリーランスが1000人いるかもしれないし。それを今、先取りしてる人がいたり、企業の制度を取り入れていたり。

この新しい働き方や組織のあり方が、個人でも企業でも競合優位性になるかもしれない。そういう観点で、働き方の変化、多様化というものをとらえればいいんじゃないかなと思います。

<トークセッション1 おわり>※近日、地域でフリーランスとして活躍中のクリエイターを招いたセッション第二部の様子を公開いたします。

RECOMMEND
関連記事